『京都大作戦2023』、団結することで取り戻した“全力の楽しさ” 絆を紡いできた10-FEETへのリスペクトが絶えない2日間に

『京都大作戦2023』総括レポート

 泥んこ、泥んこ、ひとり飛ばして、また泥んこ。

 大声で歌い、モッシュやダイブで体中が泥だらけのオーディエンスで溢れ返った、今年の『京都大作戦2023』(7月1日〜2日)。雨が降っていようと、地面がぬかるんでいようと、全身で感情を表現して、10-FEETと分かち合いたいものがあるーーそんな『京都大作戦』本来の美しい光景に、心が揺さぶられっぱなしの2日間だった。観客の数だけ『京都大作戦』にやって来る理由はそれぞれだが、皆が同じ音楽で騒ぎ、歌い、時には知らない人同士でハイタッチして笑顔になったりする。そうやって、音楽が人と人の間にある壁を少しずつ溶かしていくことで、歩んできた人生は違うけれど、どこか似た感情を抱いている者同士で心を通わすことができる場所。それが『京都大作戦』なのだと、改めて実感した。

 こうして文字にしてみると「そんな理想郷がどこに!?」と思ってしまいそうだが、現に『京都大作戦』がそういう場所になれているのは、主催者である10-FEET自身がそういう音楽を鳴らし続けてきたから、ということに尽きる。昨年結成25周年を迎え、映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットも相まって、大きな注目を集めた10-FEET。名は体を表すとよく言うが、“10-FEET”というのはまさにバスケットボールのゴールの高さ(305cm)のことだ。と同時に、楽曲を聴いていると「届きそうで届かない距離」や「言葉は通じても、心からわかり合うことのできないもどかしさ」を表しているのではないかと思ったりする。

 生きていく中でどうしても感じてしまうコンプレックスや劣等感、「あの時どうして言えなかったんだろう」と滲む後悔、気持ちを言葉にすることでかえって人を傷つけてしまった経験、大切な人との唐突な別れ……。否応なしに立ち塞がる現実に負けそうになりながら、「それでも手を伸ばして、一歩でも理想に近づきたい」ともがく人に向けて、そっと背中を押すように音楽を鳴らす。それこそが10-FEETの真髄であり、彼らに共振するたくさんのバンドが集うからこそ、『京都大作戦』にはどこよりも温かい空気感が流れている。

ラウドロックに受け継がれている『京都大作戦』のDNA

 いわば10-FEETと『京都大作戦』は一心同体。10-FEET自身が型にはまらないサウンドでロックの可能性を広げてきたからこそ、『京都大作戦』のラインナップも多彩に広がっていったと言えるだろう。今年は特に、オルタナティブなスタンスでありながらも、心のネガティビティから目を背けず音楽に昇華し続けることで、時代の顔役となってきた個性派が勢揃いした。

 まず、両日の源氏ノ舞台でトリ前を務めた2組が素晴らしかった。1日目に登場したのは、京都で結成され、10-FEETと苦楽を共にしてきたROTTENGRAFFTY。「京都代表のバンドは俺たちなんだ」という気迫と矜持を大作戦のオーディエンスに真っ向からぶつけられることこそ、10-FEETと正々堂々ライバルであり続ける所以。一人ひとりの“生きる証=声”が加わって、完全体となった「金色グラフティー」で夕方の太陽が丘を染め上げる光景は非常に美しかった。対して、2日目のトリ前にはcoldrainが登場し、メタルコア濃度高めな未発表曲を披露してモッシュを煽るというチャレンジングなステージに。巨大な音の渦の中で、内なる葛藤を吐き出すラウドロックの本道とも言えるライブを叩き出し、10-FEETにバトンを繋いだ。

 パンクやミクスチャーロックを礎にしながら、メタリックな音像と“和”なメロディで、ポストハードコア以降のラウドシーンでも存在感を放ってきたROTTENGRAFFTY。自分たち世代の音として意識的にラウドロックの屋号を背負い、結成15周年の昨年にはアリーナ単独公演まで成功させたcoldrain。1日目のFear, and Loathing in Las Vegasや2日目のマキシマム ザ ホルモンもそうだが、この国にラウドなサウンドを根づかせてきたバンドたちは、居場所のないところから新たなスタンダードを築くまで、それぞれ孤独な道のりを味わってきたことだろう。そんな彼らが今、こうしてフェスの中心に立っている背景を辿ると、ラウドロック勃興期に立ち上がった『京都大作戦』の存在も少なからず大きいはずだ。現に開催初期から、牛若ノ舞台でブレイク前のSiMやcoldrainをフックアップしていたことが、10-FEETとの絆に結びついているのは言うまでもないし、彼らが主催するフェスが後のロックシーンを活性化させたことで、『京都大作戦』の存在自体も揺るぎないものになっていった。ともに時代を駆け上がってきた盟友であり、ラウドロック以降によりプレゼンスを高めたROTTENGRAFFTYや、『京都大作戦』の遺伝子を正しく受け継ぐcoldrainが今年の大事な出番を張ることは、ポストコロナ時代において、ロックフェスの原点を取り戻すための団結の証そのものだと感じた。

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