米津玄師が讃える無邪気で若いエネルギー 「Plazma」は2020年代ボカロミュージックと向き合った1曲に
米津玄師の新曲「Plazma」が1月20日に配信リリースされた。劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、これまでの米津の音楽活動のルーツや足跡を感じさせると同時に、曲全体から伝わる若々しさのようなものに終始圧倒される1曲だ。
一聴して驚かされるのは、その音数の多さ。多彩な電子音や加工されたボーカルの破片、自由にうねるベースなど、最初から最後までさまざまな音色や音の断片がそこらじゅうで鳴り響き、激しい音の嵐が耳に襲いかかる。その音粒の細かさ、量は、近年の米津作品のなかでも群を抜いていると言っていいだろう。おそらく本曲のパラデータを覗けば、相当複雑な打ち込みがされているはず。非常に挑戦的で野心にあふれる意欲作だ。
米津は先日放送された『ガンダム×ZIP!イチから分かる!国民的アニメ 45年愛される魅力教えますSP』(日本テレビ系)のインタビューにおいて、この曲を制作するにあたって「音楽を作り始めた頃の喜びを再現できないか」「全部一人だけで済ませたらどうなるか」と考えたと明かしている。そして、そうした制作方法を選んだことによって「ある種の自分の無邪気さみたいなものが宿った」と語っていた。その言葉の通り、この曲は作詞・作曲・編曲・演奏・プログラミングに至るまですべて一人で行われ、結果的に、創作することそのものに対する楽しさが伝わるような、いい意味での若さ/瑞々しさが感じ取れるサウンド感に仕上がっている。音楽を作り始めた頃のワクワクを自ら呼び戻すようなーー彼の言葉を借りれば「ある種の無邪気さ」が聴いてるこちらにも湧いてくるような印象を受けた。
米津の「音楽を作り始めた頃」と言えば、ハチとして活動していたボカロP時代を想起せずにはいられない。まさに今作はボカロミュージック的で、メロディや音作りは複雑、かつ再現が困難なほど斬新なサウンドが構築されている。なかでも、全編にわたって繰り広げられるリリースカットピアノの存在は、近年のボカロ由来の作品を容易に連想させるものだ。また、同映画に挿入歌アーティストとして参加する音楽ユニット・NOMELON NOLEMONのメンバーであるボカロPのツミキの諸作を彷彿とさせる特有のメロディラインも随所に見受けられるため、現在のボカロシーンからの影響も多分に受けていると見られる。そういう意味では、この曲は「米津玄師が過去の自分と2020年代のボカロミュージックに向き合った1曲」といった形容もできるだろう。そのクオリティは非常に高く、アーティストデビューから10年以上経った彼が、現在のスキルとセンスで生み出したハイレベルなボカロ系トラックが展開されている。