月詠み、『それを僕らは神様と呼ぶ』を辿る旅 配信ライブ『夢と現』で描いた2ndストーリーの集大成

2020年10月、文筆家でもあるボカロP、ユリイ・カノンが発足した音楽プロジェクト・月詠み。YOASOBIとヨルシカに代表されるように小説と音楽が連動したプロジェクトであり、作品ごとに異なるクリエイターたちと物語と音楽を展開している。2025年2月現在、YouTubeに投稿された動画の総再生回数は2.7億回超え。海外チャートにもランクインするなど、国内外を問わず注目を集めている。
そんな月詠みが2024年に発足させた新章が『それを僕らは神様と呼ぶ』だ。まず4月にトレーディングカードゲーム『デュエル・マスターズ』の新シリーズ『王道篇』スペシャルムービーの主題歌でもある新曲「導火」を発表。発足以降の1stストーリーではミニアルバムごとに1人のボーカリストを迎えていたが、「導火」では新たに2人のボーカリスト、Junaとmidoを迎えて月詠み初のデュエットソングが誕生。センセーショナルな形で新章をスタートさせた。
2025年2月26日には2ndストーリーの集大成であるミニアルバム『それを僕らは神様と呼ぶ』をリリースし、その日の21時に配信ライブ『夢と現』を実施した。『それを僕らは神様と呼ぶ』に収録された8曲をバンドスタイルで披露し、物語を一気に立体的にしてみせたのだ。
配信ライブは、どこかの街の夜景が映るシーンからスタート。カメラはギタリストの手元にフォーカスし、その後バンドの引きの映像に移ると、この場所がどこかのビルの屋上であることがわかる。おもむろに伸びやかなボーカリゼーションが聴こえた。アルバムの冒頭を飾る「死よりうるわし」だ。夜景を見下ろす2人のボーカリスト、Junaとmidoのシルエットが映る。音源では歌にオートチューンが施されているが、ライブでの歌は息遣いが混じっていてとても生々しい。1バースが終わり、音数の多いカオティックなバンドアンサンブルに突入した。

学校の屋上にてーー高校3年生の宇栄原照那(ウエバルテルナ)が飛び降りる寸前、同校の有名人である阿形千春(アガタチハル)に話しかけられ、結果的に命を救われるという場面から始まる物語を描いた月詠みの2ndストーリーのChapter:001と連動している楽曲「死よりうるわし」。照那と千春の出会いを通じて生きる理由が描かれている楽曲だが、始まりの場所である屋上で配信ライブ『夢と現』が行われていることにまず引き込まれる。

躍動的なアンサンブルに乗ってボーカルは活き活きと鳴り響き、〈もう死んだっていいとさえ言える/充足が欲しかった/生きたこと全て有意に変わるものを〉と、照那が飛び降りを決意するに至った想いがエモーショナルに歌い放たれた。Junaとmidoの歌が交差することで照那と千春の姿が交錯する。2人のボーカリストを含め、バンドは風に吹かれる中、全身を揺らし、ドラマティックな音像を紡いでいく。その様は「死よりうるわし」で描かれている、人は全員が等しくいつか消えるという事実を受け止めながらも必死に生きようとする姿と重なった。

華やかなオーケストレーションが聴こえた。2曲目は「導火」だ。月詠みの新章『それを僕らは神様と呼ぶ』第1弾として発表された楽曲であり、人が死ぬところの予知夢を見てしまうという千春の特殊な能力が明らかになるChapter:003と連動した曲だ。Junaとmidoの切実な歌はさらにエモーションを高めていく。焦燥感を宿した歌が高速で駆け抜け、「導火」にまつわる物語を重層的にしてみせた。一切手を緩めないアグレッシヴなバンドアンサンブル。〈願う奇蹟も どんな向こう見ずな夢も/どれもこの手で運命に変えていこう〉ーー力強いメッセージで「導火」を締め括った時、生きようというエネルギーがスパークした。