リュックと添い寝ごはん、2024年は加速の年に 感動と新基軸で未来を照らす2曲を聴いて
年明けから3月にかけては一昨年の秋にリリースされた2ndアルバム『四季』のリリースツアー、さらに8〜9月には彼らにとって過去最大規模となる『ワンマンツアー2023 夏 “baby”』、合間にフェスやイベントへの出演も多数。2023年のリュックと添い寝ごはんはライブに明け暮れていた。『四季』のタイミングで正式に4人体制になり、かつコロナ禍で制限されていた声出しも解禁されたこともあって、3月に観た『四季』ツアーのファイナルでも、夏フェスでも、そのパフォーマンスは明らかにパワーアップしていることが見てとれた。演奏そのものが磨かれたことはもちろん、メンバー全員がオーディエンスと積極的にコミュニケーションを取りながら会場全体を巻き込んでいくようなそのライブは痛快そのものであると同時に、それまで「あたたかさ」というキーワードで世界観を作り上げてきたバンドのフェーズをさらに前進させるものだった。
そうやってアグレッシブにライブを展開する一方で、彼らは楽曲制作の部分でも歩みを止めなかった。6月に「反撃的讃歌」、7月に「Be My Baby」と夏フェスシーズンを前にパワフルな曲を連打。夏にこの2曲についてインタビューした際には、アルバムを作り終えて早くもさらにその先へと突き進んでいるバンドの前のめりなモードを確認することができた(※1)。そしてその2曲を経て、11月にリリースされたのが「恋をして」だった。この楽曲を最初に聴いた瞬間、感動と興奮に心が震えた。もちろんそれまでも彼らの新曲が出るたびに驚いたり喜んだりしてきたのだが、なぜかこの曲だけはちょっと違った。「ノーマル」とも「東京少女」とも「反撃的讃歌」とも違う、今のリュックと添い寝ごはんの等身大を正確に反映したロックソングがついに誕生したという気がしたのだ。
この「恋をして」には、10代の頃の彼らが持っていた未来へのでっかい期待や希望も、その裏返しの焦燥感や焦りも、そしてメジャーデビュー後の彼らが追い求めてきた優しさや大らかさや愛も、つまりリュックと添い寝ごはんが結成以来音楽にしてきた風景のすべてが重なっている。それを、安定感のある宮澤あかり(Dr)のドラムが、進化し続ける堂免英敬(Ba)のベースが、そしてこの楽曲の主役といってもいいぬん(Gt)のギターリフが力強く鳴らす。そのバンドの音に背中を押されるように、松本ユウ(Vo/Gt)は〈恋をして季節は巡り/遠く君の街へ届けよう/きっとこれからの日々は長い/今までよりも熱く〉と強い意志を感じさせるメッセージを歌う。そんな曲がライブで盛り上がらないわけがない。リリース前からすでに人気曲となっていた「恋をして」だが、リュックと添い寝ごはんの代表曲のひとつと言われるものになっていくはずだ。
そんな2023年を終え、年が明けて1月10日。その「恋をして」に続く新たな配信シングルがリリースされた。曲名は「天国街道」。ジャッキー・チェンのそっくりさんである“ジャッキーちゃん”が出演したコミカルなMV(観るともれなく中華を食いに行きたくなる)も話題となった、リュクソ的に超新鮮なダンスロックチューンである。この曲も昨年夏からライブで披露され、ファンの間でリリースを待ち望まれていたもの。〈一二三のリズムで踊らにゃ損々〉(〈一二三〉のところは中国語風に「イーアルサン」と読む)のフレーズ通り、中華風のギターフレーズとどこかエキゾチックなリズムが問答無用でオーディエンスを踊らせる。なぜ「中華」なのか、という素朴な疑問はひとまず置いておいて、まだ聴いていない人は今すぐチェックして一緒に踊ってもらいたい。
今筆者は「なぜ『中華』なのか」と書いたが、じつを言えばそれはどうでもいい。と言うとさすがに語弊があるし、このノリが楽曲のパワーの源泉となっていることは確かなのだが、言いたいのは中華だろうとアフロビートだろうとラテンだろうと、とにかくこれまでのリュックと添い寝ごはんとは全く違うリズムとバイブスで突き抜けきっているという点である。そういえば昨年夏に行ったインタビューで松本はぽろっと「中華っぽい曲もあったりするし」と言っていた(※2)。それがこれだったわけだが、それぐらい自由度と振り幅の大きいなかで、この1年の彼らは楽曲を作り続けてきたのであり、その(たぶん)極致が、この「天国街道」だということなのだろう。これまでの彼らにはないグルーヴを持った楽曲なので、もしかしたらこのサウンドを生み出すまでにはいろいろな試行錯誤があったのかもしれない。だがそんなことを感じさせないほどに、ここでの4人の演奏はこの楽曲を乗りこなしている。