上白石萌音が明かす、葛藤を繰り返しながら向き合う“歌うこと” 「いつでも音楽を楽しめる自分でありたい」
豊かな才能に恵まれ、誰からも愛される人柄で広い世代から支持を集める上白石萌音。そんな彼女は幼少期から呼吸をするように歌っていたという。
通算3枚目のオリジナルアルバム『name』をリリースし、プロの歌手として着実にキャリアを積み重ねる彼女が、ここまで経験してきたさまざまな出来事や葛藤、挫折などを経て、現在どういった気持ちで「歌うこと」に向き合っているのか。今後の願望なども含めて胸の内を語ってもらった。(編集部)
「衣・食・住・歌」
ーー上白石さんは過去のインタビューで「小さい頃から歌うことが好きだった」とおっしゃっていましたが、ご自身にとって「歌」とはどんな存在なんでしょう?
上白石:やや大袈裟な言い方をすると呼吸みたいな、それくらい自然なものですね。私の場合は「衣・食・住・歌」みたいな(笑)。両親からも「本当に小さい頃からよく歌っていたよ」という話をよく聞きます。
ーー本当になくてはならないものだったと。そんな歌を職業にするとなると、また少し意識も変わってくるのではと思います。
上白石:まさか自分がCDを出すことになるとは、思ってもみなかったです。それだけ好きだったら「歌手になりたい」と思うことが自然かもしれないですけど、私は歌手になりたいと思ったことが、実は一度もなくて。むしろ、舞台に立ちたい、演技をしたいという思いがすごく強かったので、「役として歌うのって素敵だな」という意識だったんです。劇団四季に入りたかったくらいですから。なので、今のこの状況は夢にも思っていなかったものなんですよ。
ーーミュージカルにはご自身がやりたい要素すべてが揃っていますものね。上白石さんの本格的な歌手デビューは、カバー曲で構成されたミニアルバム『chouchou』(2016年10月発売)でのこと。最初は原曲の歌い手がいて、そこにご自身を重ねて表現していくものだったと思いますが、オリジナル曲へと移行していくと、指針となるものも変わってきますよね。
上白石:最初のカバーアルバムのときは、そういったことを深く考えていなくて。「ただこの曲が好きだから歌います」という、ビギナーの強さのようなものに守られていた気がします。そこから、初めてのオリジナル曲「告白」を秦 基博さんに書いていただいたんですけど、すごく幸運なことに秦さんがデモで歌ってくださって、それがカバーのときと同じような指針になりました。だから、まったくの手探りというわけではなかったんですね。
ーーこれまでも様々なアーティストから楽曲提供を受けていますが、毎回同じような形で指針を見つけて、そこにご自身の色をつけていったのでしょうか。
上白石:実は私、自分らしく歌おうと思うことがあまりなくて。その曲をシンプルに歌ったら、自分らしさはきっとついてくると思うんです。だから、自分の欲みたいなものってよくわからなくて。きっと無意識にあるんでしょうけど、それよりもとにかくいただいた曲、産んでいただいた曲を大切に育てるということを意識しています。
ーーこれまでの楽曲を聴いていると、曲ごとに声の表情が変化しているように感じます。そこは意識的なんでしょうか?
上白石:声を変えようとは思っていなくて、その曲に一番合う歌い方ができたらいいなと考えています。
ーーでは、自分の中でいろいろ練ったり考え込んだりすることなく?
上白石:はい。結果的にその声になったというのが理想だなと思っているので、声色から入らないようにとは意識しています。でも、例えばニューアルバム『name』は本当にジャンルが多岐にわたっているので、それぞれの曲をすごく練習して、ボイストレーナーの先生ともロジカルなことや感情を一緒に考えて、やっとたどり着いた感じで。内側から作っていった気がします。そうやって見つけていくことが好きなんです。常にボイストレーナーの先生との二人三脚ですね。