上白石萌音、歌から滲む“人間”としての魅力 圧倒的なボーカル表現に触れた『yattokosa』ツアーを振り返る

上白石萌音『yattokosa』ツアーレポ

 ここからはアコースティック編成で、“ご当地ソング”として美空ひばり「東京キッド」を歌唱。その後、舞台『千と千尋の神隠し』出演のため滞在していたロンドンにちなんでThe Beatlesの「Yesterday」、ロンドンを舞台とした映画『メリー・ポピンズ』より「お砂糖ひとさじで(A Spoonful of Sugar)」、ロンドンにいた期間に観た演劇で心に刺さった曲「夢やぶれて(I Dreamed a Dream)」を歌った。そのままピアノの弾き語りで「変わらないもの」を歌い、バンド編成に戻ると再びアクセルを踏むようにして「hiker」、「白い泥」、「perfect scene」といったアップテンポで軽快なナンバーで畳み掛けた。

上白石萌音(撮影=板橋淳一/柴田和彦)

 「人にもらった言葉は人生の宝物ですよね」という話から、「スピン」を披露。間髪入れずにYogee New Wavesの角舘健悟が提供した「ひかりのあと」、映画『君の名は。』主題歌「なんでもないや」を歌唱した。どの曲にも演奏/歌に迫力があり、会場にはじっと聴き入るような雰囲気があった。

 本編ラストは、アルバム『kibi』でも最後に収録されている「スピカ」。大橋トリオが作曲したこの曲には〈音のない宇宙に一人ぽつり〉〈無限の星〉というフレーズがある。今回の公演のステージにはいくつもの電球が設置されており、その無数の光が、終盤の楽曲の世界観や彼女のボーカル表現にも深くマッチしていたように思う。

 アンコールでは、さきほど舞台に一瞬だけ現れたいきものがかりが再登場。上白石はいきものがかりに小学生の頃から憧れているという。そんなふたりとともに、水野が上白石に提供した「まぶしい」と、いきものがかりの「YELL」を高らかに歌い上げた。上白石と吉岡のハーモニーは抜群で、どちらが主メロを担当しても会場が華やぐ。掛け合いも見事で、ステージ上のやり取りからお互いへの深いリスペクトを感じた。その後、同じく水野が提供した「夜明けをくちずさめたら」を上白石がひとりで歌い、終演。最後は「あくび」の一節をもう一度歌い、一日が終わるような演出で幕を閉じた。

上白石萌音(撮影=板橋淳一/柴田和彦)

 一日の始まりから終わりまでを感じさせるコンセプチュアルなライブでありながら、公演を通して感じたのは、“上白石萌音”という人の人間としての魅力だ。俳優として、声優として、そして歌手として、マルチな才能を発揮する彼女。しかし、そうした多才さ以上に、人間としての懐の深さや、思いやりを感じ取れるステージでもあった。会場の隅に座る人への気配りであったり、バンドメンバーを立てる仕草であったり、ゲストのために何度も膝をつく姿勢であったりと、上白石は関わる人々にとにかく寄り添う。それは、ただ謙虚なだけでは成し得ないものだと思う。この公演はそんな彼女の人間的魅力を体験できる一夜であった。

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