yamaが紡ぐ人間らしい美しさ 『; semicolon』は“モラトリアム”を経た、新しいスタートを切る重要な一作に

yama『; semicolon』人間らしい美しさ

 3月5日、yamaの4thアルバム『; semicolon』がリリースされた。タイトルになっている「;(セミコロン)」とは、関係のある2つの文章を繋ぐ、あるいは文章を終わらせずに続きがあることを意味する記号。「思い悩んだこれまでの人生に区切りをつけ、再出発を計る」という想いが重ね合わせられている今作は、これまでリリースされた3枚のアルバム、いわく、“モラトリアム3部作”を経たyamaにとっての、新しいスタートラインとなる重要な一作だ。

yama 4th Album「; semicolon」全曲Trailer

 はじめに、これまでのyamaの軌跡である“モラトリアム3部作”について簡単に振り返っておきたい。一言で言うのであれば、それは、インターネットの世界から彗星のごとく現れたyamaが、数々の経験を積み重ねながら歩みを進めていく“人間成長ストーリー”であった。2021年の1stアルバム『the meaning of life』では“歌で一生くっていく”という決意を固め、2022年の2ndアルバム『Versus the night』では、「夜(=自分自身)と対峙する」というテーマを掲げた。そして、2024年の3rdアルバム『awake&build』は、シンガーからアーティストへと変化していく過程で得た“きづき”をテーマにした作品だった。遡ると、2020年にデビューした当時、yamaに対して“謎のベールに包まれた孤高の存在”というイメージを持っていた人はきっと少なくなかったと思う。次第に、yamaはそれまでずっと被っていたフードを外し、少しずつ等身大の姿を明かしながら、リスナーとの開かれたコミュニケーションを重ね始めていった。

 筆者はこの数年間、yamaのライブに何度も足を運び続けているが、yamaのライブに対する考え方やスタンスが次第にオープンになり、それに伴い、制作される楽曲は今まで以上に等身大になったし、歌声は今まで以上に親密さを感じさせる響きを放つようになった。特に印象深いのが、2023年5月に開催された『acoustic live tour 2023 「夜と閃き」』。一人ひとりのファンと出会えたおかげで得られた生の実感を“閃き”と喩え、その輝きが足元を照らしてくれるからこそ、新しい道を一歩ずつ歩んでいくことができるーー『夜と閃き』という言葉に込められているのは、自分以外の他者とともに生きることの意義であり、今もyamaは、ポップアーティストとしてより開かれた存在を目指して懸命に歩み続けている。

yama『新星』Official Live Video (acoustic live tour 2023 “夜と閃き“ at GORILLA HALL OSAKA)

 前置きが長くなってしまったが、“モラトリアム3部作”を経てリリースされたのが、今回の4thアルバム『; semicolon』だ。新しいスタートラインとなった今作は、いったいどのような作品に仕上がっているのだろうか。まず、近年の大きな傾向を表すように、yamaが作詞と作曲の両方を手掛けた楽曲、または、ほかのクリエイターと共同で作詞と作曲を手掛けた楽曲の割合が、これまでと比べて特に大きい。それ故に、アルバム全体からyama自身の等身大なエモーション、パーソナルな心情をありありと感じ取ることができる。また、WurtSとのコラボレーションが実現した「BURN」が今作の一つのピースの役割を担っていることも、とても象徴的であると思う。「BURN」と同じように、作詞と作曲はほかのソングライターに託し、自らはシンガーとしての役割に徹した「声明」「オリジン」「rain check」のような楽曲もある。もともと歌声をきっかけにネット上で発見され瞬く間に広く知られていったyamaの歩みを踏まえると、こうした楽曲は原点回帰的であると言えるし、また、これらの曲はyamaのシンガーとしての成熟がたしかに感じることができる仕上がりになっている。

yama✕WurtS『BURN』Music Video

 シンガーとしての物語、ソングライターとしての物語、その重なり合いの中で、次々と変化/進化し続けるyamaから届けられた今作の中で、筆者が特に心を動かされたのが先行配信されたミディアムバラード「雫(prod. indigo la End)」だった。yamaが作詞曲を手掛け、編曲を兼ねてより交流のある川谷絵音がフロントマンを務めるindigo la Endが担当している。壮大でいて、パーソナル。切なくも儚くて、同時に、ドラマチック。そうした切実なアンビバレンスをたたえた世界観に、yamaの凛とした歌声が美しく溶け合う。

yama『雫(prod. indigo la End)』Music Video

 indigo la Endとのコラボレーションによってこそ実現し得た、yamaの新境地開拓の1曲だと思う。先ほどのほかのクリエイターとのコライトや、シンガーに徹する話にも通じるが、自分の足で逞しく立ちながら、かつ他者としなやかに共同を重ねながら、さらに力強い一歩を踏み出し、さらに遠くへと向かっていく、そうしたアーティストとしての成長を、アルバム全体を通して感じ取ることができた。

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