コーディ・ジョンに誘われるレトロ×リアルな理想郷 SIRUPコラボ曲でも際立つ心地よさが癖に

コーディ・ジョンとは?

 トロイ・シヴァンやザ・キッド・ラロイなど、メインストリームの第一線で活躍する世界的なポップアーティストが生まれ続けているオーストラリアの音楽シーンだが、現在21歳のシンガーソングライター/プロデューサー、コーディ・ジョン(Cody Jon)は、まさに今、その流れに乗りつつあるネクストブレイクの筆頭格と言っても過言ではないだろう。

 自身が17歳の頃に発表した2019年のデビューシングル「poison」はSpotifyで100万再生を超えるスマッシュヒットを記録し、昨年リリースされた「Becky’s Plan」と「dirty dancing」はともに200万再生を突破。同年には『SXSW』への出演やタイ・ヴェルデスのツアーのサポートアクトに起用されるなど、今のコーディはアーティストとしてもライブアクトとしても急速な成長を続けている。

 そんなコーディ・ジョンが、日本を代表するR&BシンガーであるSIRUPを迎えた新曲「2MANYTIMES」を11月29日にリリースした。12月6日には待望の初来日公演も予定されており、今後は日本国内でもさらに注目を集めていくことだろう。

1990年代~2000年代前半の心地よさをミックスした理想郷

 2022年に3連作として制作された「Becky’s Plan」、「dirty dancing」、「STAGEFRIGHT」の各ミュージックビデオに登場するVHSやフィーチャーフォン、Windows 98風のデスクトップPCといったアイテムに象徴されるように、コーディ・ジョンのインスピレーションの大きな源は1990年代から2000年代前半のポップカルチャーにある。なかでも、“世界最後のDVDストア”を舞台に、チャーリー(ゲストボーカル)が映る2002年(設定)のVHSの世界へ飛び込むコーディの物語を描いた「dirty dancing」のMVにおける同時代へのリスペクトぶりは相当なもので、ひと目見るだけでその愛の強さを実感できることだろう。

CODY JON - dirty dancing feat. Charley (Official Video)

 また、その音に深く没入してみると、随所に仕掛けられた可愛らしい音色や心地よい音像に近年のベッドルームポップ的な感覚を想起させつつ、その中で優しく響く(自身も大きな影響を受けたという)ブランディといった2000年代のR&Bを彷彿とさせる甘いメロディに酔いしれてしまう。一方で、〈I’m your Swayze.(僕は君のスウェイジ)〉というフレーズや楽曲のタイトルが象徴する通り、そもそもの楽曲のモチーフは1980年代の名作映画『ダーティ・ダンシング』にあるわけで、一つの楽曲/MVの中に数十年分に及ぶカルチャーからの影響が凝縮されているというわけだ。あらゆる時代の“心地よさ”を違和感なくミックスして、現代的でありながらもどこか懐かしさを感じさせるような空間を作り上げてしまう。それが、コーディ・ジョンというアーティストなのである。

 興味深いのは、MVで描かれているようなレトロな世界観に対して、リリックの内容はあくまで現代的であるということだ。自身が監督・編集・ストーリー、さらにはカラーまで担当した「STAGEFRIGHT」では4:3の画角で大きなデスクトップPCを前に、意中の相手にメールを送るかどうかをひたすらに悩むコーディの姿が描かれているが、〈Why you always lookin' at your phone / You know you gotta switch it off(なんでいつも携帯を見ているの?電源を切った方がいいのは分かっているでしょ?)〉と歌うリリックは、明らかに現代の光景を指している。MVの中で必死でメール送信のプログレスバーを止めようとしたり、固定電話の電話線に絡まりながら踊るコーディの姿(どちらも現代では見る機会の少なくなったものだ)は、あらゆる物事が瞬く間に情報として処理されてしまう現代を生きる一人として、昔のゆっくりとしたコミュニケーションに対する、ある種の憧れが投影されているのかもしれない。

CODY JON - STAGEFRIGHT (Official Video)

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