WurtSのユニークなスタイルはさらに“拡張”する 武道館公演を目前に遂げたドラマティックな変化
WurtSが10月30日、2ndアルバム『元気でいてね。』をリリースした。
フルアルバムとしては2021年の『ワンス・アポン・ア・リバイバル』以来、約3年ぶりとなる新作。その間にWurtSの音楽は力強く変貌を遂げ、ライブやフェスでの逞しいパフォーマンスを通して、より生々しいものになってきた。
10月31日には初の日本武道館公演『WurtS LIVE AT BUDOKAN』が実現する。このライブはロックシーンの中で着実にユニークな立ち位置を獲得してきたWurtSにとっての、最初のマイルストーンになるだろう。本作はその公演の前日にリリースされた作品でもある。
だが、アルバムには“到達点”とか“集大成”という感じはまったくない。むしろ“新境地”という感じがする。コラボレーションの広がりという意味でも、音楽的な表現においても、さまざまな試みに満ちている。『元気でいてね。』はそういったWurtSの“拡張”を感じ取れる1枚だ。
まず耳を惹くのは9月25日に先行配信された「ソウルズ feat. suis from ヨルシカ」だろう。ソウルやファンクのテイストを意欲的に取り入れたこの曲には、東京スカパラダイスオーケストラのホーンセクションが参加。華やかで迫力のあるサウンドに仕上がっている。WurtSとヨルシカのsuis、それぞれがほぼ同じメロディと同じ歌詞を歌っているというのもポイントだろう。デュエットでハーモニーを響かせるのではなく、1番と2番で代わる代わるAメロとサビを歌い、そして最後に2人が声を合わせる。聴き手を鼓舞するようなメロディと共に、WurtSとsuisのそれぞれの歌声が持つ強い記名性が伝わってくる。
アルバム冒頭を飾る「STARDUST」も包容力あるソウルフルなホーンセクションがポイントになった曲。きらびやかなストリングスをフィーチャーした3曲目の「ライフスタイル」も含めて、序盤はディスコソウルなテイストの楽曲が並ぶ。これまでもクラブミュージック的なスタイルを打ち出してきたWurtSだが、どことなく1990年代の渋谷系的なフィーリングにも通じるようなこのあたりの方向性は、明らかに新機軸と言えるだろう。
@nia_n_
「NOISE」は映画『ブルーピリオド』主題歌として書き下ろされた1曲。疾走感あふれる8ビートのバンドサウンドはWurtSの得意技とも言えるスタイルで、こうしたタイプの楽曲もアルバムでは大きな位置を占めている。例えば「没落天使」は2000年代の下北沢ギターロックを思い起こすようなソリッドなリフとエモーショナルなメロディを持った曲だ。
一方で「大人になるのは」はWurtSのトラックメイカーとしてのセンスを感じさせる曲。トラップのフィールを持ったビートに、歪んだシンセの音がキーになっている。サビに向けて徐々に盛り上がっていった先でハーフテンポに落として音数を減らすアレンジもポイントだろう。これまでも「Talking Box」など打ち込みのクラブミュージック的なサウンドをもう一つの得意技にしてきたWurtSだが、その才覚を示すナンバーと言える。ラストトラック「元気でいてね。」は1曲目から9曲目のメガミックスのようなナンバーで、DJ的な発想がより前面に出てきていることを示すような1曲だ。