BAD HOP、最後の夜に8人が打ち立てた伝説とは何だったのか? 前人未到の東京ドーム公演を振り返る

BAD HOP、伝説のラストライブのすべて

 そしてここからは、KenKen(Ba)、金子ノブアキ(Dr)、masasucks(Gt)、伊澤一葉(Key)という凄腕ミュージシャンがサポートするバンドセットでのライブを4曲連続で展開。YZERRのソロ作品よりTiji Jojoが参加した「Back Stage」、Tiji Jojoのフックを軸にT-Pablowのみならずリミックスバージョンに参加していたHideyoshiとJin Doggも加わってエモーショナルな景色を描き出した「Suicide」、さらに「Bayside Dream」、炎の柱が上がる特効が熱気を高めた「Champion Road」を披露して、フェスなどでバンドセットでのライブにも取り組んできたBAD HOPならではのステージを見せつける。

 センターステージにフードを被った男が登場する。逆光になっていてその顔は見えない。客席がざわめくなか、次の曲「Mukaijima」が始まると彼はフードを脱いで熱いフロウを迸らせる。その男の名はANARCHY。京都の向島団地から叩き上げで日本のHIPHOPシーンの最前線を走り続けてきた、BAD HOPにとっての憧れの存在だ(Benjazzyは同曲のリリックで〈パブロにanarchy聴かせた事が今も俺の誇り〉と綴っている)。彼とAIを迎えた新曲を披露して、フッドスターとしての矜持を示す。

 さらにYZERRが「もうひとり、俺たちが憧れていたスターを呼んでるぜ」と語ると、彼がひとりでステージに残って、完全初披露の新曲「SOHO」をラップし始める。そのリリックのなかに〈69〉というフレーズが登場して、そのスターが誰なのかを予感して大きくざわめく会場。そして多くの観客が予想した通り、AK-69がステージに現れて、東京ドームは熱狂の渦に包まれる。彼は2016年の楽曲「Streets」で2WIN(T-PablowとYZERRによるユニット)をフィーチャリングして彼らをフックアップしていたが、今、東京ドームという国内最大級のステージで、YZERRがその恩に報いる。AK-69は「あの時の少年が今、ここドームに立ってる。こんな美しい景色ねえだろう!」「解散なんてまだ早えんじゃねえの。だけど、この尊い時間、みんな目に焼きつけろ。BAD HOP FOREVER!」と、最大限の敬意を示してステージを去った。

 「Diamond」では、センターステージが高くせり上がって、メンバーたちがアリーナ席を見下ろすロケーションのなか、会場中のファンがスマホのライトをつけて東京ドームが白い光に包まれる。フックの〈俺たち照らす iPhone〉というリリックそのままの〈夢に見たシチュエーション〉に、彼らも感慨深げにステージからその光景を見渡す。そして〈毎日がWeekend〉な日々を綴った「High Land」と「Ocean View」を2曲続けて届けると、最新アルバム『BAD HOP』収録の「Last Party Never End」に繋げ、〈俺たちに終わりはねえ/誰一人帰さない最後まで〉と、幕が閉じても終わることのないパーティーの時間を演出。リリースされたばかりの新曲ながらも、会場からは大合唱が巻き起こる。

photo by 新保勇樹

 ここでT-Pablowが「俺の尊敬している人との新曲」と告げて、この日が初お披露目となった新曲「Empire Of The Sun」をパフォーマンスする。その“俺の尊敬している人”とはZeebra。『高校生RAP選手権』で注目を集めたT-PablowとYZERRに声をかけ、自身の運営するレーベル・GRAND MASTERで2WINをバックアップし、TV番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)の初代モンスターにT-Pablowを抜擢するなど、彼らにとって恩人とも言うべき存在だ。T-Pablowのバースには『高校生RAP選手権』決勝戦でのフレーズやZeebraの代表曲「Street Dreams」を引用した〈俺も不可能を可能にした選ばれた日本人〉といったリリックが織り込まれ、かつてのトレードマークだったコーンロウで登場したZeebraも〈お前達の様な奴を待ち望んでた〉〈俺と仲間が見てた夢の続きを/お前と仲間で見せてくれてありがとう〉〈親を超える事がやっぱ一番の親孝行だよ〉といった熱いパンチラインを連発して、その度に会場は大きく沸き上がる。最後はZeebraが自身のフレーズをサンプリングした〈これがリアルヒップホップ 不可能なんて文字はねえ〉で締め括る。Zeebraは最後にT-Pablowと熱い抱擁を交わし、後ろに控えていたYZERRとも握手をして、「お前らが歴史作ったんだよ」と、ストリートドリームを叶えたBAD HOPに最大級の賛辞を贈った。

 そんな感動的な場面に続いて披露されたのは「Hood Gospel」。フッドからトップに登り詰めた自身の成功をただ誇示するのではなく、その姿を見せることで、次の“フッドスター”になるかもしれない誰かを鼓舞するような楽曲だ。Barkの〈次に繋ぐ事が俺達の役目〉といったフレーズ、YZERRによるフックの〈遠く離れた場所で俺らを見てるお前に届ける〉という言葉が、ラストライブというステージでより重みを持って届く。ラスト、T-Pablowの〈沢山にじゃなくて/お前にだけ届けてる〉という言葉に背中を押された人も多かったのではないだろうか。

 ラストパーティーはついに終幕の時間に。その前にYZERRが「ここに集まってくれたHIPHOPを愛するみんな、本当にありがとう」「俺たち、本当にガキの頃から一緒で、まさかこんな東京ドームに立てるなんて思わなかった」と感謝の気持ちを伝えるとともに、「いろんなものを抱え込んでいる奴とか、クソみたいな環境で生まれた奴がたくさんいると思うんだよ。俺たちはここから抜け出せないとか、無理とか。俺も地元で貧困ばっか見てきて、まともになった奴は少ねえけど、全員にひとつだけ言いたいのは、BAD HOPは今ここに立っているということ。それだけは忘れないでくれ」と、何よりも説得力のあるメッセージを届ける。

 歓声に沸くなか、YZERRは「俺たちがどっからきたか知ってんだろ!」と吠え、BAD HOPが最後に放ったのは、彼らの代名詞となっているナンバー「Kawasaki Drift」。センターステージに集った8人が気迫のこもったマイクリレーを畳みかけ、東京ドームが揺れんばかりの大合唱が巻き起こる。〈brrn brrn〉とアクセル全開で突っ走り、全43曲、約2時間半のステージを、ほぼMCなしで一気に駆け抜けて、BAD HOPは有終の美を飾った。

photo by 木村辰郎

 最初から最後まで、自分たちのライフスタイルとスタンスを崩すことなく、川崎から日本のHIPHOPシーンの最高峰となるステージに到達した彼らの偉業は、間違いなく伝説として語り継がれることだろう。それと同時に、彼らとともにシーンを盛り上げてきた若手から、それ以前からシーンを作り上げてきたベテランまで、多くのゲストと作り上げられたこの日のライブは、日本のHIPHOPシーン全体へのリスペクトに満ちたものだった。終演後にT-Pablowが「みんなの心のなかで生きていたら、俺たちBAD HOPは永遠に死なないと思う」と語っていたように、BAD HOPの楽曲はこれからも聴き継がれていくだろうし、彼らが偉大な先達たちに刺激されてここまで辿り着いたように、彼らの軌跡もまた次の世代に刺激を与えて、今後シーンはさらに広がっていくことだろう。BAD HOP FOREVER!

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