月詠み、朗読と音楽を行き来し表現した“アナザーストーリー” Spotify O-EASTワンマンレポ

月読みO-EASTワンマンレポ

 作曲家 ユリイ・カノンがメインコンポーザーを務める音楽プロジェクト、月詠みが11月2日、ライブ『月詠み LIVE 2023「ANOTHER MOON」』を渋谷Spotify O-EASTにて開催した。ワンマンライブとしてはおよそ1年ぶりとなるこの公演は、9月にリリースした1st EP『アナザームーン』の世界をステージで表現したもの。これまで月詠みが描いてきた1stストーリー『だれかの心臓になれたなら』を軸とした“アナザーストーリー”の世界に浸ることができる。

月詠み

 開演すると、まずEPに収録されている「月灯りの消ゆまで」が流れ出し、同時にユマ役の遠藤璃菜とリノ役の三宅美羽による生の朗読が始まった。美しいピアノの旋律に溶け合うどこかノスタルジックで切ない言葉が会場を優しく包み込む。ほどなくして1曲目「逆転劇」が披露された。躍動感のある演奏とともに、ボーカルを担当するYueの歌声が響き渡った。

 ステージは舞台の状況が見て分かる程度の薄い紗幕に覆われており、そこには歌詞やアニメーションが映し出される仕掛けになっている。そのため、観客は舞台上のバンドメンバーを見て楽しむこともできるし、その映像の世界観を見て味わうこともできる。これは月詠みの楽曲の特徴を最大限に活かした効果的な演出と言えるだろう。作詞作曲を担当するユリイ・カノンの歌詞は韻や語感を重視した言葉選びや同音異義語、あるいは1番と2番で対となるギミック的な表現が多い。そうした歌詞がスクリーンに映し出されると、その工夫が視覚的にも鮮明になるのだ。

月詠み

 一方で、幕で覆い隠されているためある種の覆面性も維持できる。紗幕によって月詠みの描き出す文学的な世界に深く没入できるうえ、彼らのその謎めいたキャラクター性も演出できるのだ。ただ、ステージ近くであれば舞台上の出演者の顔を認識できるほどの薄さのため、例えばYueの表情は最前列であれば確認できたはず。そのプレミア感もライブならではの魅力だ。

 続いて「夢と知りせば」と「月が満ちる」を披露。疾走感のある演奏と、Yueの伸びやかな歌唱が切れ味を増していき、会場の気温をぐいぐいと温めていった。そしてYueがステージからいなくなり、バンドメンバーだけになったところで披露したのが、2016年にユリイ・カノンが公開したボカロ作品「或いはテトラの片隅で」だ。歌うのはユリイ・カノン本人。テクニカルな演奏をバックに、熱の入った作曲者本人による歌唱に、会場が大きく沸き立った。

 再びユマの朗読が流れる。次に歌ったのは、リノが初めて作った曲「春めくことば」。ピアノとアコースティックギターによるみずみずしいサウンドが美しいこの曲で、会場の雰囲気が一変。そして次の「ヨダカ」では印象的なギターのアルペジオと、躍動感のあるリズム隊の演奏がステージを引っ張っていく。後半に観客からシンガロングが起き、会場に一体感が生まれた。

月詠み

 演奏を終えると、ドラムのキックでオーディエンスの手拍子を誘った。さらにYueが「ここからですよ、楽しんでますか?」と歓声を煽る。勢いそのままに「メデ」へ。ここでYueのギアが一段階上がったのを感じた。

月詠み

 Yueのボーカルは、月詠みにとって欠かせないものとなっている。Yueは少女っぽい歌い方から、気高く堂々とした歌唱まで、緩急を織り交ぜた幅広い表現力で観客を釘づけにする。特に彼女のがなりを効かせた迫力ある歌唱は、爆音の楽器の演奏にもまったく引けを取らない。ユリイ・カノンが綴る雄弁な歌詞も手伝って、聴く者の心を鷲掴みにする力がある。かと思えば、逆に小さな歌声でか弱く、か細く儚げに歌う姿も見せる。この“強さ”と“弱さ”の表現の自在なコントロールが絶妙だ。

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