連載「lit!」第135回:Ganbare Masashige、DÉ DÉ MOUSE、r-906……2025年のシーン興隆を予感させる最新作
2025年に突入し、気づけば1月も終盤。年明け直後の緩慢なムードもどこへやら、中にはすでに年度末の慌ただしさが漂い始めた、という人もいるのではないだろうか。我々の日常と同様、年が明けてたったひと月の間にも、エンタメ/カルチャーシーンは怒涛の勢いで日々様々な話題が目の前を通過していく。それはここ20年で急速な拡大を遂げてきた音楽ジャンル・VOCALOIDも例外ではない。
そこで新年初の本連載でのボカロ回では、シーンにおいて年明け以降に投稿/発表された、今最もホットな最新曲の数々をピックアップ。今年もVOCALOIDカルチャーの激動と躍進を予感させる、先鋭的かつ多彩なラインナップとなっている。
DÉ DÉ MOUSE「ピピチャンユアセルフ!」
従来よりクラブミュージックを中心に、幅広い音楽シーンで活躍してきたトラックメーカー・DÉ DÉ MOUSE。昨年は原口沙輔とのユニット・エフエムTOWNSの活動も話題となったが、そんな彼が今回音声合成ソフト・重音テトをフィーチャーしたプロジェクト『ひどいね』の始動を新年早々に発表した。過去にも初音ミクを用いたカバー楽曲を発表していたDÉ DÉ MOUSEだが、ボカロオリジナル楽曲としては今作が初投稿作品となる。
楽曲はいわゆるハードテクノ、シュランツの攻撃的な電子サウンドにあわせ〈お寿司〉を連呼するフレーズが非常に印象的な“お寿司ュランツ”曲で、“新人ボカロP・DÉ DÉ MOUSE”の圧倒的な色を強く感じさせる。EMAとの共同製作となるアバンギャルドな映像もインパクト抜群。今後のプロジェクトの展開にも大いに期待したい。
Ganbare Masashige「俺ん家の水道蛇口から山岡家出る」
小林私やなかねかな。の楽曲をはじめ、様々なアーティストの制作現場にコンポーザーやアレンジャーとして携わるGanbare Masashigeによる本作。ボカロオリジナル曲としては「ギャンブル・ウィズ・マイライフ」に続き2作目となる。
絶大な人気を誇るラーメン店・山岡家への愛をテーマとした“ネタ曲”的なシュールなリリックと、音像豊かかつ硬派でドープなUKダブステップとのギャップが大きな魅力である本作。そのため歌詞への言及のみならずトラックのクオリティの高さも人気の後押しとなり、投稿から即日でSNSの一部で話題に。キタニタツヤやsyudouらもSNSにて言及したほか、すでに各地のサブカルチャークラブシーンでは大勢のDJによってプレイされており、楽曲人気はまだまだ波及を見せている。
r-906「the Hole」
ドラムンベースを十八番としつつも、ボカロPとしての楽曲制作のみに囚われない多様な創作活動を行うr-906。ボカロオリジナル曲の投稿としては昨春ぶりだが、今作も独自のクリエイティビティが光る1曲となっている。
CSM音声合成を用い複数のSin波を重ね合わせてボイスデータを制作し、いわゆる中の人=生身の人間の音声提供者がいないという異例の出自を持つ、純度100%の機械音声ソフト・足立レイ。近年シーンでも人気がじわじわ広まりつつある彼女の起用に際し、r-906はオケの随所にソフトのボイスサンプルをそのまま素材として使うという非常にユニークな手法を用いている。メロディはほぼなく、歌詞となるフレーズもたった二行のみ。だが終始タイトに展開されるクラブビートに、大勢のリスナーが心地よさや高揚感を感じているようだ。