リアルサウンド連載「From Editors」第87回:『ルイーズ・ブルジョワ展』に行き、ママンの脚元で遊ぶ親子を見た話
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
新年、明けました! 第87回は、虫は苦手ですが蜘蛛だけは家の中を散歩していてもありがたいな〜と思いながら眺めるタイプの田中が担当します。
悶々とすることになった『ルイーズ・ブルジョワ展』
前回の連載で「行けたら行く」的な勢いで書いていた『ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ』に、なんと宣言通り昨年行ってきました! ということで今回はこの展覧会について書きます。美術館に行くのは久々、今回はひとりだったのでじっくりゆっくり音声ガイド片手に回ってみました。
ルイーズ・ブルジョワは1911年パリ生まれのアーティスト。幼少期に経験したトラウマ的な出来事をインスピレーションの源とし、インスタレーションや彫刻、ドローイング、絵画など多岐にわたる作品を手掛けた方、とのこと。六本木ヒルズにある大きな蜘蛛の彫刻の作者である、というところでピンときました。あの巨大な蜘蛛は「ママン」という名前の彫刻だそうです。
今回わたしはシンプルに作品の面白さや美しさだったりを楽しむ時間として味わいました。自身と向き合い続けて生涯をかけて創作を続けた彼女の作品にひたすら圧倒された時間だったなあと。
個人的に全体を通して蜘蛛をモチーフにした作品が好みでした。負の感情をまとわない、ブルジョワの愛と優しさを感じる作品だったからかもしれません。蜘蛛を除くと「トピアリーIV」という作品が美しく、好きだなあ、綺麗だなあ、と思ったのですが、解説を読むと、“トラウマを消化させ、作品を作り続けたブルジョワ自身を表しているものといえる”と。なるほどなあ。彼女が負の感情と向き合い、強く生き抜いたからこそ生まれた作品なんだな、と思うとさらに美しく見えました。
とはいえ、全体を通しての解説を読みながら「表現者は苦しみを経てこそ創作できる」というニュアンスの言葉を思い出して、我々受け手はその苦しみの上に立つ作品を楽しんでるわけだよな〜と改めて思ったり。そういう問題提起こそがアートなのか? 見たものそのままを受け止めるだけじゃダメなの? とか、展覧会ビギナーとしては悶々としちゃってました。まあ苦しみを元にした作品が多くを占めているわけではないだろうし、すべてを受け取る必要はなくて、人それぞれの自由な楽しみ方があっていいものですよね。
わたし自身芸術に造詣が深いわけではまったくないし、芸術がなんたるか、アートがなんたるか、というところをあまり考えることのない人生だったので、正直森ビルに行くたびに「ママン」のことを不気味な像だな、としか思っていませんでした。でも、展示を見て「ママン」がどういうものなのか、という知識がほんのりある状態で吸い込まれるように蜘蛛の像を見に行った時に、これまでとまったく違うものに見えたことが個人的な感動ポイントでした。
というのも森美術館を出た先で、母性からくる凶暴性、家族との苦しみを芸術として描いてきた彼女が手掛けた「ママン」の脚元をクルクル回りながらお母さんと娘さんが遊んでいて、なんともいえない感情になりまして。幸せな景色で、いつもだったらただただほっこりする場面だったんですが、頭の中に壮絶な展示が並んでる状態だったからか皮肉めいた美しさと面白さを感じたというか、不思議な光景だったなぁ。
わたしにとってのアート観賞って、そのものを見る/味わうというよりも、それを見た先の感性や考え方の変化を付加価値として楽しめることなのかもと思った一日でした。行けてよかったな〜と思います。
さて、最後に前回つらつらと書いた大好きな麻辣湯のお店の最近の写真をお届けして締めます! これは空芯菜ではない! 相変わらずでした、大好きなお店です。
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