『メダリスト』の物語に収まらない米津玄師の巧みな隠喩表現 「BOW AND ARROW」が真に描くものとは?
TVアニメ『メダリスト』(テレビ朝日系)のオープニング主題歌である米津玄師の新曲「BOW AND ARROW」が、1月27日に配信リリースとなった。
昨年末に米津側からの“逆オファー”という起用の経緯が発表され、話題騒然となった本作。1月20日に配信された劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』主題歌「Plazma」同様、特にサウンド面に関しては「自身の音楽制作の原体験への立ち返り」を意識して制作されたことが、すでに彼の口からは明かされている。(※1)
重ねて話題を集めたのが、やはり曲名「BOW AND ARROW」に落とし込まれた『メダリスト』という作品への“解釈の深さ”だ。タイトルに冠された“弓矢”は、まさしく作中のW主人公となるフィギュアスケートコーチ・明浦路司とその教え子・結束いのりの象徴であると早々に気づいた人も多く、米津のリスナーのみならず従来より『メダリスト』原作を愛する読者からも、その解釈の深さに絶賛の声が挙がっていた点も印象深い。
思い返せば米津はこれまでも楽曲起用の際に当該作品へ対する解釈の深さを評価されてきた。それはひとえに、彼の各作品への真摯な敬愛と高い言語化能力があってこそなせる技でもある。
そこで本稿では彼の言語能力の高さを支える一要素、隠喩を用いた表現の秀逸さにスポットを当ててみたい。一定の対象を直接的にほかの物事へ喩える手法、隠喩。そもそもが強烈なインパクトを与えることに長けた表現手法だが、これまでの楽曲群においても、彼は様々なメタファーをダイレクトに曲題へ据える手法をよく用いている。
直近作の中でも、特にそれが顕著だったのはやはり「がらくた」だろう。多角的な視点をもって、欠けたもの/壊れた部分を持つ人間をそう具現した本曲が、結果として映画『ラストマイル』とともにどれだけ大勢の元に届いたかは周知の通り。
また、近年の活動の中でも特に大仕事となったジブリ映画『君たちはどう生きるか』の主題歌でも、彼は本作が内包する映画監督・宮﨑駿の生き様と創作への願い/祈りを、己のフィルターを通して「地球儀」という曲題へ落とし込んだ。今や世界に誇るジャパニメーションの祖として、そして幼少期に自身の価値観≒世界を形成したクリエイションの生みの親として、米津から宮﨑への深い敬虔の念も、その比喩からは窺える。
さらに2023年、日本語詞史上初のアメリカレコード協会(RIAA)によりゴールド認定を受けたアニメ『チェンソーマン』(テレビ東京系)オープニングテーマ「KICK BACK」。チェンソーの悪魔である主人公・デンジの隠喩として、チェンソーが暴発的に作業者へ跳ね返る現象を曲題とした秀逸なワードセンスは、いつ目にしても表現の妙に思わず唸ってしまう。
だが、彼の比喩描写に対する高い感度の片鱗は、遡れば2017年発表の「砂の惑星」でもすでに如実に表れていた。フランク・ハーバートによる同名小説も由来のひとつとなっているが、これは当時ユーザーが大幅に減少していた自身の“昔よく遊んだ公園”=ニコニコ動画のメタファーでもある。本来なら華々しい機会となるはずの初音ミク10周年イヤーの一大イベントに、過疎化した砂漠の描写を想起させるタイトルの曲をテーマソングとして据えたことへの賛否両論は、確かにあった。
しかし〈風が吹き曝しなお進む砂の惑星さ〉と締め括られるように、楽曲の根底にあるのは、米津からシーンを担う次世代クリエイターへの激励だ。道を切り拓いた先人の言葉に多くの人々が奮起し、ボカロカルチャーが「ブループラネット」へと再興したことは、今や大勢の知る話でもある。(※2、3)