『龍が如く』シリーズ音楽の美学 『7外伝』ミュージックディレクターに聞いた制作の裏側

『龍が如く』音楽の美学

ゲーム自体のボリュームも増え、楽曲も倍近く増えた

ーー青木さんは今回ミュージックディレクターを務められたそうですが、ミュージックディレクターというのは、どのような役割なのでしょうか。また『龍が如く7 外伝』では様々なクリエイターの方々が作曲にあたっているかと思いますが、シリーズの楽曲はどういった過程を辿って作られていくのでしょうか?

青木:作品内の楽曲の方向性を固めて、総監督の横山(昌義)やディレクターの堀井(亮佑)などとコミュニケーションを取りながらそれを具体化していくのが私の仕事です。大まかな要望をブレイクダウンして、具体的にしていくことが求められます。また、必要な楽曲数を見積もってリストを作ったりする、制作進行のような作業もあります。「この楽曲は誰々さんにお願いしよう」というような指示も適宜出しています。

 サウンドチームはシナリオがある程度固まって、ゲームがちょっと遊べるようになったころに合流します。必要になる楽曲は大きく分けて3種類あり、「バトルBGM」「ムービーシーンの劇伴音楽」「ミニゲームの音楽」です。サウンドチームが合流する頃には「ここで誰々と戦う」といったシナリオの進行もある程度わかっていますから、必要なバトル曲の数と、それぞれの曲のテイストを考えてまとめていきます。まとまったら、どの曲を誰に作曲してもらうかを決めて、実際にコンポーザーに制作に入ってもらいます。その後は楽曲のデモをチェックし、OKとなったら仕上げを行い完パケ、といった感じです。

 また『龍が如く』はムービーシーンがとても多いゲームで、ボリュームが少ない今回の『7外伝』でも合計60分以上あります。こうしたシーンを表にして、映像の分数に近い尺で、話の展開に沿うような盛り上がり方をする劇伴音楽をひたすら作ります。これは、福田(有理)が中心となって進めていきました。

 そしてミニゲームの曲ですが、『龍が如く』名物のカラオケ楽曲なども含めて、ゲーム開発進行中に新しい曲が必要だったらどんどん追加していくという形です。

ーー制作中に必要な楽曲が増えていくこともあるのですね。

青木:もちろんあります。『7外伝』の楽曲はサントラに収録されていないものまで含めると合計で100曲近くありますが、当初の見積では50~60曲くらいのはずだったんです。ただ予定よりゲーム自体のボリュームも増え、楽曲も倍近く増えたので、途中から「なんかおかしいぞ?」と思っていました(笑)。

ーー『7外伝』は、2016年発売の『龍が如く6 命の詩。』以来の桐生一馬が主人公の物語です。今作ならではの音楽面における全体的な特徴やコンセプトを挙げるなら何でしょうか。

青木:今作の楽曲におけるキーワードとして横山から提示されたのが「ダーク・大人の色気・孤独・悲しさ」といったものでした。また、デザイナーが作ったビジュアルのひとつとして、桐生が独りでタバコを吸う姿の絵がありました。こうしたイメージを元にしてデモ曲を作り、横山に聴かせたところGOサインが出て、作品全体の楽曲のイメージが固まりました。このときにいくつか生まれた曲のひとつが「I’m Fading Away」です。制作の最序盤にデモとして生まれた楽曲ですが、『7外伝』の世界観を表現したテーマ曲として、制作の中盤にはエンディングシーンにこの曲を使うことが決まりました。

ーー『7外伝』ならではのアプローチをあげるとすればどこになりますか?

青木:今作では桐生の戦闘スタイルを「応龍」と「エージェント」の2種から選ぶことができます。「応龍」と「エージェント」の対比を曲でどう表すのか、というところから個々の楽曲の制作をスタートしました。「応龍」は昔ながらの桐生の喧嘩スタイルですので、楽曲テイストも今までの『龍が如く』シリーズで作られてきた雰囲気を踏襲しました。荒々しいエレキギターのリフがメインとなるような曲です。エージェントは表には出てこない裏方・日陰の存在ですので、楽曲もとにかくダークで、かつ荒々しさとは対極のどちらかというと規律正しいものになるだろうと考えました。スパイものの洋画の影響もあり、エージェントの曲にはストリングスやクラシック音楽の音色を多数使うことが決まりました。

ーー『7外伝』の楽曲においてでフィーチャーした音色やジャンル、挑戦的な取り組みはありましたか?

青木:バトルBGMに関しては、先ほど挙げたオーケストラの音と、あとは荒々しいエレキギターのギターリフでしょうか。シーンによっては趣向を変えてエレクトロっぽい楽曲を作ることもありましたし。あと劇伴や会話シーンのBGMに関しては、任侠感や桐生の孤独感を強めるために「泣きのギター」を随所に散りばめたりもしました。

ーー続いて、『7外伝』で流れる青木さんが制作した楽曲についてお話を伺っていきます。「Un altro appassionato」では『龍が如く7 光と闇の行方』の蒼天堀で流れていた「tranquillo」「appassionato」に近い音色が使われていました。こうした過去シリーズからの引用・アレンジはシリーズ作品ならではの要素ですね。

青木:シリーズを通して遊んでくださっているプレイヤーの方にニヤリとしてもらいたいので、こうした引用・アレンジ楽曲を入れることもあります。たとえばシリーズの裏ボスとして登場する亜門一族の曲は、『龍が如く 維新!』のときに吉田(沙織)が作った「Fiercest Warrior」という曲を毎回異なるアレンジにして制作しています。特に、過去にボスで登場したキャラクターの再登場なんかはアレンジ曲にしたくなりますね。

ーーエンドロールでもAmazing Graceのアレンジ曲である「Remember - Arranged Version of Amazing Grace」が流れます。これは初代『龍が如く』のエンディングで「Amazing Grace」が流れたことを想起させるシーンですが、この楽曲の採用の経緯について教えてください。

青木:「I’m Fading Away」をエンディングで流すことはすでに決まっていましたが、長いエンドロールのなかで、流す曲をもう一曲決める必要がありました。いろんなアイデアが出ましたが、初代のエンディングを想起するというのはグッと来る演出ですし、Amazing Graceが持つ楽曲の意味もエンディングシーンに沿っていると考えて採用しました。日本では結婚式などにも使われる幸福なイメージのある曲ですが、欧米ではお葬式などで流す曲でもあり、「暗い・悲しい」というイメージにも沿うレクイエムのようなアレンジで作っています。

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