舐達麻がBAD HOPに仕掛けたビーフはなぜここまで大規模に? 両者のスタイルをあらためて検証
舐達麻が、新曲「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」を12月1日にリリースした。
楽曲の内容はBAD HOPへのディスではありつつも、詩的なリリックやHIPHOPにおけるサンプリング、ビーフといった文化を反映しており、舐達麻の音楽性とラッパー/アーティストとしてのスタイルを物語っている。
YouTubeに投稿された同曲のMVは、投稿から2週間以上が経過した12月19日現在は600万再生を記録しており、急上昇カテゴリでは公開から数日経っても1位をキープ。また、Instagramでは同曲を使用したリールが数多く投稿されているなど、HIPHOPシーン外からも異例の注目を集めている状況だ。
なぜ両者はぶつかり合うことになったのか。真に理解するには単なる経緯だけではなく、それぞれのスタイルの違いを説明する必要がある。本稿では、BAD HOPと舐達麻、両者の音楽性を紐解いていく。
まず今回のビーフの経緯について遡ってみると、大元は2019年に勃発したBAD HOPのメンバー・YZERRとRYKEY DADDY DIRTYのビーフにある。RYKEY DADDY DIRTYが、YZERRの楽曲「Back Stage feat. Tiji Jojo」を「パクリ」と揶揄し、SNSで舌戦が繰り広げられた。その後、RYKEY DADDY DIRTYがBAD HOPへのディスソング「You Can Get Again」を公開。同曲には舐達麻のBADSAIKUSHも参加している。結果としてこのビーフは、RYKEY DADDY DIRTYの逮捕で一度終息した。
冷戦状態にあったRYKEY DADDY DIRTYとYZERRだが、2023年9月に開催されたHIPHOPフェス『THE HOPE 2023』のアフターパーティーで思わぬ再会を果たし、再び争いが起こる。そこにジャパニーズマゲニーズや阿修羅MIC、BAD HOPのメンバー・T-Pablowも加わり、次第に争いの波が大きくなっていった。
その後10月に愛知県で開催されたHIPHOPフェス『AH1』で、ジャパニーズマゲニーズの孫GONGがアフターパーティーでの非礼を詫びようと阿修羅MICを通じてYZERRに接触を試みるが、YZERRはこれを拒否。会場での鉢合わせを回避すべく、BAD HOPの出番前に彼らを帰らせるよう運営側に話したという。
しかし、出番前に阿修羅MICと舐達麻の姿を会場で発見し、YZERRはこれまでの経緯もあってBADSAIKUSHに掴みかかり乱闘騒ぎに発展した。当日のBAD HOPのパフォーマンスはキャンセルとなり、観客には機材トラブルとして説明されたが、SNS上には騒動の様子が投稿、拡散され、後日YZERRはInstagramのライブ配信で経緯を説明した。
無言を貫き、楽曲のみでアンサーを返した舐達麻
舐達麻は騒動のあともSNSなどでの発言はなく、突如として前述のディスソングをリリースした。騒動から短期間で投稿されたMVには称賛のコメントが相次いでいる。
無言を貫いた背景からは、彼らが何者にもとらわれず独自のスタイルを守り通す姿勢が感じ取れる。ブーンバップ、トラップ、ジャージークラブなどといったジャンルが続々と形成されるHIPHOPシーンにおいて、舐達麻はサンプリングを基礎としたクラシカルなビートを選択し、地に足をつけて等身大のリリックを歌う。また、自身のルーツから生まれる題材をドラマティックに楽曲に落とし込むという美学の徹底、これこそが舐達麻の音楽性と言えるだろう。
今回発表した楽曲の〈争いならぶち殺せばゴール/今おれらはまずBeatに問う/ネットに愚痴る事情や苦情なら/仲間と今日/曲を書こう〉といった歌詞からは、舐達麻のスタンスが滲み出ている。
これはディスソングというコンセプトであるからか、比較的伝わりやすいリリックとなっているが、舐達麻の楽曲は解釈がリスナーに委ねられるのが特徴だ。たとえば、「BUDS MONTAGE」は、煙を纏い退廃的な雰囲気を漂わせ、どこか掴みどころのない楽曲となっているが、YouTubeに公開したMVの再生回数は5000万回に迫る勢いで、HIPHOPフェス『THE HOPE 2023』で披露した時にはイントロから大歓声を浴びるなど、今や舐達麻の代表曲と言えるほどの人気を博している。