リアルサウンド連載「From Editors」第98回:なぜ“帝劇”に愛着を感じるのだろう 帝国劇場展に行ってきた
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
なぜ“帝劇”に愛着を感じるのだろう
帝国劇場が2月に閉館を迎えました。実は、私が初めて観た舞台は帝国劇場で上演されていた『1789』の初演。オーケストラの演奏でたくさんの人が豪華な物語を作り上げるグランドミュージカルに衝撃を受けて、そこから映画よりも舞台を観るようなライフスタイルになります。小劇場作品も観ますが、好みなのはゴージャスなミュージカル作品の方で、さまざまな劇場の年間スケジュールと自分のスケジュール帳を見比べる日々です。(余談ですが、timelesz新メンバーとして話題の寺西拓人さんの姿を私が観たのも帝国劇場作品でした。 立ち姿が綺麗だった人と記憶しています。加入おめでとうございます!)
他にも好きな劇場はいくつもありますが、やはり帝国劇場は特別な場所です。『1789』から何年も経ち、何度も観劇していますがそれでも独特の張り詰めた空気、日常と切り離された特別な時間は帝国劇場ならではであるように感じます。
そんな帝国劇場の歴史やゆかりのものが一挙に公開されているという『帝国劇場展~THE WORLD OF IMPERIAL THEATRE~』が銀座三越 新館にて開催されるとのことで、早速足を運んできました。
まず会場の外に置かれているのは見慣れた「帝国劇場」の看板と本日の公演案内。BGMには帝国劇場を彩ってきた名曲の数々が聞こえてきます。


会場内に入ると、座席の椅子や、座席表といった見覚えのあるものはもちろん、帝国劇場名物の着到板、差し入れのスペースというような役者の話からしか聞いたことのないようなものも展示されています。特に差し入れのスペースはアンバサダーである井上芳雄さん、森久美子さんからの差し入れというていで展示がされてあり、もちろん持ち帰ることはできないのですが、思わぬ発見に自分が差し入れをもらったような嬉しさがありました。
もう一つ、私が嬉しかったのは帝国劇場の楽屋が再現されていたこと。よく話に聞いていた楽屋暖簾や化粧台が置かれていて、会場の皆さんが思い思いに帝劇俳優になりきって(?)過ごしていたのも面白かったです。
他にも『マイ・フェア・レディ』イライザ(大地真央さん)や『エリザベート』のエリザベート(花總まりさん)が着ていたドレスなども展示されていて、劇場ではもちろん、舞台写真でも見たことがあるものでしたが、直接見るとものすごく緻密に作り込まれていて、レースやリボン、スパンコール一つひとつから並々ならぬこだわりを感じます。
貴重なものをたくさん見ることができて、「こうなってたんだ」「こんなに大きかったんだ」というような発見が多い今回の展示。しかしふと「初めて見たような気がしない」という感覚があることに気づきます。それはきっと数多くの俳優がさまざまなメディアを通して帝国劇場での過ごし方について話してきたからでしょう。木製の着到板はミュージカル好きならば誰でも見たことがあるほど有名なものですが、帝国劇場の着到板ほど有名な着到板はないような気がします。もちろん、劇場自体のコンテンツ化が上手いという部分もあると思いますが、それ以上に俳優自身がこの劇場を愛していたからこそ、観客も特別な場所として愛着を持たれていたのだと思います。多くの舞台俳優が目標の場所として掲げ、伝統を受け継いでいったり、まったく新しい作品を作り上げたりしてきました。この帝国劇場が特別な場所なのは観客だけではないのだと再確認できる展示になっていました。
新しい帝国劇場は2030年度竣工を目指しています。コロナ禍以降の数年間でかなり大きく変化した日本ミュージカルですが、新しい劇場が完成する頃にはどのようなスターが誕生しているのかが楽しみですし、そんな彼・彼女らが引き続き愛してくれるような劇場になっていることを願っています。
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