にしなは日々を超えていく 「婀娜婀娜」で描き切った美しさ、3枚目の傑作『日々散漫』に映るドキュメント

にしな、美しさと日々のドキュメント

 にしな、3枚目のアルバム『日々散漫』。彼女自身が「いろんなところを見てる気がします」と語ってくれたが、まさにその通りのアルバムである。日々を生きること、行き交う人と風景、ちょっと後悔する他者との触れ合い、いつか飲んだホットミルク。そんな、日々を生きるうえで必ず生まれるいろんな気持ちが、とっ散らかったそのままの姿で歌われるアルバムである。その事実に、にしながアルバムを作るうえでの、にしなだけのにしな的な必然があるような気がしてならない。だから、この『日々散漫』を聴いたあとに、『odds and ends』も『1999』も聴き直そうと思える。にしなとは極めて優れた作者であり、アルバムメイカーであり、そんなたしかな実感をリスナーに与えることができる表現者なのである。

 先行配信された「婀娜婀娜」は、アルバムのなかでも特に“日々”に根差した楽曲である。にしなは今何を描き、そして何を歌いたかったのか。その核心を構築するものについて、じっくり話してくれた。(編集部)

やっぱりいちばん気持ちが伝わってくるのは、要素を過ぎ落とした音楽だと思った

――27歳になられて半年が経ちましたが、ここまでを振り返って27歳はどうですか?

にしな:んー、夏からアルバムの制作をしていたので、「まとまっていくな」みたいな気持ちだったかな。楽しく音楽をやりつつ、友達にもよく会っていましたね。27歳としてのライフと、ミュージシャンとしてのライフを、バランスよく両立していた時間だった気がします。

――充実していた、と。

にしな:うん、そうですね。

――27歳は人生や仕事のターニングポイントを迎える人が多いみたいですけど、当てはまります?

にしな:たしかに。当てはまってる気がします。友達に会うと「結婚します」「妊娠しました」「家を建てました」という話を聞くことが多くて。まわりのライフステージが変わっていくのを感じましたね。

――ちなみに、“27歳症候群”という言葉がありまして。27歳前後に仕事、結婚、将来に対する不安や焦りを抱く人が多いらしいんですよ。

にしな:それも当てはまっている気がします。3年半ぶりにアルバムを作っていたのもあって、この先自分がどうやって行きたいのかとか――アルバムに関係なくとも、音楽を続けるなかで何を歌っていきたいのか、どうなりたいのかを、近年よく考えていた気がしますね。あと、あらためて自分が好きなものが何かをすごく考えたりしていて。私は弾き語りから始めて、いろんな側面の曲を作ってきて、音楽を聴く意味でも、自分がやる意味でも、“弾き語り”というほかの要素がないシンプルなものが、原点にして頂点というか。「それが自分は好きなんだな」とあらためて再確認したので、そういう見せ方をずっと大切にしていきたいな、って思いになりましたね。

――そう思うきっかけが何かあった?

にしな:自分の楽曲を振り返ったり、友達やいろんな人の楽曲を聴くなかで、どれもいいんだけど、やっぱりいちばん気持ちが伝わってくるのは、要素を過ぎ落とした音楽だと思ったんです。「そういうものが好きだな」って、今になって自然と思うようになりましたね。

にしな(撮影=木村篤史)

――「要素を削ぎ落とした」で言うと、1月に配信リリースされた「ドレスコード」はまさにそれですね。

にしな:そうですね。「ドレスコード」は、言葉がいちばん届く曲になったと思います。

――この曲は、女性が彼氏とのお別れを描いた楽曲ですよね。MVのコメント欄を見ると「今日はきっとお別れします。お話し合いをしに行きます。今まででいちばん可愛くしてくけど、メイク全部落ちるくらい泣いちゃうと思うけど、前に進めますように」とか「今回のこのぐちゃぐちゃな恋はこの曲で乗り越えようね私」など、「ドレスコード」を通して一歩前へ進もうとする声を散見しました。

にしな:みなさんが自分の状況と重ねながら、曲を聴いてくれている印象は強いですね。私自身、曲を書くうえで「誰かのために」っていう意識は全然ないんですよ。自分がその時に感じたこととか、作品にしたいことを歌って、それに自然と共鳴してくれるのは私にとっていちばん嬉しい形なので、この曲を作れてよかったなって思います。

にしな – ドレスコード【Official Video】

――楽曲の構想は2年ほど前からあったそうですね。

にしな:はい。「ドレスコード」というキーワードをもとに曲を作ろう、と思ったのが出発点で。「ドレスコード」って、素敵な格好をして特定の場所へ行くことじゃないですか。そういう経験をしたことはなかったけど、もし自分が大切な人とお別れをするなら、なるべく素敵な姿でお別れをしに行きたいっていう、シンプルな発想から曲を書き始めました。自分の記憶だったり想像だったりを交えながら、別れをきっかけに前へ進んでいく女性の心情を描いてるんですけど。私はずっと疑問に思っていたことがあって。この曲の雰囲気にそぐわなかったら、アレなんですけど……別れを切り出す時に「幸せにできなくてごめんね」ってセリフをよく聞くじゃないですか。その言葉に全然納得がいかなくて(笑)。別に幸せにしてもらおうとか思ってないし。

――わかる! 恋愛って、相手にそこまでの見返りを求めてないですよね。

にしな:そうそう! 誰かに幸せにしてもらうのではなくて、ちゃんと自分の力で幸せを掴んでいきたい。この曲を聴いてくれる人もそうだったらいいなって気持ちとか、いろんな思いを繋いで歌詞を書いていきました。

――「ドレスコード」の主人公は、彼と過ごした日々を綺麗な思い出として完結させるために、化粧や身なりを整えて、ちゃんとお別れをして互いが前に進もうとする。その歌詞を読んで、素敵な女性だと思ったんですよね。

にしな:嬉しいです。ただ、別れるだけじゃなくて、そこから前に進んでいく様をちゃんと描きたいと思いました。

――「ドレスコード」を聴いて、僕は20代の頃の恋愛を思い出しました。ある日の晩、当時お付き合いしていた方がうちに泊まりにきて、翌朝「じゃあ仕事に行ってくるね」と玄関で彼女を見送ったんですね。そのあとトイレに入って、便座に座ったらドアに張り紙があって「別れましょう、今までありがとう」と書いてあったんですよ。

にしな:ええー! トイレに!? というか、なんでこの曲でそれを思い出したんですか(笑)。その人とはそのまま音信不通ってこと?

――そうなんですよ。「どういうこと?」って聞くのも野暮かなと思って、そのまま連絡をせずに終わりました。何が言いたいかっていうと、ちゃんとお別れを言うのは素敵なことだな、と。

にしな:面白いって言っちゃいけないけど、すごい経験(笑)。

――(笑)。それを踏まえると「ドレスコード」はお別れを描いているけど、悲しみに浸るよりも未来を切り開くための楽曲に感じました。

にしな:そうですね。ちゃんとピリオドを打って進む、というね。それこそ〈全て思い出と綺麗にリボンをかける〉のフレーズは、女性のかわいさもあると同時に、未来に進んでいく美しさも感じられて気に入ってます。あと、先ほど言ったように〈幸せは貰うんじゃなく/私は私で掴もう〉は自分自身も背中を押される言葉なので好きです。〈変わって欲しいとこなんてない/ただ、隣は私じゃない。〉も、気に入ってますね。

――この曲と同様に「ホットミルク」や「ワンルーム」も、部屋のなかで過ごす情景を表現されていますが、「ドレスコード」は主人公が化粧をして家を出るまでの1、2時間が書かれている気がして、そこに新しいアプローチを感じましたね。

にしな:それは新鮮な感想です。それで言うと、MVも外出するまでの1、2時間を表現しているので、そうやって受け取っていただけるのは、映像ともリンクするので嬉しいです。

にしな(撮影=木村篤史)

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