K-POPアイドルはなぜ制服を着るのか? 日本・韓国の文化的背景から考察する“制服コンセプト”が定番化した理由
もうひとつは、世界観を表現する舞台装置としての“学校”が先にあり、舞台に合わせた衣装としての制服という流れだ。2007年にリリースされたSUPER JUNIORの「Wonder Boy」は当時公開されたグループ主演映画『花美男連続ボボム事件』の主題歌で、舞台が高校だったため、ステージでは制服を着たパフォーマンスが多かった。また、韓国でも人気のあった日本の小説および映画『バトル・ロワイアル』をリファレンスしたかのようなTHE BOYZ「MAVERICK」では、“学園ものデスゲーム”というマンガのようなMVの設定からか制服のステージ衣装が多く、メンバー各々が実際に通っていた高校の制服でパフォーマンスするというスペシャルステージもあった。
もう一つは、H.O.T.やSECHSKIESといった90年代の人気アイドルにルーツを辿ることができる、“反抗の象徴としての制服”だ。90年代は、学ランを着ているビジュアルイメージが珍しくなかった。受験戦争や規則の厳しい学校、大人への異議を唱える10代のための音楽として「戦士の末裔」(H.O.T.)、「学園別曲」(SECHSKIES)といった楽曲がヒットしていた当時、制服が“声をあげる10代”の象徴となっていた部分もあるだろう。
これらの“反抗のアティテュード”のコンセプトを2010年代に復活させたのがBTSであり、彼らが“学校三部作”時代に制服を着ていたのは必然とも言えるかもしれない。
学ランは90年代までは韓国でも制服として普通に存在していたというが、『ろくでなしBLUES』(集英社)など日本のヤンキーコンテンツが韓国でも流行した結果、“学ラン=不良”というイメージが定着していき徐々に消えていったという。そうしてできたイメージは、K-POPの世界では今も時折不良やレトロコンセプトとして見ることができる。
この歴史の流れもあり、現在では制服コンセプトといっても“清純”か“反抗”かで対照的なイメージの仕上がりになることが多い。女性アイドルの場合は2010年のmiss A「Bad Girl Good Girl」のように、学校が舞台である中であえてメンバーたちだけが制服を着ないことで“服従しない少女たち”を表すこともできるが、2010年代も半ばに入ると、f(x)やSISTARのように制服を着こなすことであえて不服従の象徴として使っているようにも見える。
近年、特に女性アイドルで制服コンセプトが多いように感じられるのは、大手事務所の場合は2021年ごろから流行しているY2Kファッションのトレンドと無関係ではないだろう。Y2Kとは「Year2000」の略で、1990年代半ばから2000年代初頭に流行したファッションのリバイバルのことである。
今の韓国のY2Kトレンドは映画『クルーレス』のようなアメリカのハイスクールルック、テレビドラマ『フルハウス』のような2000年代初めの韓国的感性、『しゅごキャラ!』『シュガシュガルーン』のような日本の2000年代アニメと大まかに3種類の影響があり、つまりこれがそのまま韓国のユースカルチャーに影響を与えてきた文化圏ということなのかもしれない。いずれもその中に「スクールファッション」という括りがあるようで、『クルーレス』のようなハイスクールルックには「ハイスクール」という呼称もある。90年代後半はアメリカの公立学校でも制服導入が奨励された時期で、制服っぽいオシャレが流行ったようで、ブリトニー・スピアーズが「...Baby One More Time」のMVで制服を着ているのも当時のリアルな空気感を取り入れた結果だという。
aespa「Spicy」、STAYC「Teddy Bear」には明確にハイスクールの影響が感じられる。tripleSの「Generation」には『フルハウス』的感性、「Touch+」には日本の2000年代アニメの影響が見てとれるだろう。韓国の制服が2005年前後に急速にタイトなデザインに変わっていく前は今ほど体にフィットしたデザインではなく、現在のタイトスカートよりはプリーツスタイルのスカートが一般的で、プリーツの形は日本の制服に近かった。
そのような変遷を踏まえると、NewJeans「Ditto」の場合、大人が過去を振り返るという設定からしてプリーツスカートが一般的だった韓国のY2Kの感性をベースにしていると思われる。しかし同時に、全体的な制服のサイジングやカーディガンの着こなし、スカート丈やMV中に登場する私服などからは、日本のY2K的な感性や、2000年代初頭にインターネット経由で韓国で「渋谷系」と呼ばれる日本の音楽(日本で言う「渋谷系」とは少し異なる)が韓国でサブカルチャー的な影響を与えた時代が思い出されるようでもある。この二つのの絶妙なハイブリッドによって、リアルだが現実以上に洗練され幻想化された、ヴェイパーウェイヴ的な“実際には存在しなかった懐かしい時代”のイメージを作りあげているようにも見える。
様々なトレンドやクラシックと融合されながらも、K-POP=韓国のアイドルポップスが“ティーンのための音楽”である限りは、ティーンの象徴とされやすい制服は、ファン層のメインであるはずの10代の共感や、時には10代への憧憬を含む大人たちの視線をも投影した、ファンタジーのための装置として存在し続けるのだろう。
NewJeansの“未完成なティーン像”と日本女性アイドル文化のリンク 異端なコンセプトがK-POPに呼び込んだファン層
NewJeansに熱中し、時にはその音楽性などを解説したりする中高年の様を指した「NewJeansおじさん」というワードをたびた…
SEVENTEEN×セブン-イレブン、NewJeans×ロッテ、Stray Kids×ファミリーマート……K-POP新世代の国内企業CM起用が相次ぐ
SEVENTEEN、NewJeans、Stray Kidsら新世代K-POPグループのCM起用を紐解く。