BAD HOP、最後の夜に8人が打ち立てた伝説とは何だったのか? 前人未到の東京ドーム公演を振り返る

BAD HOP、伝説のラストライブのすべて

 2024年2月19日、日本のHIPHOP史に残る伝説が打ち立てられた。川崎発のHIPHOPクルー・BAD HOPが、東京ドームでラストライブ『BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME』を開催し、日本のHIPHOPアクトとしては初となる同会場での単独公演を成功させたのだ。

 2014年、『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』での優勝経験を持つ双子のT-PablowとYZERRを中心に、Tiji Jojo、Benjazzy、Yellow Pato、G-k.i.d、Vingo、Barkの幼馴染み8名で結成されたBAD HOP。地元の“川崎サウスサイド”をレペゼンしながら支持を広げ、2018年11月には日本武道館でのワンマンライブを敢行、その後も大きな盛り上がりを見せる日本のHIPHOPシーンを牽引する存在としてトップを走り続けてきた。

 しかし、2023年5月に解散することを発表。同年9月に東京ドームでラストライブを行うことを明かし、前人未到の挑戦に大きな注目が集まっていた(ちなみに東京ドームで過去に単独公演を開催したラッパーは、海外勢を含めてもMCハマーを除いて他にいない)。

 チケットは完売し、見切れ席のチケットも追加販売されるほどの盛況となったこの日のライブ。約5万人の観客が期待を胸に見守るなか、ステージの大型ビジョンにBAD HOPのこれまでの歩みをプレイバックするオープニングムービーが映し出され、ついに伝説の公演が幕を開ける。彼らが最初に放ったのは「TOKYO DOME CYPHER」。東京ドーム公演の開催に先駆けて会場で撮影されたMVが公開となった、彼らの大きな挑戦への第一歩としてメンバー8人全員が参加する楽曲だ。MVでは観客のいない東京ドームで8人がサイファーを行う様子が映されていたが、今、彼らの目の前に広がるのは一面人で埋まった満員の客席。メンバーが順番にラップするたびに割れんばかりの大きな歓声が上がる。

 「川崎のHIPHOPがここまで来たぜ!」(YZERR)との声に続いて、彼らの地元である川崎市川崎区の池上町でのストリートライフを織り込んだ「IKEGAMI BOYZ」でギアを上げると、赤いレーザーが物々しい雰囲気を演出する「Round One」ではYZERRが1バースだけキックし、そこから続編的なナンバー「Final Round」に繋げる演出で盛り上げる。ライブ定番の人気曲「I Feel Like Goku」では、ビジョンに映されたT-Pablow、G-k.i.d、Vingoがオーラを纏っているようなビジュアルエフェクトが施され、まさにスーパーサイヤ人といった雰囲気だ。

photo by 新保勇樹

 Tiji Jojoのメロディアスなフロウが映える「South Side Night」では、eydenとDeech(彼も川崎を拠点に活動している)を迎えてサウスサイドのルーツを示すと、続いて¥ellow Bucksがサプライズで現れて、彼の楽曲「Higher Remix」に突入。YZERR、Tiji Jojo、eydenとマイクを回していき、その流れでBonbero、さらに川崎のHIPHOPシーンの先達ラッパーであるSEEDAが登場し、観客も大合唱で応える。ストリートライフを綴るラップスタイルの立役者のひとりであるSEEDAが、東京ドームのステージに立っている姿に、胸を震わせたヘッズも多かったはずだ。

 そして、BenjazzyがBonberoに「俺とどっちがラップ上手いか勝負しようぜ」と呼びかけて「B2B」へ。Chaki ZuluによるUKガラージ調のトラック上でふたりの高速フロウがぶつかり合う。彼らは『FSL(FREE STYLE LEAGUE)』のエキシビジョンマッチでMCバトルを繰り広げたこともある、いわば好敵手のような関係性。そのふたりが大舞台で楽しそうにラップをパスし合う様子にもグッとくる。

 ここまでは、先日リリースされたばかりのラストアルバム『BAD HOP』の楽曲を中心に披露されたが、ここからはバック・イン・ザ・デイの時間。ビジョンに彼らの結成年である“2014”という数字が大きく映し出され、そこから「B.H.G」「Chain Gang」「White T-Shirt」といった初期の代表曲/人気曲を矢継ぎ早に繰り出していく(ビジョンに彼らの最初のアルバム『BAD HOP』のジャケット/ロゴが映し出されていたのもエモかった)。さらに時は進んで2017年、アルバム『Mobb Life』からタイトル曲「Mobb Life」、そしてライブではいつも合唱が巻き起こる「Super Car」を披露……と思ったら途中で中断してYZERRが「俺たち昔はスーパーカーって歌ってたけど、今ではロールスロイス買ったり、いいチェインをつけたり、続きがあるってことだ」と語り、「Super Car」から最新アルバム収録の続編曲「Supercar2」を連続で届ける。

 その後、再び『Mobb Life』期に戻って、Yellow Pato、G-k.i.d、Barkの哀愁漂うフロウが熱い「3LDK」、T-Pablowのフック部分で会場を揺るがすの大合唱が巻き起こった人気曲「Asian Doll」、YZERRとTiji JojoがHIPHOPへの想いを綴った「これ以外」とエモーショナルな楽曲を連発。時は2018年に進み、武道館ワンマンでは1曲目を飾っていた「Prologue」、BenjazzyとVingoの気合いの入ったフロウが強烈だった「2018」と続く。

 G-k.i.dが「東京ドームに集まってくれたみんなと一緒に歌いたい曲があるんだけど、お願いしていいかな?」と客席に向けて語りかけると、様々な事情で去っていった仲間たちに捧ぐナンバー「CALLIN'」を披露。ビジョンには川崎駅前仲見世通商店街のアーチが大きく映し出される。さらに最新アルバム『BAD HOP』より、guca owlとKEIJUをステージに迎えた「Day N Night」、ビジョンに映された8個の星が横並びになった映像がBAD HOPの関係性を象徴するようだった「Locker」と、G-k.i.dのフックを軸にした情感溢れる3曲が続けて届けられた。

 YZERRが「まだまだ友だちを連れてきてるぜ」と告げると、ここからはゲストを交えた楽曲を連発。「Friends」ではJP THE WAVYとLEXが駆けつけてボルテージを上げると、YZERRがJP THE WAVYを指して「俺たちがいるってことは、どういうことかわかる?」という言葉に続いて、Awichがセンターステージに登場して彼女の楽曲「GILA GILA」を3人でパフォーマンス。文字通りのギラギラした照明演出も相まって、さらなる熱狂を作り上げる。続く「Shoot My Shot」では、Eric.B.Jrと漢 a.k.a. GAMI、同曲にクレジットはされていないながらも1小節だけ参加しているD.Oも登場(D.Oは「FREE NORIKIYO Tシャツ」を着てアピールしていた)。さらにソウルフルなビート上でBark、Benjazzy、C.O.S.A.、IOがマイクを回す「4L」で熱くクールに盛り上げる。

 そこからVingoの高音フロウと軽快なステップが印象的だった「Chop Stick」「Hell Yeah」と続け、後者ではMaRIも登場して凄みのあるラップとフックの〈ケツを振れ振れ振れ〉というリリックに合わせたアクションで会場を沸かす。海外プロデューサーのWheezyとTurboが手掛けた「Foreign」を挟み、BAD HOPの作品には欠かせない日本の人気プロデューサー・ZOT on the WAVEのソロ名義による楽曲「TEIHEN」へ。ここではYZERRと、BAD HOPと同じく川崎サウスサイドをレペゼンするCandeeが肩を並べてラップする。

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