連載「lit!」第59回:Ayase、エイハブ×A4、Ado×ユリイ・カノン……夏のボカロイベント開催を前に聴きたい注目曲
シーンの一大イベント『The VOCALOID Collection~2023 Summer~』や『初音ミク「マジカルミライ 2023」』の開催も間近に控え、夏の陽気に相応しい熱が徐々に高まりつつある現在のVOCALOIDシーン。
各種イベントにクリエイターとして参加する面々は、おそらく今まさに制作・準備の山場を迎えているところか。その中で我々いちリスナーの出来ることといえば、来たる祭日に向けて様々な楽曲をチェックし良作への感度を高める、という手もひとつ。幸いにもシーンにはこの直近期間でも多彩な楽曲が生まれており、加えてここ最近は様々なボカロP同士のコラボや合作といった交流の動きも活発になっている。
今回は、そんな複数のボカロPによる活動を想起する楽曲を4つピックアップ。ぜひ各クリエイターの個性を聴き比べて楽しむとともに、近日開催の各イベントへの期待も膨らませつつチェックして欲しい。
Ayase「HERO feat.初音ミク」
直近のシーンを語る上でやはりこの曲を看過することはできない。YOASOBIとしてワールドワイドな活躍というネクストステップを踏み出した一方、今回約2年ぶりのボカロP・Ayaseとしての新曲になった「HERO」は、『マジカルミライ 2023』(以下、『マジミラ』)テーマソングとしての起用となる。彼の駆け上ったスターダムの原点にいた初音ミクという絶対的な味方の存在を思うと、今作の歌詞に思わず目頭が熱くなるリスナーもきっと多いはずだ。さらにAyaseは今回の『マジミラ』において、併催の音楽即売イベント『クリエーターズマーケット』へサークル「DREAMERS」としての参加も表明。共に参加するsyudou、ツミキ、すりぃというあまりにも豪華すぎる面々も、シーンを席巻する話題のひとつともなっている。
エイハブ×A4。「1212。」
今まさに盛り上がるシーン最前線で鎬を削る才能の中でも、異彩と呼べる魅力を放つ二人のタッグとなった本作。レトロで懐かしいムードを纏いつつ現代らしくアップデートされた洒脱なシンセサウンド、そして楽曲の展開に厚みと華やかさを添えるホーンサウンド。その絶妙なマッチングからは、ボカコレ投稿ランキングでも上位常連となった両者の確かな音楽センスの片鱗が見て取れる。楽曲内の歌詞では便利なツールや情報の洪水に常時囲まれる現代の若者のアイロニーやペシミズムを、こちらも両者の独特な素養をベースとして描く。おそらく作り手の二人自身もその一員である自嘲も混ぜ込みながら、そこには今の時代や同世代の同胞たちへの確かな愛と肯定を感じることもできるだろう。