作詞家 森雪之丞、自選詩集に込めた“詩人”の一面 高橋幸宏、布袋寅泰らとの出会いと50年の歩み
楽曲の歌詞や自由詩、ミュージカルの作詞の違い
――ふだん歌詞や詩を書く時のとっかかりは、どういうものですか。
森:歌詞は、なにかの主題歌、タイアップだったら企画の主旨に基づいて書きます。また、アーティストに対して自分の詞を託しても、気持ちがイコールになれなければ意味がないので、歌ってもらって意味をなすのが詞だと心がけています。歌詞は、依頼されて目標やゴールがあるなかで書きますけど、詩に関しては、最初は朗読会をするために書き出したんです。自分が朗読会のキャストという意味では、自分が自分に託している。自由詩は、自分が今伝えたいことや叫びたいことなど、自分から出てきたものを自身で表現すればいい。その違いが大きい。
音楽がなく照明も当たらない。役者が読むわけでもなく、本を手にした人が読んでくださるのは、本当に文字だけ。言葉が一番むきだしになることだから。
――自分に託すといっても、いわゆる私小説的ではないように思います。詩のなかにいるキャラクターに言わせているというか。
森:そのキャラクターたちも全部自分だったりします。絶望しているやつもいれば、絶望のなかで光を探すやつもいる。どこか斜めに見ているやつ、ぶつかって傷ついているやつなど、自分の分身なんだと思います。
――森さんは以前、プログレッシブロックやグラムロックの影響を語られていましたけど、特に好きな詞はありますか。
森:King Crimsonのピート・シンフィールドの詞は、素晴らしいと思います。支配者は愚かだという「エピタフ(墓碑銘)」など今の時代をいい当てていたようだし、彼の予言的な詞は好きでした。また、最近、ボブ・ディランの1978年の来日ライブがいい音質で曲も追加してリイシューされました(『コンプリート武道館』)。彼の詞をわかった気になっていたけど、中川五郎さんの訳詞を見ながら聴くと、歌のなかに役者がいっぱいいるんです。薬の売人や道に迷った少女など、キャラクターが大勢出てくる。その情景を歌いながら、「だけど僕はずっと君のことを思ってるよ」みたいな唐突なサビが出てくるのがディラン節かなと感じます。ピート・シンフィールドの詞にも多くの登場人物がいる。僕はそういったものが好きなんでしょうね。今、実際、自分で芝居を作っているところにも、そういった感性は流れてきている気がします。例えば、『感情の配線』には「瞳を閉じて 青空を見ろ」という詩がありますけど、そこにも様々なキャストが登場する。
高橋幸宏さんなど、2023年は、いろいろな友だちが亡くなったこともあって、はかなさというものを素朴に感じています。僕は政治家に優秀な人はいないと思っているけれど、政治家に限らず人間はみな愚かで、同時にはかない。グラムでも、デヴィッド・ボウイの詞は日本語に訳すとよくわからないものも多いけど、韻を踏んでいたり独特の諧謔や洒落があって、好きな世界です。彼らの描く世界は、自分にはこういうことがあって、誰かを愛してこんなことをしてしまったけれど、結局傷ついて泣いていますという物語の始めの部分が、自分のことから全部始まるのではなく、この世界のなかに自分がいて、自分以外の人たちも見て、それについて綴りながら、でも僕は君が好きなんですと展開していく。その書き方は日本的ではなく、洋楽的な作り方だと思います。そこにとても影響を受けています。
――日本的、洋楽的の一番の違いはなんですか。
森:洋楽は韻の踏み方がお洒落。日本の場合、今は踏むようになりましたけど、以前はそれほどではなかったでしょう。自由詩はまさに韻は自由だけど、どんなリズムを作るかがすごく意味を持つ。『感情の配線』の「SOKOに居た」という詩では、「居た」というテーマと、「いた」という音の入った言葉をどれだけ入れられるかという遊びを混ぜています。テーマと遊びを混ぜるのが、一番好きかもしれない。
――近年はミュージカル関連の仕事が増えていますけど、一般的な歌詞を書くのとはまた違うでしょうね。
森:決まったメロディに物語の進行、説明を入れる必要があるので大変ですが、醍醐味もある。タモリさんが一時期ミュージカルについて「突然歌い出しておかしい」と言っていて、確かにそういうところはあるけど、それを言ったら歌舞伎にだっておかしいところはある。それはそれで1つの面白さでしょう。それが伝わって、ここ数年は日本のミュージカルもテレビであつかってもらえるようになり、お客さんが増えた。でも、しょせん輸入文化です。日本のスタッフは優秀なので、一見つまらなそうな作品でも訳詞を含め、様々なスタッフが一所懸命やっている。でも、日本のオリジナルを作って、ブロードウェイ、ロンドン、韓国に輸出したい思いが自分にはあります。
日本のロックだって昔は洋楽からそのまま影響を受けたようなものがメインでしたが、今ではオリジナリティあふれるロックをやる若い連中がいっぱいいる。ミュージカルもそうなってほしい。今日ここまで話してきてあらためて思いましたが、自分は、シアトリカルなものを書くのが好きなんです。言葉と音楽の両方をわかっている僕みたいな人間が、頑張ってオリジナルを作らなければいけない。だから、自分でオリジナルの脚本を書いて5本作ったんです。厳しい壁はありますけど、これからも作ります。舞台というのはすごく魅力的で、あらゆるアートのジャンルの要素を各スタッフが持ち寄って作りあげる。ステージの規模にもよりますけど、ずっと手伝っている劇団☆新感線だとキャスト、スタッフをあわせて100人くらいのチームです。1人でしっかり詩を書くのも大事だけど、多くの人間が集まり1つのことをやるのも大事。欲張りかもしれないけど、表現者としてその両極の陣地を持つのが、アーティスティックなことだと考えているんです。
――雪之丞という名前は、デヴィッド・ボウイが来日公演で着た山本寛斎さんの衣装に「出火吐暴威」の字がデザインされ、歌舞伎風の演出を取り入れていたことに影響されたそうですね。かつて『雪之丞変化』という有名な時代劇がありましたが、森さんは変化し続けてきました。
森:ボウイに「Changes」という曲があって、変化は自身のテーマでもあった。彼は時期ごとにキャラクターを演じわけ、どんどん変わっていきました。僕も、基本は言葉であるのは同じだけど、表現方法は変わってきている。変化するためには新しい居場所を自分が開拓しなければいけないし、自分の表現を発表できる陣地を増やすのが「Changes」の意味かもしれません。やりたいことをやってきただけですけど、結果としてそうなっている。
自選詩集の後も50周年が控えているので、その前にやっておきたいことがいろいろあります。そのあたりについては、これからスタッフと一緒に考えていきたいと思います。
■書籍情報
タイトル:森雪之丞自選詩集「感情の配線」
発売日:2024年1月14日(日)
価格:2,500円(税別)
サイズ:四六判横
ハードカバー/布装
120ページ
装画:森まりあ
【収録内容】
森雪之丞自身がこれまでに発売した5冊の詩集から厳選。図形詩、戯曲詩を初の書籍収録
<目次>
詩I 14篇
図形詩 10篇
詩Ⅱ 13篇
戯曲詩『夢と旅の図式』5篇による連作詩
詩Ⅲ「生きる、あなたに泣いてほしくて」
販売サイトURL
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4759101721?ref_=cm_sw_r_apan_dp_7Z8MWVTR6J0463RJD9TY&language=ja-JP
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■イベント情報
イベント&オンライン配信(Zoom)
『森雪之丞自選詩集「感情の配線」発売記念イベント
代官山蔦屋書店スペシャル Season.1 森雪之丞トーク&リーディング』
出演者:森雪之丞(著者)
朗読ゲスト:牧野由依、猪塚健太、礒部花凛
日時:1月25日(木)19:00開演(開場18:30)
会場:代官山蔦屋書店イベントスペース
【購入方法】
蔦屋書店イベントページより
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/magazine/38141-1813090106.html
■森雪之丞最新情報
訳詞作品
★ミュージカル「SMOKE」2024年1月23日~3月31日
会場:浅草九劇
https://musical-smoke.com/?page_id=449
★ミュージカル「ボディガード」2024年2月19日~3月3日
会場:東急シアターオーブ他
https://bodyguardmusical.jp/
■ポッドキャスト情報
1月14日正午 Spotify第1回配信開始
https://open.spotify.com/show/24Q499VvnO7NCY2Ysjwshg
※Apple、Amazon、YouTubeからは、順次配信。
■関連リンク
・森雪之丞Official Website:https://www.mori-yukinojo.com/
・森雪之丞自選詩集『感情の配線』特設ページ:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/
・Official Website(コーポレートサイト):https://www.amuse.co.jp/artist/A0027/index.html
・X(Twitter):https://twitter.com/yukinojo_news