藤井 風、Vaundy、milet……洋楽と邦楽の間をシームレスにするSSW 由薫、WurtSら新星続く?

 YouTubeやTikTokなどのSNSで拡散され、ヒットに繋がるケースは、今や決して珍しくない。インディーズバンド音楽配信サイト「Eggs」や音声ファイル共有サービス「SoundCloud」が、ここ数年で再び注目されているのは、音源の作り手にデジタルネイティブ世代が増えてきたからというのも、理由のひとつだと考える。

 多彩な音楽ソフトを当たり前に使い、作詞や作曲はもちろん、アレンジやトラックダウンまでひとりで行うシンガーソングライターが増えたのは、音楽制作ソフトやプラットフォームが整ったことが大きな要因のひとつだ。1970年代頃までは、ギターやピアノの弾き語りというスタイルが多かったシンガーソングライターが、機材や音楽配信プラットフォームの進化とともに多角化していったのだ。さらに音楽配信サブスクリプションサービスの浸透で、ジャンル、年代、洋楽/邦楽という括りがシームレスになった。このシームレス化を後押ししたのが“感情”や“ムード”、“一日の時間帯”などをタイトルに据えたプレイリストの多様化でもあると思う。

 本稿では“シームレス”をキーワードに、すでに活躍中のシンガーソングライターの魅力にあらためて触れるとともに、今、注目を集める新鋭のシンガーソングライターについて紹介していく。

 まずは、昨年、全35曲収録の2枚組のセカンドアルバム『replica』をリリースしたVaundyを取り上げたい。彼の大きな魅力のひとつでもある楽曲のバリエーションは、まさにジャンルをシームレスにした大成功例だと思うが、本作では年代までもシームレスにしてきた。80年代のニューウェイヴ、80年代後半〜90年代初頭のヒップホップ、90年代半ばのブリティッシュロックと、ルーツを色濃く感じさせながらも、しっかり今のポップスにアップデートしている。メロディと歌詞のマッチングにも、より磨きがかかった。特に本作での初出曲「黒子」は、はっきり日本語として聴こえるのに、歌詞というよりも“メロディをなぞる言語”を聴いている感覚になるほどに見事にマッチしている。

黒子

 今の音楽シーンにおいて欠かせないシンガーソングライターとして、やはり藤井 風にも触れておきたい。2022年に「死ぬのがいいわ」がグローバルヒットしたのも記憶に新しいが、藤井は言語をシームレスに聴かせる天才だ。日本語と英語、もっと突っ込んで言ってしまえば、岡山弁と擬音に差異がなく、歌詞を見なければどっちなのかがわからないことも間々ある。これは、子音にアクセントを置く彼のボーカルアプローチによるところも大きいと思うが、メロディに乗せる言葉の扱い方にはVaundyと共通するものを感じる。一曲のなかに、タイトでキャッチーなメロディが溢れているのも同様だ。2023年にリリースされたシングル「Workin' Hard」や「花」では、以前よりも意識してボーカルコントロールしている印象で、自分の歌声や自身の楽曲と、これまでとは違った向き合い方を見つけたのかも……などと想像すると今後に期待が膨らむ。

藤井 風 - 花 (Official Video)

 次にピックアップするmiletは、曲調の幅も広く、曲毎にまったく異なる歌声を繰り出してくる。高低差のあるメロディを軽々と乗りこなすように歌うスキル、しかも低音と高音を、それぞれ強く印象に残すボーカリゼーションは、彼女の大きな武器であり無二の個性である。加えて、低音から高音への移行が滑らかなのも特徴で、聴き手は低音と高音をシームレスに捉えることができ、楽曲の世界に感情移入しやすいのもヒットの要因と考えられる。2023年には、MAN WITH A MISSIONとの連名で「絆ノ奇跡」「コイコガレ」(フジテレビ系『テレビアニメ「鬼滅の刃」 刀鍛冶の里編』OPテーマ/EDテーマ)を筆頭に、同年発表の楽曲のうち7曲にタイアップがついており、曲のバリエーションと変化自在の歌声で映像に寄り添うことのできる、素晴らしい歌い手であることも強いだろう。

MAN WITH A MISSION×milet「絆ノ奇跡」Music Video

 新機軸のシンガーソングライターとして最初に取り上げたいのが、女性シンガーソングライターの由薫である。2023年1月クールの吉高由里子主演ドラマ『星降る夜に』(テレビ朝日系)主題歌となったデジタルシングル「星月夜」が、今年1月31日には、「Billboard JAPAN」のチャートにおけるストリーミング累計再生回数が1億回を突破するロングセールスとなった(※1)。幼少期をアメリカ、スイスで過ごした由薫は、父親の影響で洋楽を聴いて育ち、小学生でミュージカルに出演。ミュージカルに傾倒していくのと並行して、ネットで世界中の音楽を聴くようになったという。15歳頃にカバーユニットやバンドを始め、17歳にはオリジナル楽曲の制作をスタートさせている。2022年、ONE OK ROCKのToru(Gt)のプロデュース曲「lullaby」でメジャーデビューを果たし、前述の通り「星月夜」がヒット曲となるなか、『2023 SXSW Music Festival』への出演や、スウェーデンのプロデューサーデュオ NOTDからオファーを受け、世界的なヒット曲「AM:PM」のRemixに作詞も含め参加した。

由薫 – 星月夜(Official Music Video)

 シンガーとしての実績も実力も十分な由薫は、前述した海外生活もあり、ネイティブな英語の発音で、英語と日本語が混ざった歌詞の曲も、洋楽然とした趣きで聴かせる。しかし彼女の最大の魅力は、一曲の中でポップス然とした歌い方と、ミュージカル特有の歌い方を使い分けられるところにもあるだろう。たとえば、「LOVE」という言葉を発音する場合、ポップスやロックでは「ラヴ」の「ヴ」を軽く置くように発音しても成り立つのだが、ミュージカルの場合ははっきり「ヴ」と発音する必要がある。メジャーデビュー曲である「lullaby」はミュージカル然とした歌唱法がメイン、2024年1月に発売された最新アルバム『Brighter』収録曲の「gold」はポップス然としたアプローチ、「Hangry」は日本語の歌詞の部分を洋楽然としたアプローチで聴かせている。「星月夜」は、全日本語詞ながらもミュージカル的なアプローチと洋楽的なアプローチの両方を堪能できるハイブリッドな仕上がりだ。由薫自身が作る曲も年代を超えたバリエーションで、これからどんなアーティストになっていくのか、期待が募る。

由薫 – 1st Album『Brighter』全曲トレーラー

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