星野源が紡いだ音楽愛と幸福な交歓 『サマソニ2024』&『so sad so happy 真夜中』レポート

星野源『サマソニ2024』出演を振り返る

 その上で、自身のステージ終了から約4時間半後の23時、今度は幕張メッセ内のSONIC STAGEにてスタートした『“so sad so happy 真夜中” Curated by Gen Hoshino』。『サマソニ』の東京公演では毎年、初日深夜、つまり1日目と2日目の狭間に『MIDNIGHT SONIC』が開催されているのだが、今年は星野源がキュレーションを手掛けるオールナイトイベントという形での実施となった。なお、前述したように昨年はBEACH STAGEの1日を彼自身が丸ごとキュレートし、Jacob CollierやUMI、Camiloといった海外からのアクトも交えて『“so sad so happy”』を開催したわけだが、今回はその“真夜中”バージョンである。オーディエンスも酷暑の中で1日遊び尽くし、疲労も蓄積しているであろうにもかかわらず、SONIC STAGEエリアは端から後ろまで満員。とてもピースフルな雰囲気の中でパーティがスタートした。

星野源(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

 最初のアクトは、星野自身によるDJ。開催宣言(というよりも、この場に集まったミュージックラバーたちに対して、「朝まで一緒に音楽と自由に遊ぼう!」と呼びかける彼らしい挨拶)からRahsaan Roland Kirkの「Giant Steps」をスピンして始まり、夭逝から15年近くが経った今なお海外のリスナーやアーティストから熱い信奉を集め続ける日本人ヒップホッププロデューサー・NujabesとShing02による名曲「Luv(sic.) pt3 (feat. Shing02)」などを盛り込みながら、深夜のSONIC STAGEを心地よい解放感の中で心身を揺らすダンスフロアへと変えていく。ZOZOマリンスタジアムではオリジナルの形で披露した「喜劇」のリミックスバージョン「Comedy (feat. DJ Jazzy Jeff & Kaidi Tatham)」でひと盛り上がり作りつつ、ラストはChaka Khanの名バラード「Through the Fire」を響かせ、次のアクトへとバトンを託した。

星野源(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

星野源(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

 2番手に登場したAnswer to Rememberは、星野楽曲では「生命体」や「不思議」で制作をともにしているドラマー・石若駿によるプロジェクト。先日ドロップされた2ndアルバム『Answer to Remember Ⅱ』では共同プロデュースも担ったMELRAW(Alto Sax)をはじめとするブラス隊や、Marty Holoubek(Ba)などからなるバンドが間髪入れずに展開させる、そのスリリングかつダイナミックなアンサンブルがフロアの覚醒を煽っていく。石若やMELRAW世代のミュージシャンが近年の日本のポップミュージックに与える功績は大きいが、彼らが自分たちの根底にあるジャズの世界から新たな地平を切り開くべくエナジェティックに放つ楽曲たちと、それに呼応し、曲を重ねるに従って自ずと熱狂が広がっていく様は実に痛快なものだった。

Answer to Remember(撮影=TAICHI NISHIMAKI)
Answer to Remember(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

Answer to Remember(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

 続いては長岡亮介によるDJ。なんとこれが人生初のDJとのこと。彼もまた、80年代にカントリーの新たなムーブメントを牽引したDwight Yoakamの「Guitars, Cadillacs」といった、自身のルーツを強く感じさせる選曲から始まり、初DJにして楽曲をマッシュアップさせていくしっかりとしたプレイでフロアを気持ちよく揺らし続けた。今回が人生2回目のDJだったという星野然り、音楽に造詣がとても深く、かつセンスも抜群のふたりによるDJは、初々しさ以上に聴きごたえたっぷりで、彼ら自身のバックグラウンドとミュージックラバーとしての奥行きの一端を確かに感じられるとても素敵な時間だったと思う。

長岡亮介(撮影=TAICHI NISHIMAKI)
長岡亮介(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

長岡亮介(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

 4番手はTUCKER。かつてSAKEROCKの「YAWARAKA-REGENT」(2006年)を共同編曲したことがあり、星野とも縁のあるアーティストであるTUCKERのライブは実に独創的。その場でドラムを叩いてループを作り、ベースを重ね、鍵盤を重ね、時に一斗缶を鳴らしたりエレクトーンの上で三点倒立をキメながら、たったひとりで音楽を現出させていく様は圧巻。次にどんなアイデアが繰り出されるのか片時も目が離せないパフォーマンスは、初見のオーディエンスもぐんぐん惹き込みながら、TUCKERワールドを炸裂させていった。

TUCKER(撮影=TAICHI NISHIMAKI)
TUCKER(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

TUCKER(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

 出演が予定されていたTerrace Martinが台風の影響によって来日が叶わず、代わりに急遽、DJ JIN(RHYMESTER)とRobert Glasperがそれぞれの持ち時間を拡大する形でステージを務めた後半戦。DJ JINは、もはや世界中のほとんどのDJがデータでプレイする世界線になって久しいこの時代に、ヴァイナル(アナログレコード)オンリーでのDJを展開するアーティスト。もちろんこの日もそうで、長年にわたって磨き抜かれたスキルと選曲の妙、そして芯のある出音でフロアを魅了していった。優れたDJはフロアと会話するように選曲し、パーティを転がしていくものだと言われるけれど、30分セットから50分セットへと拡大したこの日のDJ JINのプレイは、まさに幸福なコミュニケーションを果たしていたと思う。ラストにTerrace Martinの「Valdez Off Crenshaw」を持ってくるのも粋だった。

DJ JIN(撮影=TAICHI NISHIMAKI)
DJ JIN(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

DJ JIN(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

 そしてラストは、Robert Glasper。Glasperに加え、ベースにBurniss Travis Ⅱ、ドラムにJustin Tyson、ギターにMike Moreno、DJ Jahi Sundanceという編成を基本に、後半セクションではゲストボーカルとしてYebbaも登場。前述した通りTerraceのキャンセルにより60分の持ち時間を80分に拡大してのステージが予定されていたが、終わってみたらほぼ100分! つまりはそれだけノっていたのだろう。もちろん醍醐味であるインプロビゼーションの時間もたっぷりあり、Glapserをはじめとする個々のプレイやフレージングから生まれる、痺れるようなマジカルな瞬間の連続だった。

Glasperバンド(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

Yebba(撮影=TAICHI NISHIMAKI)
Yebba(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

 中盤では星野が登場し、Glasperバンドの演奏によって「Pop Virus」を披露するという何ともスペシャルな展開が! 星野本人のInstagramによると本番2時間前に突如決まったというが、楽曲終盤の〈Lalala〉の箇所ではGlasperと星野が肩を組んでシンガロングする一幕もあり、本当に音楽を愛する者同士の幸福なコラボレーションだと感じた。ジャズとヒップホップを融合して新たな可能性を開いたGlasperが、2010年代以降の世界の音楽シーンを変えたのは言うまでもないことだが、幼少期からジャズに囲まれて育った星野もまた、どこかでその影響を受けながらこの国で自身の音楽を切り開いてきた歴史がある。そんな彼が2024年の今、Glasperとともに「Pop Virus」を奏でたこの瞬間は、とても大きな祝福に満ちたものだったように思う。

星野源(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

Robert Glasper(撮影=TAICHI NISHIMAKI)
Robert Glasper

 一つひとつのアクトを丁寧に紹介し、クロージングMCも務めた星野。Glasperとの共演に象徴されるように、あるいは昨年の『“so sad so happy”』においてJacob Collier、Camilo、UMI、Sam Gendelと5人で奏でた新曲「Memories」にも表れていたように、単なるキュレーションにとどまらず、血の通ったコミュニケーションを交わしながらひとつのイベントをプロデュースしていく姿勢は何より星野らしいなと感じた。そして、その音楽に対する愛がオーディエンスとも確かにシェアされ、とんでもなく幸福な時間が形成されていったことは、何ものにも代えがたい音楽と私たちの祝祭そのものだったと思う。クロージングで流れた「光の跡」で自然発生的に起きた大合唱、この終わりから始まる未来がまた楽しみになった。

Robert Glasper、星野源(撮影=TAICHI NISHIMAKI)

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