BUCK-TICK、最新型の4人で歩む決意 過去と現在を繋ぎ、未来への約束を交わした『ナイショの薔薇の下』
2024年12月29日、BUCK-TICKが『ナイショの薔薇の下』と題して年末恒例の日本武道館公演を行った。2000年から彼らは毎年この日にこの会場での公演を行ってきたが、これは今までとは違うものだった。それは4人のBUCK-TICKが新たな道を歩み出したことを示すライブだった。
2023年12月29日は同年10月に急逝した櫻井敦司の映像と音声を使い、BUCK-TICKは彼がそこにいるかのようなライブを実現させた。現実を忘れさせるようなそのライブが喪失感に包まれていたファンの心を癒してくれたことはいうまでもない。だがそれがBUCK-TICKのリアルではないことは、残された4人のメンバーが誰よりも実感していた。だからこそ今井寿は4人でのバンドの存続を声明し、新作『スブロサ SUBROSA』を完成させた。同作には今井と星野英彦の2人がボーカルを執る曲とインストが並ぶ全17曲が収録されている。この作品の意味するところは、4人で1ステージやるための楽曲を準備したということだ。前年の武道館で「最新が最高」と今井が言ったように、最新型である4人で進んでいくという意思表示である。そして2024年12月29日、BUCK-TICKは日本武道館のステージに立った。
幕開けは『スブロサ SUBROSA』のオープニングナンバーである「百万那由多ノ塵SCUM」。1人スポットライトに照らされた今井がギターを弾きながら落ち着いた声で歌い出し、続いてライトが姿を浮かび上がらせた星野が続く。曲が進み、光は樋口豊、ヤガミ・トールにも当たった。前年はステージのセンターを開けていたが、今井と星野の距離が縮まり、2人がフロントであることが明白になっている。現在のBUCK-TICKのフォーメーションはこれなのだ。今井が〈俺たちは独りじゃない〉と真正面を向いて堂々と歌った。櫻井が健在だった時は、彼とバランスを取るようにトリックスター的なスタンスに徹することもあった今井だが、今は自分がバンドを牽引していく覚悟を持っていることが伝わる歌だった。
「こんばんは、BUCK-TICKです。今夜は一緒に楽しみましょう。『スブロサ SUBROSA』!」と今井が曲名を告げると、星野がパーカッションを叩きながらシンセを繰り、今井はギターを置いてマイクを手に持って歌い出した。歌詞の通り、彼らは〈夢物語の実行犯〉で〈明るい未来の確信犯〉になったのだ。そのための秘密が解き明かされていく。そんな予感を漂わせる曲に、オーディエンスは手を挙げて応えた。
3曲目は「夢遊猫 SLEEP WALK」。このままアルバムの収録曲順に進むのかと思ったら、今井がギターをかき鳴らしながら〈混ぜるな危険だ〉と叫んで始まったのは「PINOA ICCHIO -躍るアトム-」。『アトム 未来派 No.9』(2016年)で今井がボーカルを執った曲だ。アッパーなロックチューンを今井と星野のラウドなツインギターが増幅する。そう、BUCK-TICKはロックバンドなのだと改めて思う。ヤガミのカウントで始まった「Les Enfants Terribles」でも骨っぽい彼らのロック魂を見せつけた。それはバンドとしての原点を確かめながら4人でのサウンドを再構築しているようでもあった。詞曲を書いた星野が優しく歌う「From Now On」、今井と星野がシンセを操作するインストゥルメンタル「神経質な階段」で、過去から現在へ、彼らは自分たちをつないでいく。
「久しぶりです。元気だった?」ーー今井が語りかけた。
「俺は元気でした。この1年僕らは曲作って、スタジオ入って、レコーディングして、アルバムを作りました。新人バンドのBUCK-TICKで、1stアルバムを作りました。MVも作りました。インスタやってライブやって。周りのみんなに助けられた1年、感謝します」
自分たちを新人バンドと言い、『ミュージックステーション』には出られなかったと笑いも取りながら、今井は率直にここに来られたことの喜びを表した。あっさりと語ったが、彼らにとってこの1年がどれほど重く険しい道のりだったかは想像に難くない。逡巡と戦いながら模索してきたであろう成果を『スブロサ SUBROSA』という形にして提示できたことは、奇跡と言ってもいいのかもしれない。その第一歩となったシングル曲「雷神 風神 - レゾナンス #rising」を、今井と星野は高らかに歌った。〈ハートに火をつけろ〉と歌うサビに合わせ、何本もの火柱がステージを包む。この歌詞が意味するのは自分自身を鼓舞することだ。〈この世界で生き抜く〉とはバンドを続け、音楽を続けていくという決意表明だろう。歌いながら今井と星野は想いを強くしていたに違いない。