戦慄かなの「ちびっこに希望を与える曲を作れてない」 “4つ目の軸=メジャー”を選んだ心境変化
今年1月に活動休止に入って以降、充電期間を経て9月に復帰……というと2024年の大半を休養していたように聞こえるが、実際は全くそんなことはなく、幅広い活動を展開してきた戦慄かなの。活動休止中にヤングスキニー「ベランダ feat. 戦慄かなの」がヒットしてその勢いのまま復帰、「悪い人」でメジャーデビューを果たした。12月6日にはメジャーデビュー後初となるソロライブも開催し、怒涛の勢いで1年を終えようとしている。いつも危なっかしくて、でも自分のやりたいことを貫き通していて、誰よりもカッコいい戦慄かなのに、今年を振り返りながら話を聞いた。(つやちゃん)
「『ベランダ』がヒットするとは思っていなかった」
――まず活動休止について聞きたいんですけど、「気付いたら何もできない身体になっていました」と発表されていました。どういった背景があったんですか?
戦慄かなの(以下、戦慄):今まではやりたいことがいっぱい湧いてきて、それをやる行動力だけが取り柄だったけど、去年の後半に急に「やりたいことって何だっけ」って気持ちに襲われて。1回休んだ方がいいかな、と決めました。とはいえそれは再び動き出すための休養だったので、なるべく早く復帰しなきゃと思ってて、だから実際はそんなに気が休まるものではなかったんですけどね。でも一応休んだおかげで、自分がやるべきことが整理できた気はする。突っ走りすぎて、周りも置いてけぼりにしてたところがあったので。必要最低限の人たちだけで、もう1回地に足つけてやっていこうというタイミングになった。もう、ひっちゃかめっちゃかになってたんですよ。自分がどの方向でやっていけばいいか、わからなくなってた。
——でも、実際は全然休んでなかったですよね?
戦慄:そうなんですよ~! 本当は休みたかったんですけど、「ベランダ」がヒットしちゃって音楽番組に出演できることになって、「マジかー! 出ないわけにはいかないでしょ!」ということで、それだったらTikTokも動かしたいってなるじゃないですか。それで今度はヤングスキニーのライブにも出ることになり、気づいたら自分の曲とかも作り始めてて……あれ? 活動休止って何だったんだっけ? みたいな(笑)。
——根っからのアーティストだ。
戦慄:でも自分のライブがないだけで、ずっと続いてたプレッシャーからは解放されたから良かった。毎日深夜に練習して次の日のプレッシャーと戦って……みたいなギリギリの労働から一旦は解き放たれて、その分、考える時間ができたし。
——それで結果的に整理したことで、戦慄かなのとして何がやりたいということになったんでしょうか。
戦慄:それが難しいところなんですよ!
——はい(笑)。
戦慄:なんかね、想定してなかったことばかりが起きるんです。「ベランダ」がヒットしてしまったのもそうだし、それでメジャーデビューの声がかかったのもそうで。かやゆー(ヤングスキニー)とその後に「悪い人」を出しましたけど、あれって自分だったら絶対やらないような曲じゃないですか。
——「悪い人」は、「ベランダ」がヒットしたのを受けて、じゃあ同じチームで近い方向性でもう一度やってみようということですか?
戦慄:大人はそう考えてたみたいですよ(笑)。「悪い人」は、ヤングスキニーの「ゴミ人間、俺」のアンサーソングにもなっているんです。というか、「ベランダ」がなんでヒットしたのかいまだに全然わからなくて。TikTokって速くて短い曲だったり、可愛く見えたり、歌詞にパンチラインがある曲がバズるから、長くてスローな曲がヒットするなんてマジで思わなかった。
メジャー進出の決め手「1回ここで人の言うことを聞いてみるのもいい」
——そもそも、なぜメジャーデビューされたのでしょうか。
戦慄:「これが似合うよ」ってみんなが言ってくれるものを素直に一度やってみようと思ったんですよ。それと同時進行で、自分がやりたいことも(別プロジェクトで)やることだってできるし。うーん……でもそうなると、整理するつもりがさらにとっ散らかったってことなのかな。でもファンの方以外は私が何やってるかとか細かく知らないから、もうとっ散らかっててもいいのかなって。
——戦慄かなのが人の言うことを聞くということ自体が、大きな転換では?
戦慄:私は歌に自信がなくて、だからこそダンスをしゃかりき頑張ることでライブのパフォーマンスのクオリティを上げてきたと思ってるんです。でも「ベランダ」や「悪い人」ではマイク1本で歌うようになって、それがすごく評判も良かったりして。私が好きな曲とかよりもずっと評判良いのが悔しいんですけど、だからこそ1回ここで人の言うことを聞いてみるのもいいかなと。丸くなったのかもしれないね。
——かなのさんは、やっぱりセルフプロデュースでDIYなイメージがあるじゃないですか。制作過程においては、折り合いをつけるのが難しいところもあったのでは?
戦慄:えー、そんなの怒られちゃうから言えないけど、いっぱいある! 最近の曲は、自分の中ではまだ物足りないというか、やっぱり私はトラックももうちょっと攻めたのが好きじゃないですか。他にこういう曲はもっと合うアーティストの方がいる気もするし(笑)。歌詞も、今までよりちょっとベタなところを狙ってるし。
——それに対して、かなのさんがディレクションして軌道修正することはないんですか?
戦慄:うーん、「ベランダ」も「悪い人」も、一部を直してよくなるってことではないから。全体の雰囲気がもうそうなっていて、それに乗るか乗らないか、みたいな。あと、いつの時代でも若い子には若い子向けに刺さるものがあるじゃないですか。自分だけが勝手にアップデートして違うとこに行ってるだけかもしれないから、かやゆーの勘に任せてみたんですよ。だから、ファンの方で「悪い人」を聴いてすごく共感したと言ってくれてる人も多くて、そういうのを聞くとやっぱり言うことを聞いて良かったなって思います。戦慄かなの的に、そういう曲ばかりになるのは違うけど。
——今までのようなケンモチヒデフミさんのトラックだと、音も立体的で低域も強く、かなのさんのボーカルも負けないよう強めに出ていました。それがなくなったからこそ、最近は本来の可愛らしい声をそのまま出せるようになってますよね。
戦慄:そう。実際かやゆーも、そういった点を考えてくれたみたいです。か弱い戦慄かなのというか。
——レコーディングは苦労したんじゃないでしょうか。
戦慄:大変でしたね! かやゆーがディレクションに来てくれたんですよ。ゆったりした曲なんだけど、16ビートでリズムを取らないといけなくて難しかったです。しっとりではなくてリズミカルに歌った方がいいって言われて。なかなかうまくいかなくて、頭こんがらがって貧血気味になって最後はもう座りながら録りました。
——音楽番組にも出演されてましたね。アーティストやアイドルに加えて、シンガーとしての肩書きが増えてきた印象です。
戦慄:ひぇ……もう私にはわからんのです……。肩書きって嫌ですよね。どれもしっくりこなくて。でもそうやって肩書きが増えていくのが嫌で、大森靖子さんは「超歌手」って名乗るようになったのかもしれない(笑)。シンガーソングライターとか、絶対言われたくないんだよなぁ。わかる。肩書きなんて全部が違って、全部が恥ずかしい。