三宅健、SKY-HI×Nissy、YOASOBI、HoneyWorks……異色の“アイドル”題材楽曲はなぜ人気?
「アイドル」ーーそう聞いてイメージするのは、ステージでスポットライトを浴びて輝く姿だろうか。それとも、ファンに愛嬌を振りまく光景だろうか。「アイドル」という単語の意味を調べても出てくる答えは一つではないように、この仕事を生業にする者は、各自がその笑顔の裏で異なる想いを抱き、時に作品を通じてまっすぐな心の内を伝えている。本稿では、近年リリースされた中から「アイドル」をテーマにした楽曲に込められたメッセージを紐解くとともに、その職業の奥深さを探っていく。
豊富な経験値が裏打ちする、三宅健の肯定的なアイドル観
三宅健が2024年1月29日に配信リリースした「iDOLING」(読み:アイドリング)は、彼がTOBEで新たなスタートを切ったことを機に、「アイドル」という存在に改めて向き合った作品だ。
1995年にV6でデビューした三宅は、2010年、今作でも作詞作曲を務めるDef TechのMicroと、1985年に発売された小泉今日子のシングル「なんてったってアイドル」を元にした「悲しいほどに ア・イ・ド・ル~ガラスの靴~」を制作。“変装をしていても少しくらいは私だと気づいてほしい” “恋はするけどスキャンダルは嫌だ” といったあまのじゃくな心情を赤裸々に描きながら〈アイドルはやめられない〉の一言の重みを感じさせる「なんてったってアイドル」の精神は「悲しいほどにア・イ・ド・ル」にも継承され、〈虚像とリアル/その狭間で俺 生きていく〉〈演じている自分も/決して嘘じゃない〉とアイドルとして生きる素直な想いを包み隠さず表現してアイドルがもつ二面性を肯定している。
そんな中、30年のアイドル人生で幾多の経験を積みながら自身のキャリアと向き合ってきた三宅が発表したのが、“決して切り離すことはできないこれまでのアイドル人生”=過去を胸に抱きながら、現在の素直な想いと未来への希望を歌った「iDOLING」だ。ライムを存分に刻んだ中盤のラップパートでは、〈乗り越えてゆけたら追い風〉〈いくわけないそんな思い通り〉と新たな環境で再スタートを切ることへの緊張や不安を滲ませつつも、〈これは幸せを運ぶリベンジ/僕にとっては独立記念日〉〈歌って踊ることこそ遺伝子〉と、アイドルとして生きることをポジティブに捉えているように受け取れる。
TOBE移籍後に開設された三宅の公式Instagram(@kenmiyake_idol)(※1)のユーザーネームには「idol」、プロフィールには「職業idol」と表記されている。アーティストでも表現者でもなく、アイドル。誰もの目につく場所にこの言葉を明記する意図からも、ベテランアイドル・三宅健の覚悟と生き様が感じ取れるのではないだろうか。
SKY-HIとNissyが偏った見方への反骨心を昇華させた「SUPER IDOL」
歌って踊る表現者を一括りに「アイドル」と扱うことへの反骨精神を持ちつつ、ジャンルでは語り切れない自らのエンターテイナー性を体現しているのが、AAAのメンバー・日高光啓、西島隆弘として長い時をともに歩んできたSKY-HI×Nissyの「SUPER IDOL」だ。
「アイドル」としてデビューしたわけではないが、〈無意識な偏見に気づきな〉とのフレーズ通り、前例の少ない男女混合ダンス&ボーカルグループであるAAAはアイドル的な見方をされることもあった。また、SKY-HIとしてアンダーグラウンドでも活動していた日高は、2013年のメジャーデビュー以降も「アイドルがラップを?」と揶揄され、ありのまま音楽ができる環境を求めて2020年にBMSGを設立。2023年にソロデビュー10周年を迎えたNissyこと西島も、彼自身のアーティスト性を、AAAだけでなくソロプロジェクト・Nissy Entertainmentを通じても追い求めてきた。そして、固有の価値観でレッテルを貼られ、さまざまな肩書きの狭間で葛藤してきた彼らが、互いの10周年の節目に共作したのが本作だ。
〈覚悟もなく隠れて影に/粗探し好きなアイロニー〉〈君がどんな夢見ようと/ほんのちょっと叶えようと/その全て俺の日常〉という歌詞の随所には、他人の粗探しをしては匿名で叩くような世間のあり方や、自らの人生そのものが大衆の娯楽になる現実への皮肉らしきものが、今やベテランの域である彼らだからこそ切り込める角度から隠喩的に表されている。中でも、〈歌が上手けりゃ実力派/顔面良ければアイドルか?〉とストレートに問いつつ〈両方揃ったらI don’t care〉と自答してみせた2番のプリコーラスには耳を疑った。大衆がたびたび疑問を呈してきたいわゆる“アイドル・アーティスト論争”に彼は、「(歌唱力とルックスの両方を兼ね備えた)俺はそんなことは気にしない、全力でステージに立つ」と説得力に満ちた結論を提示したのである。
コラボ発表時にSKY-HIが「Nissyに反抗期が来たとは思わないで」と釘を刺していたように、普段のNissy Entertainmentではあまり聴くことがない鋭い歌詞がこの曲にスパイスをきかせているのは確かだ。ソロでは“妄想を超える現実”で誰しもの背中を押すSKY-HIと、魔法使いのようにエンターテインメントで夢を見せるNissy。正反対な音楽性をもつ相棒同士のコラボだからこそ引き出されたリアルな言葉が、確立したスタイルをもって最前線で業界を牽引してきた2人の頼もしさを感じさせてくれているのではないだろうか。