連載『lit!』第86回:ACIDMAN、BUMP OF CHICKEN、Eve……話題作彩る主題歌のロック5選
ヨルシカ「晴る」
1月からアニメ『葬送のフリーレン』(日本テレビ系)の新オープニングテーマに起用されているため、すでにこの曲に触れたことがある人も多いのではないかと思う。まだ音源をフルで聴いたことのない人は、suis(Vo)の繊細な歌唱表現に耳を傾けるのと同時に、ぜひ歌詞を読みながら同曲の世界を堪能してみてほしい。特筆すべきは、同音異義語の妙だ。まず、タイトルとして冠されている“晴る”というワード。名詞とも動詞ともとれそうな単語であり、あまり馴染みのある言葉ではないにもかかわらず、不思議と懐かしさを覚える人は多いと思う。まず、日本語特有の情緒を鋭く射抜く言葉の発明にも驚かされる。そのまま、楽曲のなかでこのワードがどのような用いられ方をしているのかを歌詞を読みながら追っていくと、途中から〈晴る〉が〈春〉という馴染み深いワードに少しずつトレースされ始めていくことに気づく。〈晴る〉と〈春〉の関係性については多様な解釈を可能とする余白が残されているが、n-buna(Gt/Composer)は同曲について、「この曲は晴れを書いた曲です。正確には晴れではない状態から晴れを願う曲です。」(※1)というコメントを残している。このコメントを踏まえると、季節(的なもの)の移ろいの切なさや侘び寂びが浮かび上がってくるが、もちろん、答えはひとつではなく、聴く人の数だけ存在するのだろう。ヨルシカの音楽が宿す“文学性”の高さをあらためて思い知らされる、珠玉の一曲だと思う。
NEE「一揆」
2023年に開催された音楽フェスにおけるNEEの存在感は本当に目覚ましいものだった。前々から、彼らはポストコロナ時代を牽引する重要バンドのひとつになると予感していたけれど、その予感は筆者の想像を上回るスケールとスピードで現実のものとなったと思う。そして、この大きな上昇気流に乗ったタイミングで初のドラマタイアップが実現。不敵さや不穏さが混ざり合ったダンサブルなビート、そしてその上を獰猛に駆け抜けるくぅ(Gt/Vo)の歌は、まさに不条理に満ちた世界のなかで清濁を併せ呑みながら生きていくドラマ『闇バイト家族』(テレビ東京系)の登場人物たちの生き様と深く呼応するものである。
この楽曲のなかで何度も繰り返して歌われるのが、“救い”というテーマだ。振り返れば、2023年にリリースされたアルバム『贅沢』のリードトラック「生命謳歌」は、〈生命謳歌、歌います/贅沢に響かせてます/馬鹿になっても僕が歌うのは/貴方を守るため〉という一節が象徴的だったように、この不条理な世界を共にサバイブするリスナーに向けた“救い”のメッセージがそれまで以上に鋭く磨き込まれている印象を与える曲だった。今回の新曲もこの延長線上にあり、自分たちの音楽を愛し、頼りにしてくれるリスナーを救いたいという、彼らの表現者としての深い覚悟が滲んでいるようにも感じた。これまで、多くのリスナーがNEEのロックに救われてきたように、その音楽を通した繋がり合いのスケールは、2024年も日を重ねるごとにさらに拡大し続けていくのだと思う。
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