リュックと添い寝ごはん、自信が芽生えて変化した制作スタイル 松本ユウ&堂免英敬が明かす、挑戦的なバンドの現在地
昨年、アルバム『四季』にバンドとしての大きな成長を刻んだリュックと添い寝ごはん。年明けのワンマンツアーも最高に脂の乗った状態で走り切ったわけだが、そこを経た彼らはすでに次に向かって走り出している。
その最初のステップとなるのが、立て続けにリリースされた最新の配信シングルだ。まるで原点に回帰するようなストレートなバンドサウンドが強烈な「反撃的讃歌」に、ドラマ『みなと商事コインランドリー2』(テレビ東京系)のエンディングテーマとして書き下ろされた「Be My Baby」。まったく違うベクトルを持った2曲だが、どちらにも今より積極的で挑戦的なバンドの姿がはっきりと刻まれている。
今回は松本ユウ(Vo/Gt)と堂免英敬(Ba)という珍しいコンビでインタビュー。『四季』以降の季節を彼らがどう進んできたのか、そして彼らはどんなふうにしてこの新曲たちを作り上げたのか。いろいろな角度から語ってもらった。(小川智宏)
「一歩進んだ制作になってきたと思います」(堂免)
――アルバム『四季』のリリースからすでに8カ月が過ぎました。年明けに開催したツアーも、お客さんの声出しが解禁されて素晴らしい雰囲気でしたが、アルバムからここまで、どんなことを感じながら進んできましたか?
堂免英敬(以下、堂免):なんか、バンドとして活発になってきているなという印象があって。『neo neo』(2020年)を作ったときは「完成したね、やったね!」っていう感じだったんですけど、『四季』は完成してすぐに「じゃあ次どうしよう」って話をして、本当にすぐに動き出したんです。そういうところも、慣れてきたわけじゃないですけど、バンドの勢いが確立されてきたなって思います。
松本ユウ(以下、松本):『四季』を作って出して、とにかく自信がついたというのが大きくて。今までは「もっと僕らを見てくれ」みたいな状態ではあまりなかったんです。でも『四季』を出したことでもっと今のリュックと添い寝ごはんを見てほしい、もっと曲を聴いてほしいという気落ちがより強くなった感覚がありますね。
――それはアルバム自体に手応えを感じられたから?
松本:それもありますし、ツアーを通して感じたことでもあります。もっと今の自分たちを見てほしいなっていう感覚が強くなりました。
――先ほど堂免さんは『四季』が終わってすぐに次に向かっていたとおっしゃっていましたが、それは具体的にビジョンがあってそこに向かっていった感じだったんですか? それとももうちょっと漠然と前のめりに行こうぜ、みたいな気分だったっていうこと?
堂免:『四季』を作るまでの流れは結構決まっていたんですけど、その後の流れをどうしようかっていうところに移るのがすごく早かったというか。アルバムが完成する直前から「この後どうしようか?」っていう話が出てきて、やりたいこともどんどん増えてきて。それをまとめていく作業をするのがめちゃくちゃスピーディでした。
――その「やりたいこと」っていうのは?
堂免:出したい曲もたくさんあったし、ツアーも控えていて出たい会場もたくさんあるし、っていう。そこまでの道筋を具体的に作っていこうみたいなことでしたね。
松本:今までもそういう目標はあったんですけど、今思うとずっと自信がなかったのかなって思うんです。だからその目標も「いつか出たいね」っていう感じだったんですよ。でも『四季』を作ってからは、みんなが「出よう」というメンタルになっていったので。そこが大きな違いかなと思います。
――そういう意味でも『四季』というアルバムは、リュックと添い寝ごはんにとっては大きな一歩になったんですね。曲作りの中でのバンド内の空気も変わってきましたか?
松本:そうですね。今回リリースした2曲もそうですけど、僕以外のメンバーからアイデアが出てきて、キャッチボールをすることがすごく増えました。それは本当に大きな違いだと思います。
堂免:うん、時にはいい意味で意見がぶつかることも増えてきました。それに対してどう落としどころを見つけていこうか、みたいな。一歩進んだ制作になってきたかなと思いますね。
――そういう中で「反撃的讃歌」と「Be My Baby」ができてきた?
松本:そうですね。
――本当に2曲とも松本さんがおっしゃったような自信が漲っているし、原点回帰のようなところも感じさせるし、でも新しい要素も入っていて、すごくポジティブな挑戦がなされている楽曲だなと思いました。
松本:そうですね。この2曲は作る時期は近かったんですけど、テーマは全然違っていて。特に「反撃的讃歌」はまさに原点回帰で、『青春日記』(2020年)の頃に聴いてくれていた人たちをもう一度振り向かせたいという思いもこもっていたりもするので。そこを常に考えながらやっていました。
――それこそ『青春日記』を作っていた頃と今とでは、自分たちの持っている引き出しも違うし、当然身についている技術も違うし、環境も違うわけですけど、その中で「反撃的讃歌」を作ってみて、どんなことを感じますか?
松本:自分の中の“毒”みたいな部分を『neo neo』を出してからの2年間はあまり出してなかったなって。わりと自分の中の優しさ、温かみみたいなものを曲に昇華していたんだなって、「反撃的讃歌」を作ってより思いました。僕はこんなに日々ムカついているにもかかわらず、それを曲にしてないのは全然素直じゃないなというか。それをもっと曲に起こしていきたいなって、より思いましたね。
――日々ムカついてるんだ?
松本:まあ、生きてればムカつくこともありますし(笑)。
――確かに『neo neo』や『四季』の曲たちはどちらかというと優しさや愛、もっと大らかな気持ちの方に向かっていたと思いますし、それがリュックと添い寝ごはんの表現になっていましたよね。それは、怒りや反骨心みたいな気持ちをあえて押さえ込んでいたということだったんですか?
松本:押さえ込んでいた感覚はなかったんですけど、『neo neo』や『四季』の頃はそういう曲を歌いたい気持ちだったんですよね。ただ、今回の曲を作るときはそうじゃないものを作りたいっていう気持ちになったんです。
「『反撃的讃歌』は高校の頃に曲を作っていた感覚と近い」(松本)
――「反撃的讃歌」はどういうきっかけから生まれてきた曲だったんですか?
松本:就活中の親友がいて、その親友と飲んでいるときに、「就活の中で、自分の存在が否定されている気がする」っていう話をされたんです。それを聞いたときに、今までは支える曲や寄り添う曲を作ってきたけど、そうじゃなくて、この親友を「変える」曲を作らなければいけないと思ったんです。
――そういう気持ちで曲に向かったことは、今までありましたか?
松本:それこそ高校の頃に曲を作っていたときは、わりと等身大というか、自分の思っていることをストレートに書いていた感じがするんですけど、そのときの感覚と近いのかなと思います。
――そうですよね。だから聴いた瞬間に、あえて言うなら2023年版の「ノーマル」みたいな曲が出てきたなと思ったんです。でも今おっしゃったように、今回は誰かを変えるためで、「ノーマル」のときはどちらかというと自分を変えたいという気持ちの方が強かったような気がするんですよね。ベクトルが全然違ってきている感じがする。
松本:ああ、そうですね。でもこの曲も誰かに向けて歌ってはいるけど、結局は自分に歌っているなと思います。
堂免:実は「反撃的讃歌」は、「ノーマル」が完成したちょっと後にサビのメロディだけ存在していたんですよ。でも、どう転がしてもどこか引っかかりのないものになってしまって、「このメロディがあるのにもったいないね」みたいな感じで、半ば諦めというか「ちょっと1回置いておこう」ってなった曲なんです。そこから3年を経て、各々音楽的な知識も増えて、ユウの心情的な変化もあって、いろいろ組み合わされてこの形になったと思うので、そういう意味でもすごく意思を感じる曲だなと思います。
――リュックと添い寝ごはんって、そうやって寝かせた結果よくなる曲が多いですよね。
松本:そう、寝かしがちですね(笑)。
――その“時を待っている”感じがすごくおもしろいなと思います。アレンジを作っていく作業はどうでしたか?
松本:『四季』を出してからはメンバー間でのやり取りも多くなって、最初はいろいろなアイデアが盛りだくさんだったんですよ。それを引き算して作ったんです。それもあっておもしろい展開が多くなったのかなと思います。
堂免:でも、この曲が一番衝突したなって。やっぱりメッセージ性が強い曲だから、みんなそれぞれに進ませたい方向があって。うまくその真ん中を取ったらこうなったっていう感じです。
――堂免さん自身はどういう方向性だと最初は思っていたんですか?
堂免:僕は正直、この曲はめっちゃハッピーな方に行くと思っていたんです。そういう話をして、実際に自分でデモトラックみたいな音源を作って「こういう方向性でどう?」って聴かせてみたりしたんですけど、ユウが「いや、この曲は絶対に真っ直ぐがいい」って。そこから始まって、結果的に一番いい形になったかなって思ってます。