連載『lit!』第62回:back number、[Alexandros]、blur……今年の夏のライブシーンを沸かすロック新作

 週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。この記事では、7月以降にリリースされた国内外のロック作品を5つ紹介していく。

 今回は、2023年夏のライブシーン/フェスシーンを彩る作品として、back number「怪獣のサイズ」、UVERworld『ENIGMASIS』、[Alexandros]「VANILLA SKY (feat. WurtS)」、にしな「クランベリージャムをかけて」、blur『The Ballad of Darren』をピックアップした。この夏、ライブやフェスの場で初披露され、既にライブアンセムとしての輝きや存在感を放っている楽曲もあれば、来週開催される『SUMMER SONIC 2023』のステージでその真価を発揮するであろう楽曲もある。今夏のライブ/フェスに臨むうえで、この記事がひとつの参考になったら嬉しい。

back number「怪獣のサイズ」

 軽快なモータウンビート。壮大に轟くホーン&ストリングス。そして、それらを推進力としながら鮮やかに響き渡る明快な歌のメロディ。まさに夏にぴったりな爽快なポップチューンではあるが、この楽曲で歌われているのは、〈君〉への恋心をうまく伝えられなかった〈僕〉が胸の内に抱き続ける後悔や未練だ。それは、清水依与吏(Vo/Gt)が最も得意とする主題のひとつであり、今回の新曲を聴いて、真っ先にback numberの代表曲「高嶺の花子さん」を想起した人は少なくないと思う。特に2番の〈ああ 君に恋をしてさ/嫌われたくなくてさ/気付けばただの面白くない人に/違ったそれはもとからだった〉という一節は、まるで「高嶺の花子さん」のセルフオマージュのようだ。今回も胸を締めつけるパンチラインの連続で、それぞれの歌詞が過去形で綴られていることも切なさを増幅させる。また、「怪獣」というモチーフのチョイスも非常に見事だ。根拠のない自信はあるにもかかわらず、一握りの勇気を出し切れない。並々ならぬエネルギーに満ち溢れているにもかかわらず、不器用なあまり、うまく気持ちを伝えることができない。そうした後悔や未練をポップソングへと昇華する手腕は今まで以上に冴え渡っていて、エネルギッシュなサウンドの力と相まって、深く胸を打つ一曲となっている。

 この楽曲は、配信リリース日の翌日8月5日、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023』の場でライブ初披露された。「怪獣のサイズ」は、彼らが誇る名だたる国民的ソングのなかにおいても特に存在感を放っていて、またそのスケールの大きな音像ゆえに、真夏の野外というシチュエーションで非常によく映えていた。今後、この楽曲がハイライトを担っていくようなライブアンセムとなることは間違いないと思う。

back number - 怪獣のサイズ

UVERworld『ENIGMASIS』

 今回のアルバムは、7月29日、30日の2日間にわたって開催された自身初の日産スタジアム公演の直前にリリースされた。今作がバンド史上最大規模のステージで鳴らされることを見据えて制作されたことは間違いなく、実際に同公演においては、新作のナンバーが次々と披露された。BE:FIRSTのSHUNTOを迎え、しなやかでありながら強靭なマイクリレーを届ける「ENCORE AGAIN (feat.SHUNTO from BE:FIRST)」。熱き生き様を刻んだ渾身のリリックをANARCHYと共に容赦なく畳み掛ける「FINALIST (feat.ANARCHY)」。ゲストをフィーチャーしたこの2曲が、各日の公演のハイライトを担っていたのは言うまでもなく、また「VICTOSPIN」や「Don't Think.Sing」をはじめとした新曲群も、フロアを熱狂の彼方へ導くライブアンセムとして壮大なスタジアムの広さに負けない破格の存在感を放っていた。

 それぞれの楽曲に共通しているのは、かつてないほどにストレートなバンドサウンドを堂々と打ち出している点である。それは決して原点回帰の意味だけではなく、これまで絶え間なく独自のミクスチャーロックを追求し続けてきた彼らにとって新たなチャレンジだったと言える。その鋭さと重厚さは、生粋のライブバンドとして無数のステージに立ち続けてきた6人の長きにわたる歩みが新しい形で結実したもので、音源で聴いても、ライブで聴いても、そのタフな響きに心を強く震わせられる。今作には、リスナーへのメッセージをまっすぐ綴った楽曲がいくつも並んでいて、特に〈僕らの この人生は僕らだけのもの/でも このバンドは君の人生でもあるんだね〉と歌う「THEORY」は、リスナーとの熱き連帯を確かめ合う渾身の一曲だ。この曲がバンド史上最大規模のステージで鳴らされた光景は、あまりにも感動的なものだった。

UVERworld『VICTOSPIN』

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