星野源が紡いだ音楽愛と幸福な交歓 『サマソニ2024』&『so sad so happy 真夜中』レポート
満員のZOZOマリンスタジアムを軽やかに掌握し沸かせた、この国が誇るポップアーティストとしての揺るぎない実力と風格。そして同日深夜に繰り広げた、そのルーツにも繋がる、深い音楽愛とリスペクトがとても幸福な交歓を果たした自身がキュレートするオールナイトパーティ。――星野源の『SUMMER SONIC 2024』は、ふたつのベクトルから星野源というアーティストを改めて提示するものだったように思う。
まずは、MARINE STAGEでのライブについてから始めよう。
台風一過の突き抜けるような青空の下、MARINE STAGEに降り注いでいた強い陽射しがようやく和らぎ、心地よい風が吹いてきた8月17日の17時40分、星野源のステージは始まった。星野源としては、昨年の『SUMMER SONIC 2023』東京公演の初日、BEACH STAGEを1日ジャックする形で開催された『“so sad so happy” Curated by Gen Hoshino』のトリを務める形で出演し、大盛況を収めているが、MARINE STAGEに立つのは2016年以来、実に8年ぶりとなる。
バンドメンバーである長岡亮介(Gt)、三浦淳悟(Ba)、櫻田泰啓(Key)、伊吹文裕(Dr)、武嶋聡(Sax/Fl)がサウンドチェックを行い、そのまま星野を迎え入れる形で放たれたオープニングナンバーは、8年前のあの時と同じく、「地獄でなぜ悪い」。個々の楽器がそれぞれに唸りを上げるようなカオス渦巻くイントロから、軽快なグルーヴへと展開して疾駆していく楽曲だが、決して晴れやかな日々を歌うような歌詞ではなく、目の前に広がる地獄のような現実から、未来へと必死に手を掴み取ろうとする様を歌い鳴らした力強い楽曲だ。「サマソニー!」という星野のシャウトに呼応し、マリンスタジアムを埋め尽くした大観衆の手が挙がる。1曲目にして早くも心の底から衝き動かされるような気持ちになったのは、きっと筆者だけではないはずだ。
続く「SUN」からのライブ初披露となる「異世界混合大舞踏会」を経て披露された中盤セクション、「Pop Virus」、「喜劇」、そしてTom Mischとのコラボレート楽曲「Ain’t Nobody Know」が、暮れなずむマリンスタジアムの景色と溶け合い、どこまでも深く心に沁みわたっていく。バンドが織りなす極上のグッドグルーヴ&グッドアンサンブルに乗って歌われる星野の歌は、どうしようもない孤独を抱えるからこそ、あなたとともにあるものだ。ファルセットも織り交ぜながらじっくりと噛み締めるように響かせていく歌唱とともに、彼が身に纏うTシャツの鮮やかなブルーがどんどん藍に染まっていく。そしてその切なる熱は、確実にフィールドへと伝播していったように感じた。時折ビジョンに映し出されるオーディエンスの引き込まれるように真剣な表情が、今も印象に残っている。
そこからはまたガラリと表情を変え、ニューオリンズ・サウンドに様々なオマージュをレイヤーさせた「ドラえもん」、至るところであのダンスとシンガロングが上がり続けた「恋」、もはやダンスクラシック的な堂々たるオーラを放つ「Week End」という、スタジアムを丸ごとダンスフロアへと変貌させるナンバー3連発でオーディエンスを自由に踊らせる。そうして巨大な高揚と解放を生み出した後、最後に披露されたのは「Hello Song」だった。とどまるところを知らない熱狂の中、最後の最後に腹から声を振り絞るようにして「ほんと悲しいことばっかりですよね。だけどさ! またいつか会えたら、僕らは笑顔で会いましょう!!」と呼びかけ、ともに歌い合うことでその場にいた一人ひとりと約束を交わした星野は、とても晴れやかな笑顔でステージを去っていった。
様々なファンダムとカルチャーが集う1日となったこの日、おそらく初めて星野源のライブを体験したという人もとても多かったと思うが、その楽曲、サウンド、そしてメッセージ、すべてが圧倒的な強度と深度、そして確かな説得力をもって響き、醒めることのない熱を生んだライブだった。