連載『lit!』第86回:ACIDMAN、BUMP OF CHICKEN、Eve……話題作彩る主題歌のロック5選

 週替わり形式でさまざまなジャンルの作品をレコメンドしていく連載『lit!』。この記事では、1月にリリースされた国内のロック作品を中心に、5曲の楽曲を紹介していく。

 今回は、1月から放送開始となったアニメやドラマ、公開された映画をはじめとした映像作品の主題歌というテーマを据えて、BUMP OF CHICKEN「Sleep Walking Orchestra」、ACIDMAN「輝けるもの」、Eve「pray」、ヨルシカ「晴る」、NEE「一揆」をピックアップした。

 テレビや映画館で耳にしたことがある曲を見つけたら、ぜひこの記事をひとつのきっかけとして、それぞれのアーティストや楽曲への興味を深めてもらえたら嬉しい。

BUMP OF CHICKEN「Sleep Walking Orchestra」

 まず、イントロにおけるアイリッシュトラッド風のフレーズにグッと引き込まれる。この曲の要を担うのは、エキゾチックでありながら、同時にどこか懐かしい感覚を与えるバンドサウンドで、その響きは明るさと暗がりが混じり合っていくような、リアルとファンタジーの境が曖昧に溶けていくかのような、不思議な感覚をもたらしてくれる。さまざまな国や地域の楽器を巧みに織り交ぜたBUMP流のミクスチャーサウンドは、今まで以上に自由な広がりを見せていて、2番でエレクトロサウンドに移行する大胆な展開も素晴らしい。豊かな冒険心や遊び心を持ちながら、音楽の新しい可能性を追求し続けていく4人の姿は、間違いなく、後進のロックバンドやミュージシャンにとって、ひとつの指針となるはずだ。

BUMP OF CHICKEN「Sleep Walking Orchestra」

 同曲は、アニメ『ダンジョン飯』(TOKYO MX)のオープニング主題歌として書き下ろされた楽曲であり、この作品とBUMPがコラボレーションすると知った時、〈何でちゃんとお腹が減るの〉(「ラストワン」)、〈なんか食おうぜ そんで行こうぜ〉(「HAPPY」)といった楽曲のフレーズを思い出したファンは多いと思う。BUMPが歌い続けてきた“生きること”と“食べること”は切っても切り離せない関係にあり、それゆえに『ダンジョン飯』との親和性は抜群である。だからこそ彼らは、いつものBUMPの歌、つまり“生きること”の本質に迫る歌を『ダンジョン飯』の世界を彩る楽曲として書き下ろした。今回も数多くの至言が詰まっているが、そのなかでも〈どうして体は生きたがるの 心に何を求めているの/性懲りも無く繋いだ世界 何度でも吐いた 命の証〉という切実さには、強く胸を打たれる。

ACIDMAN「輝けるもの」

 まさに、ACIDMANの真髄を高密度で凝縮したような渾身の新曲の誕生だ。重厚さとスピードの両方を極限まで追求したエッジーなスリーピースサウンドは、過去の曲に照らし合わせると、「Stay in my hand」や「ある証明」、近年では「夜のために」の系譜に連なるもので、本稿執筆時点ではまだライブで披露されていないが、この曲が新しいライブアンセムとしてフロアを熱狂させる光景が、すでにはっきりとイメージできる。また、フルで聴くとよくわかるが、全編を通して静と動の鮮やかなコントラストが際立っていて、そうした緻密で豊かなバンドアンサンブルは、スリーピースという枠を超越しながら、バンド表現の新たな可能性を果敢に追い求め続けてきた彼らの旅路の美しき結実である。

 何より特筆すべきは、デビュー当初からまったくブレることのない大木伸夫(Vo/G)の哲学や価値観、信念を宿した切実な言葉たちだ。ACIDMANは、これまで一貫して、生命の輝きについて真摯に歌い続けてきた。そして同時に、その終着点にあたる死から決して目を逸らすことはしなかった。人は誰しも、いつか必ず死ぬ。それは悲しいことではあるけれど、その切なく儚い真実を正しく受け入れた時に、限りある命はさらなる輝きを放つ。これまで幾度となく繰り返し歌われてきた黄金の生命哲学が、「輝けるもの」という「これぞ」としか言いようのないタイトルのもとで紡がれた今回の新曲は、ACIDMANにとっての新たな金字塔とも呼ぶべき感動的な名曲だと思う。この曲が、映画『ゴールデンカムイ』とのタイアップを通して、これまでACIDMANと出会ったことがなかった人たちに届いていくことが、ひとりのリスナーとして何よりも嬉しく、そして誇らしい。

ACIDMAN - 輝けるもの ( 映画『ゴールデンカムイ』主題歌 )

Eve「pray」

 ドラマ『院内警察』(フジテレビ系)の主題歌である新曲「pray」の作曲と編曲を担ったのは、アニメをはじめとした数々の映像作品の劇伴を手掛けてきた澤野弘之。多様なボーカリストをゲストとして集めるボーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]や、澤野がトータルプロデュースを務めるプロジェクト・NAQT VANEなどの活動を通して、彼が誇る音楽的才能に一度でも触れたことがある人も多いのではないかと思う。このふたつのプロジェクトに通じるのが、澤野の手によって各ボーカリストの新たな魅力が引き出されている点で、それは今回のEveの新曲にも言えることだ。極めてパーソナルな心の内面世界をゆっくりと漂うようなEveの歌声は、かつてないほどに深淵な響きを放っている。また、澤野が紡いだメロディはドラマチックな抑揚や展開を排したものであるが、Eveの歌唱には聴く者の心を静かに震わせるエモーショナルさが滲んでいる。まさに、Eveのボーカリストとしての新たな扉が開かれた一曲であると言える。

pray - Eve Official Audio

 そして、もうひとつの特筆すべき点が、Eveの作詞家としての才能だ。数多の悲しみや不条理に満ちた世界に対して、単に楽観するのでもなく、諦念を抱くのでもない。希望と絶望という相反する感情を往来しながら、そのふたつを等しい距離から俯瞰する達観した視座。それは、昨年末にリリースされた「逃避行」をはじめとした、これまでのEveの楽曲にも通じるものであるが、今回の新曲では、澤野によるダークでディープなトラックと相まって、その視座からの筆致が今まで以上に洗練された印象を受ける。Eveが自らのオリジナル曲において他者による作曲のうえで歌唱と作詞のみを担うというのは今までなかったものであり、澤野とのコラボレーションという新しい経験は、きっと彼のクリエイティビティを大きく刺激したはず。2024年、さらなる大躍進を期待したい。

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