リュックと添い寝ごはん、出会いを経て深めた音楽への愛 新体制の変化と絆が詰まった『四季』に至るまで
10月にこれまで長くサポートメンバーを務めてきたギタリスト「ぬん」こと沼田航大が正式加入。改めて4人組バンドとしてスタートを切ったリュックと添い寝ごはん。その第一歩、というか、すばらしい幕開けとなるアルバムが、11月9日にリリースされた『四季』だ。
前作『neo neo』以降の2年間、彼らが追いかけ続けてきた理想の音楽、それは歌詞のメッセージだったりメロディの優しさだったりサウンドのあたたかみだったりで表現されてきたわけだが、その「目指してきたもの」が「愛」や「歌」「音楽」といった、とてもエッセンシャルな言葉に帰結しているこのアルバムは、簡単にいえば「リュックと添い寝ごはんは何を歌うバンドなのか」ということに対する現時点での揺るぎなき答えだ。すでにライブでも大事な曲になっている「Thank you for the Music」をはじめ、ここに収められた新曲たちはどのように生まれてきたのか。メンバー4人にたっぷり語ってもらった。(小川智宏)
「変わっていくことにすごく寛容になっている」(松本)
ーーぬんさんはずっとサポートメンバーとして一緒にやってきたわけですけど、このタイミングで加入して心境の変化みたいなものはありますか?
沼田航大(以下、沼田):サポートのときからほぼメンバーのような顔をしてステージに立っていたので、心境的に変わった感じではないんですけど。でも「やるぞ」っていう気持ちはちょっと強まったかなとは思いますね。
ーーこのタイミングで正式加入というのは、どういうふうに決まったんですか?
松本ユウ(以下、松本):プロポーズみたいな感覚で居酒屋へ呼び出して、3人から伝えたんですよ。
宮澤あかり(以下、宮澤):話をしたときは超緊張しました。
沼田:その居酒屋のときも、呼び出されたというか待たされたんですけどね、5時間ぐらい。
ーー居酒屋で1人で5時間待ったんですか?
堂免英敬(以下、堂免):行ったら「僕、もう7杯目なんだよ」っていう感じだった(笑)。
沼田:あの待っているときが一番辛かった。
ーーよく入ってくれましたね(笑)。3人は改めて4人で進んでいくとなって、どういう変化がありましたか?
宮澤:より接しやすくなったかな。言いたいことも言いやすくなった感じがします。今までも遠慮はしてなかったつもりですけど、ちょっとそういうところがあったかもしれないし。
堂免:漠然と1つにまとまった感、あるよね。もともとバラバラだったわけでもないから、「めっちゃ1つになってる!」っていうことではないんですけど、それがよりギュッとなった感じがします。
ーー3人から見たぬんさんの魅力ってどういうところなんですか?
宮澤:よく笑う。あとライブ中に後ろを見てくれる。
松本:ほんとお兄さんですね。なんかお兄さんっぽくないですけど、一番お兄さんというか。心のどこかですごく安心できる人なんです。
堂免:ギタリストとしての部分でいうと、多彩なフレーズを演奏してくれるんですけど、そのなかでも絶対にぬんさんっていう筋が1本通ってるギターを弾くなと思っています。僕ら、結構いろんなジャンルに手を出したりとかしてますけど、その中で一番目立つ存在のリードギターが一本筋が通っているというのは、僕らの音を形成する上でも大事なんじゃないかなと。
ーー逆にぬんさんはリュックと添い寝ごはんのどういうところに魅力を感じながらやってきたんですか?
沼田:なんだろう、目に見えて成長していってるのがすごく感じられるんで。親のように成長を楽しみながら聴いているんです。ユウくんの歌詞やメロディも、みんなのプレイもどんどんよくなってきているので、すごくいいなと思います。最初は1リスナーとして楽曲を聴いていた側だったので、そう考えると感慨深いですね。
ーー今回の『四季』というアルバムは、バンドの成長という意味では生まれ変わったぐらいの感じがありますよね。
松本:そうですね。今までも「新しいものを」っていう感覚ではいたんですけど、今回はそうやって意識して「新しいものを作るぞ」っていうよりも、自然と生まれた楽曲が多かったので。『四季」というタイトルにも表れているように、自分たちが変わっていくことにすごく寛容になっているというか、当たり前の感覚になっている。それがよかったなと思います。
宮澤:だからこのタイトルはぴったりだと思います。それぞれのやりたいこと、やっていることが出ているし、自分もドラムを叩いていて「楽しいな」って思える曲がたくさんあります。
堂免:本当に、言っていただいたとおり「成長したな」って。自分で言うのもなんですけど、自分のベースを聴いてもみんなのアンサンブルを聴いても、胸を張って成長したって言えるようなアルバムだなって思います。
沼田:プレイの部分でも結構挑戦していることが多くて。「疾走」のカントリーチックなリフだったり、「みんなのうた」はグルーヴィだったり。「everyday」ではベースソロなんかもあったり。全体的に挑戦したアルバムかなって思います。
アルバムに繋がったそれぞれのターニングポイント
ーー今回のアルバムは『neo neo』を出してからの2年間の集大成でもあるわけですけど、改めてこの2年間はリュックと添い寝ごはんにとってどういう時間でしたか?
松本:この2年間でいろいろなタイアップとかもやることができて。そのなかで自分がどう見られているのかなって考えることもありましたし、「自分がやりたいことは何だろう」って自分を見つめる時間もすごく長かったと思うんです。それが本当に自分の身になった感じはします。
ーー3人から見て松本さんはどう変わったと思いますか?
宮澤:基本のところはいい意味で変わってないと思うんです。でも変わってきた部分でいうと、「愛」っていうのがすごく出てきてるなって。音楽への愛とかが出てきて、大人になった感じが見えます。
堂免:本当に自分をすごく表現するようになったなって思います。今までの楽曲のいいところを残しつつも、ユウが好きな音楽とか大事にしている考え方とかがより濃く楽曲に出るようになった。だから僕らもそれに合わせて「じゃあこういうベースを弾こう」とか考えてついていくことができるようになったので、そこが大きい変化かなって思います。
沼田:一時期、ユウくんがスランプに陥っていたことがあったんです。そこがバンドとしてのターニングポイントだったのかもしれないなって感じますね。
ーーぬんさんの言う通り、スランプというか、なかなか思うような曲が作れないという時期があったじゃないですか。今振り返って、あのときはどういう心情だったんですか?
松本:やっぱり……憧れるものが増えれば増えるほど、スランプになりやすいんだなって今改めて思うんです。憧れを作るのはすごく大事だけど、当時は自分がそれに流されすぎていたな、そこに身を任せすぎていたからスランプになったんだろうなって。そこでちゃんと自分自身で立てないと抜け出せないっていうのはわかりましたね。
ーーそうやって憧れだけじゃ進めないとなったときに支えになるものは何だったんですか?
松本:本当に毎日、会う人会う人に支えられていたなと思います。ずっと家にいたらくじけてただろうし、毎日誰かに会って誰かと話すことでリフレッシュできていたというか、自分を充実させることができていたのかなって。
ーーさっき宮澤さんが言っていたとおり、「愛」っていうのはこのアルバムの1つのテーマだと思うんですけど、その壮大な言葉と向き合うようになったのはどうしてだと思いますか?
松本:向き合うのはずっと向き合っていたんだと思うんです。でもそれが表面に出てきた。誰かに対して感謝もしてるし愛を感じているけど、それをうまく自己表現できていなかった。思春期だったのか……わからないですけど(笑)。
ーー今までリュックと添い寝ごはんが「青春」とか「あたたかみ」という言葉で表現していたものも結局は「愛」だったんだなっていうのを、このアルバムはすごく感じさせてくれる。どこかで松本さんもそのことを確信したんじゃないかと思うんです。
松本:それもタイアップの仕事を受けたりして、いろいろな人に出会っていくなかで気づいていったのかな。誰かと会うことってすごく大事だなって思いました。
宮澤:歌詞のいろんなところに「愛」がすごく出てくるようになりましたよね。あと好きなものを好きって言うようになった気がする。
堂免:本当にそれは思う。
宮澤:「ラザニアが大好き」とか(笑)。そういうのも小さいことだけど愛なのかなって。
堂免:自己表現が本当に多くなったというか、色濃く感じるようになりました。
ーーそれを口に出して言えるようになったのは、自信がついたということでもあるんですか?
松本:自信だと思います。自分の考えていることが正しいのだろうかっていう部分で自信がなかったんですけど、それを人と話していくなかで「こういう考えでもいいんだ」って思えるようになりました。バンドとしても、このアルバムを作るなかでどんどん自信は深まってきました。
宮澤:うん。バンドとしても自信はありますね。「これ、本当にいいのかな」って思うことは少なくなってきました。「これがいい」ってなってきました。
ーーそういう意味では、この2年間のなかでメンバーの皆さんそれぞれにターニングポイントがあったと思うんですけど。
宮澤:私は合宿をやったことかな。みんなといる時間も長いし、いろんな会話もあるし。メンバーとの距離も深まって、音楽に対する考え方も変わったりして。何回かやったんですけど、そのたびに「いいな」って思っていました。
堂免:それこそ、その合宿に行って簡易的なレコーディングみたいなことをしていたんですけど、その録音の作業をできたのが僕にとっては結構大きかったかもしれないです。一人ひとりの音を集中して聴くことができるようになって、「こういうドラムを叩いてたんだ」とか、ギターの入れ方とかを理解できた。それによって自分のベースのプレイも変わってきたかなって思います。
宮澤:ドラムも、途中からテックさんがつかなくなったんです。自分でやったほうがいいってなって。最初は何もわからなかったんですけど、人に聞いたりしながら音の作り方を学んでいって。まだ学びきれていないので「できる」と思ってもできていなかったりするんですけど。そこはこれからがんばりたいと思います。
松本:「わたし」のときからだよね。だから今年の2月くらいから。
ーー意外とスパルタ式なんですね、リュックと添い寝ごはん。
宮澤:何もわからないから「テックさんってすごいんだな」って思って。ドラムのチューニングをするだけで2時間くらいかかっちゃって、メンバーを待たせることもあったりするので、もっと早くできるようにならなきゃって思っています。
松本:いいんですよ。1日かけてもいい。
宮澤:優しいんです(笑)。
堂免:それで理想の音が出るなら、それに代えられるものはないですよ。
宮澤:優しい(笑)。でもそうすることで自分の出したい音もイメージできるようになってきたと思います。
ーーそういう2年間を詰め込んだのが、この『四季』なんですね。
松本:だから曲を集めてアルバムにギュッとまとめたときに「あ、四季だな」って思ったんです。シーズンものの曲が多かったりもしたので、そこは本当にタイトルとぴったりだなと。