ラウドロックは世代&ジャンルを越えて広がり続ける 海外メタルシーンの変遷とともに辿る“進化と功績”

スクリーモ&メタルコアの影響でついに動き始める“ラウドロック”

 その少し前、マキシマム ザ ホルモンが『ぶっ生き返す』を、Pay money To my Painが『Another day comes』をリリースした2007年を経て、coldrainが『Final Destination』を、Crossfaithが『The Artificial theory for the Dramatic Beauty』を、FACTが『FACT』をリリースした2009年になると、いよいよ日本でラウドロックに火が灯り始める。とりわけPTPの『Another day comes』は後のラウドロック勢に大きな影響を与えた源流的作品となるが、楽曲はもちろん、激情と深い感傷が一体となったKの歌唱スタイルは、KoЯnの‎ジョナサン・デイヴィスやDeftonesのチノ・モレノを引き合いに出したくなるほど、今聴いても鬼気迫る美しさに溢れている。

Pay money To my Pain【Another day comes】
FACT - a fact of life (Music Video)

 こうした初期ラウドロックの音像に影響を与えたのが、スクリーモとメタルコアだ。

 まずスクリーモに関しては、エモ由来の叙情的なギターフレーズや歌心あるメロディと、サビでのシャウトを特徴とし、2000年代中盤にはアメリカでThe Used、Saosin、Story of the Yearらが大きく台頭。特にcoldrainやSiMの初期の楽曲、『感情エフェクト』(2008年)〜『残響リファレンス』(2011年)あたりのONE OK ROCKには、スクリーモ色が強く感じられる。

Story Of The Year - Wake Up

 続いて、メタルコア。1990年代に登場したHatebreedなどのニュースクール系ハードコアと、メロディアスなギターフレーズを融合させた、“美メロ+シャウト+ブレイクダウン”というのがメタルコアの特徴。Killswitch Engage、Unearth、As I Lay Dying、All That Remains、Atreyu、Shadows Fall、Trivium……など、2000年代初頭のアメリカを中心に多数のバンドが生まれ、Avenged SevenfoldやBullet for My Valentineなど横断的なメタルを特徴とするバンドも、初期の音楽性はメタルコアだった。ちなみに、リズム重視のメタルが当たり前になっている今では、メタルコアは“メタル的な音楽の広義な呼称”として広まっている感覚もあり、2020年代のメタルコアと、誕生当初のメタルコアではだいぶ差異があると言っていい(初期メタルコアを受け継ぎ、アップデートさせている日本のバンドといえばSABLE HILLSだろう)。ラウドロック勢で、早くからメタルコアを確立させていたのはCrossfaithやCrystal Lakeだろうが、coldrainの名曲「The Revelation」を筆頭に、2010年代に入ってからの方がより深くラウドロックにも浸透したイメージだ。

As I Lay Dying - Nothing Left (OFFICIAL VIDEO)
coldrain - The Revelation (OFFICIAL VIDEO)

 そんなメタルコアに続いて、2000年代中盤にはデスコアが登場する。全編にわたるシャウトとデスボイス、メタルコア以上にヘヴィネスを追求したリズムが特徴であり、Job for a Cowboy、Suicide Silence、Whitechapelらがデスコアの代表格。今をときめくBring Me The Horizonも、もともとはデスコアから活動をスタートしている。メタルコアのようにメロディアスなジャンルが誕生すると、その反動で激しさや暴虐性に回帰するデスコアのようなジャンルも誕生するのがメタルの常。メロディが極端に弱いため、ラウドロックへのサウンド的な影響は大きくはないが、今でもデスコアに魅了されてしまうのは、メタルの真骨頂である“怒り”を何よりも生々しく表現しているからだろう。

BRING ME THE HORIZON - Pray for Plagues

 2000年代末〜2010年代に入ると、メタルコアの解釈の幅が広がり、モダンなポストハードコア概念と混ざり合っていく。The Devil Wears PradaやWe Came as Romans、Asking Alexandria、Attack Attack!のように、シンセを取り込んだり、デジタライズされた音像のメタルコア/ポストハードコアの新たなムーブメントが勃興。そんな彼らと呼応するように登場したのがFear, and Loathing in Las Vegas(2008年結成、2010年デビュー)である。オートチューンのボーカル&シャウトから、トランスのようにシンセを縦横無尽に混ぜ込んだサウンド、狂乱のパーティのようなライブまで全てが鮮烈だった。また、シンセ混じりのメタルコアに、和風アレンジやツインボーカルによる語りのオリジナリティを組み込むことで、屈指の名曲「金色グラフティー」を生み出したROTTENGRAFFTYも、(世代的には10-FEETと近いが)2010年代初頭あたりから、いよいよラウドロック的な自由度を全解放し始めたバンドだ。

ASKING ALEXANDRIA - The Final Episode (Let's Change The Channel) Official Music Video
金色グラフティー / ROTTENGRAFFTY

 もう1つ、この時期に登場したバンドで最重要なのがSiMである。結成は2004年、メジャーデビューは2013年だが、なんといってもブレイクポイントは2011年の「KiLLiNG ME」、2012年の「Amy」だろう。パンク、メタル、レゲエ、ヒップホップを自在に行き来するカオティックなソングライティングと、シンガロング必至の開けたサビ、MAH(Vo)の悪魔的なキャラクターのインパクトも相まって、2010年代中盤には単独でアリーナクラスの公演を行うまでに上り詰めた。SiMのブレイクでラウドロックのムーブメントは本格的に着火したと言っていいし、ラウドロックという言葉が内包する音楽的自由度を最も強く象徴するバンドもSiMだろう。

SiM - Amy (OFFICIAL VIDEO)

 また、ここまでで、今に至る主催フェス/イベントを行うバンドがラウドシーンに出揃った。10-FEETの『京都大作戦』やROTTENGRAFFTYの『ポルノ超特急』(今年は『響都超特急』として開催予定)を皮切りに、SiMの『DEAD POP FESTiVAL』、Crossfaithの『ACROSS THE FUTURE』、Crystal Lakeの『TRUE NORTH FESTIVAL』、Fear, and Loathing in Las Vegasの『MEGA VEGAS』、coldrainの『BLARE FEST.』などがその代表例。ラウドなサウンドがロックシーンに根づいていなかった中で、フェスを通して互いをフックアップし合い、自らの居場所を築いていったことは、“ジャンルの壁を越えて手を取り合い団結していく”という、ラウドロックらしい在り方を示す重要な出来事だ。ここで蒔かれた種は次なる世代に受け継がれていくことになる。

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