ラウドロックは世代&ジャンルを越えて広がり続ける 海外メタルシーンの変遷とともに辿る“進化と功績”
ラウドの意志を継ぐ新世代
2010年代後半〜2020年代初頭には、メタルコアバンドの世界的なポップ化現象が起こり、EDMやベースミュージックなどポップミュージックの主流を取り込みながら、メタルの音像が再構築されるようになっていく。Falling In Reverse『Coming Home』(2017年)、I Prevail『TRAUMA』(2019年)、Bad Omens『The Death Of Peace Of Mind』(2022年)などがこの手の代表作だが、その最高峰はやはり、Bring Me the Horizon『amo』(2019年)だろう。日本でも、従来のラウドロックにポップパンク、R&B、アンビエントやポップスまで溶け込ませる巧みなソングライティングを持つSurvive Said The Prophetが台頭したり、ONE OK ROCK『Eye of the Storm』やUVERworld『UNSER』(ともに2019年)など非ロック的なサウンドに舵を切ったアルバムが生まれるなど、少なくない影響が見られた。
なお、そうしたメタルのポップ化を経た新世代の中で、今オーバーグラウンドに最も近い存在感を放っているのがPaledusk。ヒップホップやDTMミュージックと、プログレッシブメタルコアとの接続が非常にシームレスで、彼らの手にかかれば両者の間にジャンル的な隔たりなどなかったのではないかと思えるほどだ。ラウドロックが鳴らしてきたものを受け継ぎ、より自由な発想で再構築しているPaleduskの活動は、2020年代以降の国内メタルのニュースタンダードとなり得るだろう。
アグレッシブなメタルコアを武器にヨーロッパ&アメリカツアーを回っている花冷え。も注目株。EDMを取り込んだソングライティングにおいても、シャウトとクリーンを掛け合わせた激情的かつ歌謡的なボーカルスタイルにおいても、マキシマム ザ ホルモン、Crossfaith、Fear, and Loathing in Las Vegasなど脈々と受け継がれてきたラウドロックの正当後継者という趣を強く感じさせる。さらにゲームミュージック、アニソン、ヒップホップなどの影響も満遍なく昇華しているようだ。先日もオランダ最大級のメタルフェス『Dynamo Metalfest 2023』に出演したり、10月にはアメリカの『Aftershock Festival 2023』出演が予定されているなど、すでに海外メタルフェスでは常連となり始めているが、日本のフェスでも今後さらなる活躍が期待される。
ポップスの第一線でラウドロックの影響を花開かせている存在といえば、YOASOBIのAyase。マキシマム ザ ホルモン、coldrain、SiM、Crossfaithなどからの影響を公言するAyaseは(※1)、「セブンティーン」や「アイドル」といったYOASOBIの楽曲でもラウドロックやメタルコア的なエッセンスを開花させ始めている。今年11月には、Bring Me The Horizonがキュレートする大型フェス『NEX_FEST』(マキシマム ザ ホルモンや花冷え。も出演予定)にラインナップされており、2023年はいよいよメタルとYOASOBIが合流する年になりそうだ。
また、Official髭男dismもメタルを取り入れたJ-POPを鳴らしているバンドだ。もともと藤原聡(Vo/Pf)と小笹大輔(Gt)が意気投合したきっかけは、メロディックデスメタルの最重要バンド Children of Bodomの話からだったというが(※2)、例えば「FIRE GROUND」ではチルボド節全開なキーボードとギターソロの激しい掛け合いを聴くことができる。今年リリースされた「ホワイトノイズ」では、いかにもスラッシュメタル的なギターリフからシンフォニックメタル風のアレンジまで炸裂しており、ヒゲダンのメタルキッズぶりに熱狂できる曲になっている。
ラウドロックがフェスを通して影響力を高めていったのに対し、YOASOBI「アイドル」(『【推しの子】』オープニング主題歌)やOfficial髭男dism「ホワイトノイズ」(『東京リベンジャーズ』聖夜決戦編オープニング主題歌)など、昨今のJ-POPはアニメを通して世界に羽ばたくパターンが多い。そこに追随しているラウドロックの筆頭がSiMであり、昨年「The Rumbling」(『進撃の巨人』The Final Season Part 2 オープニングテーマ)が全米ビルボードチャート1位の快挙を成し遂げたほか、マキシマム ザ ホルモンも「刃渡り2億センチ」(『チェンソーマン』第3話エンディングテーマ)でサブスクを解禁。ラウドロックと親和性の高い10-FEETも、結成25周年を迎えた昨年、映画『THE FIRST SLUM DANK』のエンディング主題歌「第ゼロ感」で話題を呼ぶなど、ベテランバンドにもグローバルヒットが生まれているのは嬉しいことだ。
ちなみに余談ながら、国内ラウドロックの火付け役となったPay money To my Painの名曲「Another day comes」も実は『ULTRASEVEN X』(『ウルトラセブン』放映40周年作品)の主題歌であり、特撮好きな筆者はリアルタイムで同番組を観たことが、PTP、そしてラウドロックやメタルにハマるきっかけになったことを綴っておく。
このように、海外のメタルを昇華し、主催フェスを通して団結を高め合い、その中で若手をフックアップしながら後世へと絆を繋いできたラウドロック。ロックシーンに定着する過程にはそれぞれのバンドなりの険しい闘いがあったはずだし、後続への影響という意味でもすぐに結果が出たわけではなかったけれども、現に今、フェスで大きな存在感を確立し、ラウドロックの影響を受けた新興勢力が台頭してきているという点では、蒔かれた種がようやく芽吹き始めたと言えそうだ(そんな年にPTPのドキュメンタリー映画が公開予定というのも感慨深い)。海外から注目度が高まっているSiM、昨年アリーナ公演を成功させたcoldrainなど、新たな追い風が吹いているバンドも増えてきており、音楽面での充実ぶりも相まって、ラウドロックとそれを取り巻くメタルの潮流は、今後さらに面白くなっていくことだろう。
※1:https://www.billboard-japan.com/special/detail/2948
※2:https://youtu.be/PhqGyev61Go?si=9OHE7OQ8-j-4Fc5A
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