Vaundy、『replica』が2週連続トップ10入り 冷静な自己認識と精巧な“複製”技術で成立したアルバム
CD Chart Focus
参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2023-12-04/
12月4日付(11月28日発表)のオリコン週間アルバムランキングによると、ENHYPEN『ORANGE BLOOD』が売上枚数187,856枚で1位を記録。その後、GENERATIONS『beyond the GENERATIONS』が37,696枚で2位、22/7『旅人算』が33,534枚で3位と続いた。
1位から10位までアイドルやダンスボーカルグループ、そしてThe Beatlesのベスト盤が並ぶ今週のチャートの中から、今回ピックアップしたいのは、2週目にして9位と健闘したVaundyの約3年半ぶりとなる2ndアルバム『replica』だ。発表する楽曲がストリーミング累計再生で軒並み“億超え”を記録するなど、いま脂が乗りに乗っているVaundyが満を持してリリースした注目作である。
まずは何と言っても計35曲収録という特大ボリュームが目を引く。時間にして2時間超え、ほぼ映画1本分の長さだ。この常識破りのボリューム感が人によっては受けつけないかもしれない。だが、インタビューなどでも本人から語られている通り、主に新録曲から構成されるDisc1(15曲収録)が従来の意味における“アルバム”であり、残り20曲が収録されるDisc2は「特典みたいなもの」なのだとか(※1)。近年のVaundyはドラマ主題歌やCMソングなどのタイアップがあまりにも多いうえ、それによるヒットも多いため、そこで知ったリスナーのことを考えると既発曲も収録しないわけにはいかない……と言ったところか。それを踏まえると、Disc2とはいえ、特典のように“アルバム”とは切り分けた形で収録しているあたり、作品に対する美学は強いアーティストだと言えるだろう。むしろ、既存の楽曲にたった1〜2曲を加えただけで新作としてパッケージ化する例があることを考えると、そのこだわりの強さには親近感が持てる。“アルバム”に対する美意識と商業的側面を両立させるための一つの手段として、このディスク2枚組のフォーマットは画期的と言えるのかもしれない。
さて、そんなボリューム満点の本作にはそのタイトルの通り、精巧な“レプリカ”(=複製品)とも言える楽曲が並ぶ。
例えば「ZERO」は、主にOasisを始めとした1990年代のギターロック〜オルタナティブロックからの影響を感じさせるギターサウンドが印象的。Disc2の「benefits」に充満する気怠い空気はNirvanaやUSインディーのローファイ感覚と言えるだろうか。Disc1収録の表題曲「replica」はデヴィッド・ボウイへの深い愛を包み隠さず出している。Vaundyはこうした“複製”の技術に長けたクリエイターだ。なかでもラップを取り入れた「NEO JAPAN」は、Vaundyの音楽に対する貪欲な探究心が表れていると言える。
このある種の雑食性は彼の持ち味の一つだ。しばしばVaundyは「自分にはルーツがない」と語っており、強いて言えばその時に聴いている音楽がルーツだという(※2)。狭い範囲に縛られず、様々なジャンルを通過し、それらを自身の作品に取り入れる。その雑多かつ器用なセンスは、古今東西の音楽に簡便にアクセスできる現代に生まれた世代を象徴する感覚と言えるだろう。国も年代もジャンルも関係ない、縦横無尽なリファレンスがZ世代らしい。
しかし一方で、彼の作品にオリジナリティを感じる部分も多い。とりわけVaundyのボーカル表現は、単なる“複製”という言葉では片付けられない独自性があると思う。新録曲から挙げれば、「黒子」の歌い出しで見せる息混じりだが強さを持った独特の歌唱法であったり、一音一音を弧を描くようにフォールさせる特有のニュアンスは、Vaundy節とも言うべき特徴的なテクニックだ。“複製”とは言いつつ、そこには確実に独自の解釈と色が付け加えられている。
また、オリジナルの話とは別に、Vaundyの良さが発揮される場面というのも多数存在する。個人的にVaundyには“陰と陽”で言えば“陰”側の側面にフォーカスした楽曲に色気を感じるのだが、終始淡々としたリズムが続く「宮」や「踊り子」における悶々とした独白のような表現は彼の真骨頂だと思うし、逆に「逆光」や「CHAINSAW BLOOD」のように、吠えるような感情剥き出しのボーカル表現もいい。緩急のつけ方や感情の出し入れが見事で、歌につられて聴いてるこちらの感情も揺さぶられるものがある。