Tomggg、進化の2年を刻んだ作品集『superposition』完成 自身で語った作曲スタイルの“変革”

Tomgggに訪れた変革の季節

 ビートメイカー/音楽プロデューサーのTomgggが、音楽シーンに登場したのは2010年代前半のこと。当時盛り上がりを見せていたインターネットレーベルや、SoundCloudなどのネット上のプラットホームを介して作品を発表していたTomgggは、さまざまなアーティストとのコラボやリミックスを通して徐々に存在感を高めてきた。tofubeatsなどと並んで、ネットの音楽カルチャーを牽引するひとりと言える存在だ。近年は早見沙織やharmoeといった声優アーティストへの作品提供も行うなど、活動の場を広げている。

 そんなTomgggの音楽性が広く知れ渡ったのは、2015年にリリースした初の全国流通盤『Butter Sugar Cream』だろう。辻林美穂やUKのシンガー・Phoenix Troyをボーカルに迎え、自身の持つポップセンスを遺憾なく発揮したこの作品。現代的なダンスからエレクトロミュージックまでの意匠をまといながらも、独自のキュートでスウィートなエッセンスを織り交ぜることで、オリジナルのポップソングへと昇華したこの作品は、一聴してお菓子のように甘く柔らかいが、どこかに狂気も孕むその絶妙なバランスが印象的だった。ポップのなかにも先進性を持ち合わせたこのミニアルバムで、“Tomgggサウンド”のイメージを確固たるものとした。

 2022年にアルバム『counterpoint』をリリースすると、Tomgggにとっての転機が訪れる。kiki vivi lilyやLil Soft Tennisといった国内外の気鋭のアーティストが参加した同作は、多種多様なジャンルを飲み込みカラフルなポップソングへとまとめ上げるTomgggのまさに真骨頂と言える快作だった。だが、Tomgggはこの作品について、こう振り返る。

「Tomgggとして音楽を作り始めてからわりとハーモニー優先みたいなところがあって、音と音の横のつながりと変化と驚きを重要視してそれにこだわっていたのですが、『counterpoint』以降に一旦自分のなかで限界がきて、その方法を捨てていくことをずっと考えていました」

 Tomgggの音楽は、同作に収録されている「License of Love」や「Away With Me」のように、メロディアスでコーラスが美しく折り重なるハーモニーの心地好い作品が多い。キーボードを軸としたメロディやコードの展開に重きを置いたような作風だ。もとより国立音楽大学の大学院で作曲を専攻していた経歴を持つ彼が、そうした「ハーモニー優先」の作曲スタイルを選んでいたことはなんら不思議ではない。

Tomggg & kiki vivi lily / License of Love

 しかし同作以降、曲作りも鍵盤からではなく、まずビートから組み立てるようになったと明かしており、ここ数年のTomggg作品には大胆なスタイルチェンジがあったのではないかと想像する。さらに「縦の線が揃ったり揃わなかったりする面白さがわかるようになって、繰り返しが許せるようになりました」とも話しており、制作スタイルの変化に加えて、作品自体にも大きな構造の変革があったようだ。

 こうしたアーティストとしての大きな変化を経て、5月22日に発表されたのが新作『superposition』である。

Tomggg『superposition』
『superposition』

 2022年以降に発表された楽曲の作品集である本作は、ミュージシャンの中村佳穂との「ドラゴニア」をはじめ、ena moriとの「いちごミルク」や、VTuberのピーナッツくんとの「Dance on the Table」など意欲作が並ぶ。タイトルの“superposition”とは“重ね合わせ”を意味する言葉で、ひとつの作品のなかで多様なジャンルやフィールドのアーティストが交錯するTomgggを表すのに相応しいワードだ。サウンド面に耳を傾ければ、お菓子の詰め合わせのようなキュートな魅力はそのままに、実験精神が随所に見て取れる野心的な一枚と言える。とりわけ今年最初のリリースとなった「Sweet Romance」は、ロサンゼルスのシンガーソングライター・raychel jayの繊細なボーカル表現を下支えするトラックが見事。シンプルな歌モノとしての魅力だけでなく、洗練されたビートトラックとしての側面も持ち合わせている。総じてTomgggのらしさ全開でありながら、なおかつ変化を経た今だからこそ鳴らせる彼の進化も感じ取れる作品だ。

ピーナッツくんとTomggg「Dance on the table (from ひ~!ひ~!ふ~!)」(Amazon Original)

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