藤井風や米津玄師など、2020年代J-POPを支えるサポートミュージシャンの横断的活躍 dawgss、LAGHEADS中心に考察
この原稿は「2020年代のJ-POPシーンでキーマンになっているサポートミュージシャンについてまとめてほしい」というリクエストを受けて書いているのだが、まずはその前提となる2010年代後半のシーンの状況について触れておこう。
2016年の「恋」で国民的な存在となった星野源を皮切りに、米津玄師、Official髭男dism、King Gnuなどがブレイクしていった2010年代後半は、ジャズをはじめ、R&Bやファンクなどを土台とするプレイヤーたちがポップスやロックの分野でも活躍するようになり、ミクスチャーな音楽性を志向するアーティストがJ-POPの中心を形成するようになった。また、DTMの環境が整い、個人で音源の制作が完結できるようになったり、SNSを使って個人での発信が容易になった結果、かつてのロックバンドに代表される一心同体的なあり方から、個人を尊重した上で連帯する、コレクティブ的なあり方が徐々に一般的になっていった。これにより「ジャンル」や「バンド/ソロ」といった枠組みを越え、メジャーもインディも問わず、様々なシーンで活躍するミュージシャンが注目されるようになっていく。
ペトロールズのメンバーとして活動しつつ、椎名林檎や星野源をサポートするギタリスト 長岡亮介はその先駆け的存在だったわけだが、Answer to RememberやSMTKを率いながら、CRCK/LCKS、millennium parade、くるり、KID FRESINO、君島大空など、様々なプロジェクトに参加するようになったドラマー 石若駿は、2010年代後半以降の流れが生んだ象徴的な存在。最近で言えば、BREIMENのフロントマンであり、ベーシストとしてTENDREやTempalayをサポートする高木祥太が、ポルノグラフィティの岡野昭仁とKing Gnuの井口理に「MELODY (prod.by BREIMEN)」を楽曲提供したことで大きな話題を呼んだように、2020年代はこうしたミュージシャンたちがよりJ-POPのど真ん中で活躍するようになるはずだ。
そんな観点で今最注目の一組が、ベース/ボーカルの森光奏太と、ドラムの上原俊亮というまだ20代半ばの2人によるユニット・dawgss。もともと2020年にSpice rhythmという名義で活動を開始し、コロナ禍ではSNSに投稿したセッション動画でも話題を集めたが、ユニット名を改めて、2022年10月にデビュー曲「ORANGE」を発表している。
2人はKan Sano、Anly、和久井沙良などのサポートを務めるが、象徴的なのは上原が2020年代のトップランナーである藤井風のサポートを務めていること。18歳でバークリー音楽大学に入学した経歴を持つ上原は、藤井の2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』で「やば。」と「damn」の2曲に参加し、現在開催中の『LOVE ALL ARENA TOUR』にもバンドメンバーの一員として参加している。グラミー賞の常連で、ノラ・ジョーンズやポール・サイモンらの作品に関わる他、マイケル・ジャクソンへの楽曲提供でも知られるジャンル越境型のドラマー、ネイト・スミスをフェイバリットに挙げる上原のプレイもまた自在にグルーヴを操るものであり、藤井の作品やライブへの参加も納得。WONKやmillennium paradeなど、こちらも幅広く活躍するMELRAWのサックスをフィーチャーしたdawgssの最新曲「FINALE」でも、軽やかに跳ねつつ重厚さもあるプレイで楽曲の持つ華やかなムードに大きく貢献している。
dawgssの活動から連想するのが、現在米津玄師のサポートを務めるベースの須藤優とドラムの堀正輝がかつてARDBECKというユニット名で活動していたこと。須藤は2019年からUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介とXIIXとしても活動し、堀もEveをはじめとした数多くのアーティストをサポートやビートメイクで支え、現在のシーンに欠かせない存在となっているが、ともに単なるプレイヤーではなく、それぞれがプロデューサー的な視点を持つ新たなユニット=dawgssの浮上は、2020年代への転換を強く感じさせる。