『龍が如く』シリーズ音楽の美学 『7外伝』ミュージックディレクターに聞いた制作の裏側

『龍が如く』音楽の美学

 セガより2023年11月9日に発売されたゲームソフト『龍が如く7外伝 名を消した男』。本作の世界を彩る全64曲を収録したサウンドトラック『龍が如く7外伝 名を消した男 オリジナルサウンドトラック』のサブスクリプション配信が2023年11月9日より開始しているほか、12月6日には本サウンドトラックのCDも発売された。

 『龍が如く』は、日本の裏社会に生きる極道の世界を描いた人気シリーズ。最新作となる同作は『龍が如く』の外伝タイトルであり、ナンバリング6までのシリーズ主人公である桐生一馬のストーリーが語られる。

 CDの発売を機として今回、株式会社セガで本作のミュージックディレクターを務めた青木千紘氏にインタビュー。『龍が如く』シリーズとの出会いや今作の楽曲制作の舞台裏など、幅広い話を伺うことが出来た。(白石倖介)

『龍が如く』の楽曲は映画の劇伴音楽に近い側面を強く持っている

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ーー前段として、青木さんのルーツについて伺わせてください。ゲーム音楽の作曲を始めたきっかけや、作曲において影響を受けたアーティストなどはいますか?

青木千紘(以下、青木):父母と2人の兄が皆音楽好きで、音楽が常に流れている家庭で育ちました。聴いている曲のジャンルが皆バラバラで、父母はThe Beatles世代で当時の洋楽邦楽問わず好んでましたし、兄はメタルをはじめとする80’s~90’sあたりのロックが好きでした。私は私でエレクトーンを習っていたこともあり、クラシックやジャズにも興味を持っていましたし、もちろん日本のポップスも自然に触れられる環境でしたね。そういう体験のなかで、特定のジャンルの曲が好きというよりも、色んなジャンルの音楽には優劣は無くそれぞれ素晴らしいんだ、ということを何となく感じていたのが幼少期のことでした。

ーーゲーム音楽の原体験については、いかがでしょうか?

青木:小学生になるとゲームをするようになり、当時はスーパーファミコンでよく遊びました。『ファイナルファンタジー』シリーズ(以下、『FF』)の植松伸夫さんの楽曲や、『ドラゴンクエスト』シリーズ(以下、『ドラクエ』)のすぎやまこういちさんの楽曲などに触れたのもこの頃です。『FF VI』や『ドラクエV』、『クロノ・トリガー』の楽曲なんかは、自分で耳コピして譜面に起こしてエレクトーンで音色含め再現しながら演奏する、ということもやっていたくらいハマっていました。当時のエレクトーンの先生が理解のある先生で、「クラシックじゃないとダメ」というような制限は一切言ってこなくて、私が興味を持っている曲でレッスンをしてくださったんですね。「ジャンルに限らず、どんな音楽もすばらしい」という思想は、エレクトーンの先生の影響も大きいかもしれないです。ジャンルフリーなゲーム音楽に触れているうちに、「ゲームの曲ってすごいな、自分もこういった曲が作れたら楽しいだろうな」とゲーム音楽へのリスペクトと憧れを持ち始めました。

 それ以降、自分が良いと思った音楽を雑食的に聴いています。なので特定の音楽ジャンルやアーティストから強い影響を受けた体験は少ない方だと思いますね。その後音大に入学することになりますが、その時にはすでに「ゲーム音楽の道に進みたい」という目標を持っていまして、何とかモノにならなければと、様々な音楽の作曲方法を必死に勉強しました。

ーーその後青木さんは2007年に就職、セガのサウンドチームに所属することになります。2010年に発売した『龍が如く4 伝説を継ぐもの』では初めて同シリーズの音楽制作に携わることになりましたが、当時の状況を教えてください。

青木:入社して3年ほどたった頃のことです。『龍が如く 4』の音楽を担当していた庄司(英徳)から「1、2曲、書いてみない?」と数人ヘルプを頼まれたうちの1人でした。

 当時、私はアーケードゲームの部署にいまして、コンシューマーゲームの部署の情報はあまり入ってこなかったんです。「『龍が如く』っていう、元極道が主人公のゲームを社内で作っていて、すごく勢いのあるチームらしい」くらいの知識しかない状態でした。過去の曲を聴いたり、庄司にディレクションしてもらいながら作りましたが、今まで自分が作ったことのないテイストの音楽ばかりで。入社当初私が得意としていた楽曲はオーケストラっぽいややクラシカルなテイストや、ファンクやソウルの雰囲気を持つ楽曲で、どちらかと言えば「軽やか・きらびやか・陽気」という雰囲気のものでした。対して『龍が如く』に求められたのは「ズンと重くて、シリアス」なもので、「『重厚感』ってどうやって出せばいいんだろう」と悩んだのを覚えています。

 『龍が如く』といえば裏社会というイメージですし、庄司からも「アンダーグラウンドな感じ」というリクエストが飛んできたんです。「アンダーグラウンドって何だろう……歌舞伎町もあまり行ったことないし、ちゃんとしたクオリティのアウトプットが出せないかもしれない……」と不安に思いながらも、過去作の楽曲などを頼りに研究し、なんとかOKをもらえました。

ーーその後『龍が如く5 夢、叶えし者』では『龍が如く』のサウンドチームに正式に合流し、以後シリーズのほとんどのタイトルでサウンドを担当することになります。改めて、『龍が如く』シリーズは重厚な物語、さまざまなバックボーンを持った個性豊かなキャラクターが魅力的です。シリーズの音楽を作る上で青木さんが意識している点、楽曲制作する上で注目するポイントはどこですか?

青木:先ほども出てきた「重厚感」や「シリアスさ」というのはシリーズのメインシナリオに関係する楽曲に共通するテイストですが、仰るとおり本当に個性的なキャラクターがたくさん登場するので、必然的にそのキャラに合った様々なジャンルの楽曲を作っていくことになります。そうすると楽曲もバラエティ豊かなラインナップになるので、結果的に『龍が如く』の曲って、特徴があるようでないような気もしています。

 また、『龍が如く』には街の中を歩いて探索するシーンや、喧嘩をするシーンが頻出します。街を歩くときには雑踏のガヤガヤした環境音が鳴っているし、殴るときには殴打の音も出ます。それとは別にボタンを押したときなどに鳴る「ピッ」というような効果音もあります。そして大前提として、セリフがはっきりと聞こえなければいけません。こうした音の要素に加えて音楽が鳴るので、あまり主張しすぎるとうるさくなってしまうんです。歌モノやメロディがはっきりしている曲は、曲単体で聴いたら楽しいと思いますが、これがゲームのBGMになると情報過多になる場合が多いので、ゲームの中で鳴らしたときにちょうどよく聴こえるよう、他の音とのバランスも考えた上で作曲をしています。そういう意味では『龍が如く』の音楽は、荒々しいようでいて意外と繊細だと思います。これはバトルBGMはもちろんムービーシーンにも言えることで、『龍が如く』の楽曲は映画の劇伴音楽に近い側面を強く持っていると思いますね。

ーーたしかに、『龍が如く』の音楽は劇伴的ですね。

青木:そこは非常に意識している点です。「曲単体で必要以上に目立とうとしない、あくまでゲーム内で鳴っている音の要素の一つ、だけど曲単体で聴いてもなんかかっこいい」そういう音を目指しています。

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