上白石萌音、歌から滲む“人間”としての魅力 圧倒的なボーカル表現に触れた『yattokosa』ツアーを振り返る

上白石萌音が全国ワンマンライブツアー『“yattokosa” Tour 2024-25《kibi》』を完走した。「全都道府県を巡りたい」という思いが込められた『yattokosa』ツアーは、今年で4年連続の開催。その規模は全10カ所11公演と年々広がりを見せている。本稿では2月2日に東京ガーデンシアターにて行われた東京公演をレポートする。
開演すると幻想的なサウンドと映像の演出があり、爽やかなアコースティックギターの音色とともに1曲目「あくび」が始まった。歌い出しの〈目覚めはいつも 藍色〉というフレーズが一日の始まりを想起させる。昨年発表されたアルバム『kibi』は、一日の時間の流れのなかにあるさまざまな情景や感情の“機微”を表現したものだった。まさにこのライブは、一日のうちの穏やかな朝のような幕開けを見せた。続けて「Loop」、「skip」と軽快なリズムの楽曲を繰り出し、外へと元気よく駆け出すような爽快感のあるスタートで幕開けした。

「みなさま、こんばんは」とやさしく挨拶する上白石。満員の客席を見渡しながら「なんでこんなに(お客さんが)きてくれるの?」と驚いた表情を見せる。「今までになく同世代のアーティストとご一緒した」というアルバム『kibi』。次はそんな作品のなかから、シンガーソングライターのとたが作詞作曲(上白石も作詞で共作)した「かさぶた」と「アナログ」を披露。その後「Little Birds」、「ハッピーエンド」と続いた。
それにしても彼女の歌唱力には驚かされる。音を外さないのはもちろんだが、まっすぐに聴き手に届く伸びやかな歌声を持ち、それでいて透き通るような神々しさも併せ持っている。混じり気のないボーカルだ。演奏陣との絡み合いにも舌を巻く。金管楽器は橋本和也、ベースは須長和広、ドラムは藤原佑介、キーボードは宮崎裕介、マニピュレーターは前田雄吾、ギターは遠山哲朗。この6人が見せる極上のアンサンブルが土台となり、上白石の美しい歌声を支えていた。

ここで上白石は、ペンライトのオン/オフをステージ上の照明を合図にして切り替えるよう提案した。それをレクチャーしようとするも、照明がうまく点かず戸惑ってしまう。そこでステージ脇からふたりのスタッフが助けに入ったのだが、スタッフかと思いきや、よく見るとなんとそのふたりはいきものがかりの吉岡聖恵と水野良樹。客席からどよめきと歓声が巻き起こる。照明をつけてすぐにステージからハケけていくふたりを見送りつつ、客席に向かって「誰かに似てたね?」ととぼける上白石。この日はWOWOWでの生中継もあったため、「WOWOWのみなさん、チャンネルはそのままで」と言って会場の笑いを誘った。そして、「風」を披露。一転してピアノのみの演奏となり、荘厳さと美しさが増したサウンドに惹き込まれた。