GLIM SPANKY、土砂降りのなか野音で繰り広げたパーティー 全国ツアー『The Goldmine Tour』東京公演

GLIM SPANKY、雨の野音で繰り広げたロック

 昨年11月に通算7枚目のアルバム『The Goldmine』をリリースしたGLIM SPANKYが、同作を携えての全国ツアー『The Goldmine Tour 2024』を恵比寿LIQUIDROOM(“The Goldmine Release Party”/11月30日)を皮切りに、全国23都市で開催。その東京公演を3月24日、日比谷野外大音楽堂にて行った。

 この日は朝からあいにくの空模様。夕方には止むかと思われた雨も、会場に到着する頃にはいっそう激しさを増している。これだから野音は油断ができない……とぼやきながら慌てて売店で雨合羽を購入。同じように軽装で来て間に合わせの雨対策をしている人たちと、『FUJI ROCK』並みの重装備をした人たちが入り混じった客席でバンドの登場を待つ。

松尾レミ(Vo/Gt)
亀本寛貴(Gt)

 定刻になり、かどしゅんたろう(Dr)、栗原大(Ba)、そして中込陽大(Key)という馴染みのサポートを率いて松尾レミ(Vo/Gt)と亀本寛貴(Gt)がステージに姿を現すと、客席から大きな歓声が湧き上がる。大地を力強く踏み鳴らすキックに導かれ、まずはニューアルバムからタイトル曲「The Goldmine」でこの日のライブがスタートした。

 「こんばんは、GLIM SPANKYです。今日は来てくれてありがとう。雨なんてぶっ飛ばして最高の夜にしましょう!」

 そう松尾が呼びかけ、続いて披露したのは「褒めろよ」。ヴィンテージの黒いワンピースに赤いタイツを合わせたこの日の彼女のスタイルは、トレードマークの赤いリッケンバッカーギターがよく映える。長髪を振り乱し、スティックをくるくると回転させながらパワフルなリズムを叩き出すかどと、微動だにせずベースをドライブさせる栗原のコントラストも印象的。その上で松尾がギターを激しくかき鳴らし、雨雲を蹴散らすようなシャウトを放つとオーディエンスの熱気は早くも最初のピークへ。細身のセットアップに身を包んだ亀本が、その熱気をさらに煽るように渾身のソロを披露すると、客席からは大きな拍手と歓声が沸き起こった。

 雨に煙るステージに紫色のライトがあたり、幻想的なムードに包まれるなか「Odd Dancer」を演奏。背後には、松尾と亀本の生まれ故郷である長野のアルプス山脈と、今作のタイトルでもあるゴールドマイン(=金鉱、金山)にインスパイアされた大きな布のセットがそびえ立つ。

 「レコードや古着を買うにも山を越えなきゃならないような、そんなところで私たちは育ちました。美しさと厳しさが混在する大自然は、私たちの日常や、それを取り巻く社会とも似ているところがある。そんなことを考えながら、私たちの生活が少しでも光に包まれたものになったらいいなと思い、この曲を作りました」

 松尾がそう言って演奏したのは「光の車輪」。どれだけ時代がすぎても、どれだけ歳を重ねても変わらない思いを壮大なサウンドスケープに乗せて歌い上げ、亀本の弾く伸びやかなスライドギターが日比谷の空に吸い込まれていく。〈声無き声に勇気を 口に出せる勇気を/ただ思ってるだけじゃ何も無いことと同じさ ほら〉と、言葉を交わし合うことの大切さについて歌う「話をしよう」でも、松尾の歌うメロディとまるで“対話”をするかのように、彼のギターが“声無き声”となって絡み合う。そう、GLIM SPANKYの楽曲は、松尾の声と亀本のギターによる“デュエット”でもあるのだ。

 ニック・ドレイクやジョニ・ミッチェルら、1970年代のアシッドフォークやシンガーソングライターたちにインスパイアされ、変則チューニングを用いた「真昼の幽霊(Interlude)」から「Summer Letter」へと繋ぐセクションは、アルバムのなかでも聴きどころのひとつ。それを野音でも再現し、GLIM SPANKYというバンドが持つ懐の大きさを見せつける。

 「GLIM SPANKYは、コロナ禍でもアルバムを3枚リリースしたんですよ。『なかなかライブができないな』『みんなとまた盛り上がりたい』と思いつつ、新しい自分たちの音をずっと模索し続けていました」――コロナ禍からの3年間を、そう振り返る亀本。「そんなコロナが収束しつつあるなかで作ったこのアルバムは、きっとツアーをする頃には今まで通りのライブができるだろうという確信がありました。そういう意味ではすごく開放的で爽やかなアルバムになったし、デビュー10周年というタイミングでそれが作れたことを嬉しく思っています」

 一方松尾も、「アルバムタイトル曲の歌詞にもある通り、GLIM SPANKYはまだまだやりたいことがたくさんあるし、高校生の頃と変わらずフレッシュな気持ちでいます」と心境を語る。「これからも、ここに集まってくれた仲間たちとその輪を大きくしながら充実した最高の10周年にするつもりなので、みんなよろしくね」と呼びかけると、客席からは温かな拍手が鳴り響いた。

 「なんか喋ってたら寒くなってきちゃった」「早く曲をやってさ、心も体もあったまろうよ」。そう亀本が提案し、演奏したのは「ラストシーン」。Paravi配信ドラマ『恋のLast Vacation 南の楽園プーケットで、働く君に恋をする。』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、松尾のポップセンスが炸裂したGLIM SPANKY流のシティポップナンバーだ。マイクを手に持ち、ステージの端から端まで練り歩きながら、客席の一人ひとりに語りかけるようにして歌う彼女に、オーディエンスもハンドクラップで応えた。

 かと思えば、赤い照明の下で「愛の元へ」を情熱的に歌い上げ、「Glitter Illusion」では半音で進行するスリリングなコードの上で、激しく跳躍するメロディに〈本当の答えなどわかっているのに/もうちょっと夢見せて/目覚めたくないわ〉と思いを乗せた。多様な表現スタイルを持つGLIM SPANKYの楽曲のなかでも、ウェットで叙情的な面をフィーチャーした楽曲が並ぶこのセクションになると、まるで待ち構えていたように雨も本降りに。

「雨、まだ降ってる? でもそんなの関係ないよね。ロックンロールで盛り上がっていこう!」

 松尾がそう叫び、Joan Jett & The Blackheartsの「I Love Rock 'N Roll」やQueenの「We Will Rock You」を彷彿とさせるライブアンセム「NEXT ONE」を叩きつける〈道無き道を行けば 開くよ挑む世界が〉〈夢は誰かに笑われる程大きく/届かぬくらいが僕等に丁度いいのさ〉と、まさに自分たちの“その後の生き様”を予想しているような歌詞に驚く。間髪入れず「怒りをくれよ」と初期の名曲を畳み掛け、負けじとオーディエンスも拳を振り上げた。

 さらに、〈あたし以外は 不幸であれ〉〈あたしみたいに 不幸であれ〉〈この世は皆 不幸であれ〉とネガティブを極めた先に見える世界に思いを馳せた、GLIM SPANKYにとっての意欲作であり新境地「不幸アレ」をシンガロング。気づけば雨足も少しずつ弱まってきたようだ。

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