2023.12.05 12:00

コーディ・ジョンに誘われるレトロ×リアルな理想郷　SIRUPコラボ曲でも際立つ心地よさが癖に

文＝ノイ村

SIRUPと共にループからの脱出を願う新曲「2MANYTIMES」

　そうしたコーディ・ジョンの魅力は新曲にもしっかりと反映されている。数多ものクラシックを彩ってきたTR-808のビートと、シティポップをも想起させるようなサックスやシンセサイザーの音色が響くムーディな空間が絶妙に交差するサウンドの中で、トラップ以降のフロウが鮮やかに駆け抜けていく「2MANYTIMES」は、まさにあらゆる時代の心地よさをハイブリッドするコーディのセンスが存分に発揮された楽曲だ。プロデュースを手掛けたタカ・ペリー（デンゼル・カリー、JP THE WAVYなど）との相性も抜群で、あくまでコーディらしいレトロな質感やR&Bとの相性の高さを保ちつつ、それでいてSIRUPのラップにもしっかりと説得力を与える見事なハイブリッドサウンドに仕上がっている。

　またしても心地よい音の世界に没頭してしまう「2MANYTIMES」だが、〈Stuck in the loop（ループから抜け出せない）〉や〈もう疲れた〉というフレーズが示すように、楽曲のテーマはさまざまなループにとらわれる中で溜まっていく疲労と、逃避への願望にある。ループをニンテンドーゲームキューブに例えるコーディらしい遊び心はあるものの、両者が抱えている感情はシビアなものだ。現代を生きる中で抱く感情と、あらゆる時代のモチーフを取り入れながら描かれる理想郷のコントラスト。それはまさに、近年のニューノスタルジックの台頭の背景にある現実なのかもしれない。自分らしくいられる居場所を確保して、再び前へと進むのである。

　今回の新曲と来日公演は、コーディ・ジョンの勢いをさらに加速させる大きなきっかけとなるはずだ。コーディが描く世界に、ぜひあなたも足を踏み入れてみてほしい。