SIRUPは音楽の完成度と共感でシーンを更新していく iri、Skaai、uin……仲間との意欲的なコラボ曲が支持される背景
日本でのR&Bアーティストのポテンシャルを拡張するSIRUPが、iriとのコラボ「umi tsuki」と、Skaai、uinとのコラボ「FINE LINE」の2曲のリミックスを収録した、まさにタイトル通り2023年の夏の終わりにふさわしい『After Summer Remixes』をリリースした。そこで今回はSIRUPのアーティスト性を仲間とともに行う自由なコラボレーションを通して探っていこうと思う。
R&Bボーカルが多く登場した2016~2017年。イベントやライブで顔を合わせる機会も多かったSIRUPがiriと初めて楽曲でコラボしたのが、先日8月23日にリリースした「umi tsuki feat. iri (Prod. Chaki Zulu)」だ。今年3月にはSIRUPがホストを務める読売テレビ企画制作の新音楽イベント『Grooving Night』の1回目にiriがゲスト出演しており、互いのスタンスを理解した上で、満を持してのコラボの実現と言えるだろう。楽曲はSIRUPとiri二人の思い出や実体験をベースにしており、日常のわだかまりや悩みを信頼し合える者同士、共有し合い、それを海に流すように解放することの良さを歌っている。ジェンダーの境界を感じさせない二人の歌声もテーマにしっくりハマる安心感。「スピード上げて」や「もったいない」からの流れも感じさせるChaki Zuluが手がけた、夏らしいスティールパンのリフ、エレクトロニックにアレンジしたラガマフィンのビートが心地よい。
今年4月リリースのEP『BLUE BLUR』の先行配信で話題をさらい、今年のSIRUPを代表する1曲になった「FINE LINE (feat. Skaai) (Prod. uin)」。Skaaiの「Period.」からリスナーとして聴いており、EP『BEANIE』でファンになったというSIRUP。uinとは共通の知り合いであるシンガーTioの存在があり、作品性の奥にある両者のアティチュードに共感してのコラボなのがよくわかる。自身の出自と世界や政治、アートとビジネスの境界線=FINE LINEというテーマをSIRUPとSkaaiがじっくり深掘りできたからこそ、シビアな現状認識を歌詞に落とし込めたのだ。もちろん二人がメロディとラップのスムーズな攻防のスキルを持っているからこそのスリリングでクールな声のコラボが実現したわけで、UKガラージ風のビートとスピード感を持つトラックを作ったuinの慧眼が、スマートだがエッジの効いたメッセージを際立たせてもいる。互いの音楽へのリスペクトに加え、“音楽で今の世界に何を提示できるか?”という問題意識の共有がSIRUPの音楽表現の一つであることがわかる。
シンガポールでトップの人気を誇るR&Bグループbrb.とは2度目のコラボとなる「sad girl」。一度目のコラボはリラクゼーションドリンクブランド「CHILL OUT」の「CHILL OUT MUSICプロジェクト」のために書き下ろした「friends」だったが、コラボの経緯としてはSIRUPのプレイリストの中にbrb.の楽曲があり、brb.のメンバーは日本のR&Bをサーチしている中でSIRUPを発見したという流れ。互いにシンパシーのあるネオソウルなど90年代R&Bを現代にアップデートし、気の置けない友達同士でおしゃべりしているニュアンスに仕上がった。制作後はタイのフェスに2組で出演しており、さらに友情が深まったところで今回の「sad girl」でのコラボが実現。軽快な口笛のリフレインとインディポップテイストのアプローチが穏やかな幸福感を醸し出している。それでいてリリックの内容は自分の手から離れてしまう恋愛のループのもどかしさをbrb.、SIRUP双方の視点で描いたもの。初披露となった『BLUE BLUR』ツアー最終公演や同曲のMVを見るにつけ、微笑ましいほどのヴァイブスの一致を感じずにいられない。
前出の『After Summer Remixes』も一つのコラボ作品と言えるだろう。「umi tsuki feat. iri (Taka Perry Remix)」を手がけるTaka Perryは日本にルーツを持ち、オーストラリア拠点で活躍するプロデューサーで、デンゼル・カリーやJP THE WAVYら数多くのアーティストの楽曲を制作。彼によってグッとヒップホップビートが立ち、フロアで盛り上がりそうなバージョンが誕生した。一方「FINE LINE feat. Skaai (Sam is Ohm Remix)」はKick a ShowやMALIYAの楽曲を手がけてきたことでSIRUPファンにも馴染みのSam is Ohmが煌びやかな上物とハウシーなビートで、こちらもフロア映え必至のリミックスになっている。