AJICO、初の日比谷野音公演 互いをリスペクトし受け入れ合うムードが作り上げた幸せな空間

AJICO、初の日比谷野音レポ

 アンコールの演奏が終わると、あらためてのメンバー紹介のあとに、ベンジーが言った。「We are AJICO! ありがとう!」続いて、UAだ。「気をつけて帰ってね。仲良くね」

 そしてふたりは楽屋裏に向かうところで並ぶように歩きながら、一瞬だけ肩を組む仕草をして、去っていった。そう、仲良さそうに。その雰囲気にAJICOのムードが、そして今のこのバンドのあり方が、よく表れていたように思う。最高の夜だった。

 今夜のステージは、AJICOというバンドのオルタナティブな魅力が際立っていた。SEのあとに踊りながら登場したUA(Vo)は観客に「Are You Ready?」と言って、唄いはじめる。オープニングを飾った「ラヴの元型」の前へ前へと突き進むグルーヴ感は圧巻で、これをリードしていくのはTOKIE(Ba)がくり出すベースラインだ。そしてタイトなビートの上で奏でられるベンジー(浅井健一・Gt/Vo)のギタープレイには最高のエクスタシーがある。ステージは、舞台天井で回転する2基のミラーボールと白熱するストロボライト群によって、非常に鮮やかな空間が形成されていた。

TOKIE(Ba)
TOKIE(Ba)

 筆者はこのAJICOの音楽面において刺激的に感じる部分のひとつに、UAとベンジー、両者の歌声が重なる瞬間があると考えている。共にボーカルをとる、あるいは歌を片方がコーラスでバックアップすることで実現するそれは、たとえば先の「ラヴの元型」や「キティ」、「地平線 Ma」などで味わうことができる。これに加え、かねてからの「ぺピン」をはじめ、今回セレクトされた「SWEET DAYS」「ガソリンの揺れかた」といったBLANKEY JET CITYの楽曲、浅井ソロの「Old Love Bullet Gun」、さらにはUAの「悲しみジョニー」といった各々の活動からの楽曲がどう演奏されるかという楽しみもあり。その上に、3年前の再始動時からはキーボードの鈴木正人(LITTLE CREATURES)のサポートもあり、サウンド面での厚みと表現の幅は大きく増しているのだ。

椎野恭一(Dr)
椎野恭一(Dr)

 そんな今回は、AJICOにとって初となる日比谷野外大音楽堂での公演だった。そして2時間近くのセットリストの中で、とくにこのバンドの深みを感じたのは、意外なことに昔の……第1期の楽曲たちだった。たとえばデビューシングルの「波動」(2000年)。それに最初のアルバムのタイトル曲「深緑」。そして2枚目のシングルだった「美しいこと」(以上、2001年)。これらは曲のイントロのパフォーマンスからボーカルの入り方、その歌、間奏やアウトロ、時にはさみこまれるUAのスキャット、さらに前2曲は後半で突入する長いセッション……このすべてが秀逸だった。楽器ごとの音色やメロディ、フレーズの繊細さと美しさ、また演奏におけるダイナミクスとスリリングな味わいは、過去のAJICOを凌駕するほどだったのでは、と感じたほどである。と言っても、もちろん第1期のAJICOが素晴らしいライブをくり広げていたことは間違いない。それは、まだコロナ禍の頃に行われたEP『接続』(2021年)の時期のツアーの印象にしても、同じくだ。

 それでは今年のAJICOは何が違ったのか? 筆者はひさしぶりに2001年のライブアルバム『AJICO SHOW』を聴いてみた。これは第1期のAJICOがくり広げた全国ツアーを収録したもので、もちろんアルバム『深緑』からの曲を中心にした選曲になっている。当時はサポートミュージシャンがおらず、4人だけの演奏だった。

 今年のAJICOを生で体験した今、CDでは2枚組だったこのライブ盤の音に感じるのは、イメージ以上に演奏そのものがタイト、かつソリッドであるということ。4人の間には、なにがしかの緊張感が流れているかのようで、時にそれはヒリヒリした感触とともにこちらの耳に入ってくる。そして当たり前だが、UAの歌、ベンジーの声、そして全員のプレイが、今よりも若い。先ほどの緊張感には、この若さの分も関係しているように思う。

 あらためて考えれば、これは無理のないことだろう。UAもベンジーも、この頃は音楽シーンの最先端を走っていた存在。もちろんお互いがリスペクトし合い、お互いを認め合っていたからAJICOの結成に至ったわけだが、膨大なエネルギーを持つ両アーティストの邂逅であるからこそ、ここにはスキを許さないような、自身の全部を相手に突きつけるかのような関係性を感じる。そして、だからこその迫力がこのライブアルバムには脈打っているのだ。ただ、当時のAJICOを何度も観た自分でも、あの頃の4人がここまでの高い緊張感を持ちながら音を鳴らし、歌を唄っていたことは、もはや遠い記憶になろうとしていた。今のAJICOに親しんだ耳で聴けば、このライブ盤の特別な空気感に驚く人も多いはずである。

 言い換えれば現在のAJICOには、23年前ほどの緊張感はない。そのかわりに、もっと柔らかく、優しく、お互いを受け入れるような空気がある。といっても、今もパフォーマンス自体に甘さがないのは当然だが、この長い間にUAもベンジーも、それにTOKIEも椎野恭一(Dr)も年齢を重ね、より多くのミュージシャンたちと手合わせをしてきた。そんな中で、他者と音を出すことの喜びや楽しみ、幸せ、もしかしたら難しさといったものも体験してきたのではないだろうか。ただ、その刺激や面白さは、AJICOのようなスペシャルなバンドであれば、なおのこと存在しているはずだ。

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