AJICO、初の日比谷野音公演 互いをリスペクトし受け入れ合うムードが作り上げた幸せな空間
ここまでは僕の想像だが、とにかく今のライブではメンバー間の雰囲気がとてもマイルドで、そこにはユーモアもあって、時に優しさがにじみ出ているように思う。それはUAやベンジーが出演したラジオ番組やインタビューでも感じたし、今回のライブでは次のようなMCがあった。
「ずっと言うの忘れとったけど、トッキー(TOKIE)、結婚おめでとう!」(浅井)
「全然忘れてへんよ(笑)」(UA)
これは、観客の前でお祝いを言うことをしていなかった、ということだろう。そのTOKIEは「いつも優しいドラムの椎野恭一!」と、鈴木は「お裁縫も上手なスーパー・ベンジー!」とメンバー紹介をした(ちなみにこのようにメンバーに「スーパー」を付けたり、それぞれを回しながら紹介していくのは、ベンジーの流儀)。
あるいはUAはベンジーのGパンを見ながら「革を縫ったって言ってなかったっけ?」と突っ込みを入れ、彼はそれに「穴の空いてるところに革を縫ってきたの!」と返答。すると「おお、縫い付けてきたんだ! オッシャレ~!」と茶化したのだ。これにはベンジーも苦笑いだ。かと思えば、その後にベンジー、「じゃあここでUAにダジャレでも言ってもらいましょう」とムチャ振り。対してUAは「野音で、ワオ~ン!」と返す。客席に起こるなごやかな笑い。そして椎野は「ほんとに今日は演奏しながら幸せを感じました。ありがとうございます」と笑顔であいさつをした。
思えばこうしたムードは23年前にはなかったし、3年前のライブも、もちろん素敵な空間ではあったけれども、ここまでゆるやかではなかった。今のAJICOは、こうした空気の中で、しかし真剣に、メッセージも発しながら、メンバー同士リスペクトし合い、お互いを受け入れながら、音楽を奏でている。そんなことを強く感じた。
ここで話の軸を、筆者が感動した「波動」と「深緑」、「美しいこと」に戻そう。これらの楽曲、とくに前の2曲にはUAがダブ的なサウンド指向を深めたアルバム『turbo』(1999年)からの連続性が感じられるし、その後の彼女がボストンのジャム・バンドであるThe Slipの来日公演(2004年)にゲスト出演したり、自身の音楽的な方向性をより自由度の高い方向に傾けていったことを思うと、AJICOでのこうした音楽性は非常に重要だったと考えられる。そして今夜の『深緑』からの楽曲の数々では、リリース当時よりうんと優しく、豊かな味わいを持つジャムセッションがくり広げられていた。そしてその音からは、やはりプレイヤー同士がお互いを認め、受け入れ合いながら演奏を高めようとする感覚があったように思う。
今後もAJICOはフェスの出演などを予定している。そこでは多くのオーディエンスに、優しさや思いやり、あたたかみ……そういったものをたくさん伝えてくれるだろう。そしてそこでは、きっと最高の空間が生まれるのではないかと思う次第である。
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