リアルサウンド連載「From Editors」第92回:面白さに目的や理由を求めないということ――『さくらももこ展』へ行った
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
面白さに目的や理由を求めない“さくらももこ”という人間
2025年になって2日目、森アーツセンターギャラリーにて開催されていた『さくらももこ展』に行ってきました。
「年始すぐなのでそこまで混んではいないだろう」と思っていたのですが、会期終了直前だったのもあって、なかなかの混み具合でした。

『ちびまる子ちゃん』をはじめ、まんが家、エッセイスト、作詞家、脚本家など、たくさんの顔を持つさくらももこ。展覧会は、「さくらももこができるまで」という序章に始まり、少女時代に書いた卒業文集の作文や私物、19歳のデビューから直筆原画や手書きの原稿、個人的に書いた/描いた作品まで、約300点ほどが展示されていました。
さくらももこは、18歳で『りぼん』(集英社)に初投稿し、その後作家としての道を歩み始めます。初めてのカラー扉絵や『りぼん』の表紙号、付録など、女の子心をくすぐるアイテムがたくさん展示されています。『りぼん』表紙には、矢沢あいや吉住渉、柊あおいなどの名前も並んでいました。私自身はリアルタイム世代ではないのですが、中高生時代に読んだ作品たちの名前をまさかここで目にするとは。再会とも言える懐かしい作品たちに思わず触れられたのは予想外でした。「ちゃんと読み返してみよう」とあらためて思いました。
ふとした落書きから誕生した『コジコジ』も、個人的に大好きなさくらももこ作品のひとつです(ほんとうにどうでもいい話なのですが、私の寝巻きは数年前に発売されたLABRAT×COJI-COJIのTシャツです)。1991年に生まれたコジコジは連載に始まり、絵本、漫画、アニメ、近年では舞台化まで発展しています。
コジコジは宇宙の子で、男の子でも女の子でもない、不思議な生き物です。コジコジに貫かれる「コジコジはコジコジ」という概念。一人称がどこまでも「コジコジ」という固有名詞であることこそが、さくらももこの頭のなかを表しているよう。彼女の息子の三浦陽一郎が本展に寄せて綴っていた「母は理屈っぽい私とは対照的に直感で動く人間だったので、面白さに目的や理由を求めず、ただただ突き進んでいたのかもしれません」という言葉も、どこまでもコジコジ的だなあと思うのです。

『もものかんづめ』(集英社)の直筆原稿用紙が大きく展示されているのも、この展覧会の大きなポイントです。さくらももこの字というのは、私にとってひとつの憧れでもありました。丸っこいのかカクカクしているのか、よくわからないけれど、誰が見ても「さくらももこの字だ!」とわかる字。小学生の頃から硬筆やら習字やらを習っていた私の字はなんというか生き急いでいる字で、あんまりかわいくない字なのです。だから、“さくらももこの字”というのは、ちょっとした憧れだったんですね。原稿用紙に書かれた字さえ、ちょっぴりのんびりしているようで、ここに彼女の感性が透けて見えるようでした。

図録には、展覧会で展示されていた作品群はもちろん、たまちゃんこと穂波珠絵による“ももちゃん”(“さくらももこ”ではなく“ももちゃん”)についての話、昨年急逝したTARAKOが生前に寄せたメッセージ、「深夜にそのへんの紙でFAXを送り合うのが常だった」という吉本ばななによる寄稿なども収められています。四六判という図録にしては少し小さめのサイズ、そしてさくら色のハードカバーもとてもかわいいです。
グッズもたくさんあって、私自身、展覧会では図録以外の買い物はしないようにしているのですが、今回はひとつだけ買ってしまいました。寿司湯呑み。それくらいキュートなグッズたちなのです。

2022年11月にスタートした『さくらももこ展』は、このあと鳥取、新潟をまわっていきます。
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