マカロニえんぴつ、“愛”と本気で向き合う覚悟とロックバンドとしてのこだわりを凝縮 2ndアルバム『大人の涙』全曲レビュー

マカロニえんぴつ『大人の涙』全曲レビュー

 マカロニえんぴつのメジャー2ndフルアルバム『大人の涙』が、2023年8月30日にリリースされる。「星が泳ぐ」や「リンジュー・ラヴ」や「愛の波」など、前作以降に発表してきた楽曲8曲と、新曲5曲(本作のリードトラック「悲しみはバスに乗って」を含む)、全13曲が収録されている。

 メジャーデビューがコロナ禍にぶつかったロックバンドの中で──つまりこの3年でメジャーデビューしたロックバンドの中で、もっとも大きな成功を収め、ライブハウスからアリーナまで最速で駆け上がってきたマカロニえんぴつとしては、このリリースによって、さらなる成功が約束されているのと同時に、人気の面でも評価の面でも聴き手一人ひとりにとっての「音楽としての重要さ」の面でも、さらに上のステージに到達できるかどうかが決まる、正念場の作品でもある。

 そんな本作のリリースにあたって、リアルサウンドでは、全曲解説を企画した。以下のテキストが、マカロニえんぴつの、ロックバンドとしての底知れなさを知るガイドになれば、と思う。

1.悲しみはバスに乗って

マカロニえんぴつ「悲しみはバスに乗って」MV

 子供をもうけたばかりの3人家族の〈ぼく〉を主人公として設定し、その彼の独白という形で歌詞が綴られている。

 という点では、『服部』~『SPRINGMAN』の頃のユニコーンで、奥田民生が多用していた手法を借りている。という見方もできるが、ユニコーンのそれがユーモラスなトーンの曲だったのに対し、今のはっとりがそれをやると、こんなにシリアスで、切実で、己の心情を主人公に託してメロディに乗せる曲になる、ということがよくわかる。こんなに重いテーマに正面から向き合った曲を、アルバムの頭に置いたこと自体に、覚悟のようなものを感じる。

 1コーラスごとにバックがコロコロ変わるアレンジ、〈「悲劇は金になるから」〉の部分の極端なブリッジ、サビの唐突な高揚感とサビが終わった瞬間の平熱感など、演奏面でも、マカロニえんぴつというバンドならではの聴きどころだらけ。

 なお、曲の最後がフェードアウトで終わる、というのは、実は今どきめずらしい。本作には、他にもフェードアウトで終わる曲が収められているし、彼らが聴いてきた、70年代前後の洋楽ロックへのオマージュの意味があるのかもしれない。

2.PRAY.

マカロニえんぴつ「PRAY.」MV

 「第95回センバツMBS公式テーマソング」で、2023年3月8日リリースのメジャー3rd EP『wheel of life』の1曲目。

 曲の頭や間奏に、サイレンや歓声などのSEが入っていたり、ホーン風のシンセが応援団のブラスバンドを想起させたり、(プレイボール)というセリフがあったりして、お題に沿った体裁をとっている曲である。

 だが、〈届かなかった夢の、先を走る。走る〉〈敵わなかった夢の、先を走れ。走れ〉というサビに顕著なように、歌全体のトーンとしては、「今闘っている人」というよりも、「すでに負けた人」、もしくは「一度終わった人」に向けて、歌われているように思える。〈ボクら引きずってるのはきっと青春の後味だ〉〈ボクらが担っているのはきっと青春のあとがきサ〉というラインもある。

3.たましいの居場所

マカロニえんぴつ「たましいの居場所」MV

 日産「SAKURA」CMソング。15秒のCMでめいっぱい効力を発揮しそうな……というか、実際に発揮しているのをテレビで何度も観たが、そんな、どキャッチーなサビで始まる曲。

 その次の〈あくせく働いて〉から始まるAメロでダークになり、サビで一気に開放的に爆発する、その間の温度差をBメロできれいに埋めてつないでいく。テンポが倍になる間奏を経て初めて出てくるCメロで、曲の本題が歌われる。そして、三度目のサビで演奏と歌をシンクロさせ、曲自体のドラマ性をブーストさせる。などなど、曲の構成と展開が見事。

 3分21秒という尺に過剰なくらいアイデアを詰め込みながら、コンパクトなポップソングに仕上げている。

4.ペパーミント

 日本テレビ系の朝の情報番組『DayDay.』テーマソング。作曲はギターの田辺由明。ライブのピークに配置されそうなエモーショナルなメロディを、ストレートなギターや、シンプルな8ビートのリズムや、分厚いコーラスワークが彩っていく。

 というわけで、非常に気分よく楽しく聴ける曲なのだが、であると同時に、リリック1行1行に意味が過剰に搭載されていて、かつそれらがわかりやすくひとつのテーマに収斂していく作りになっていない。

 なので、聴く人によって解釈が分かれる、というか、どのようにでも解釈できる。〈なにを選んで何を詠む?〉から始まる後半のブロックが主題なんだろうな、とは思うが。

 〈偽スマイリー〉〈魅せスパイシー〉〈真正スマイリー〉などの、五感を活かすために発明したと思しき造語も多数登場。

5.ネクタリン

 リズムマシンを軸に、MTR(そう、作曲アプリではなくMTRな感じ)で多重録音したデモを、そのままアルバムに入れました、みたいな、異色な曲。

 というか、そもそもなんだ、「ネクタリン」って。という疑問が明かされないまま、曲の後半ではそれが〈寝腐りん!〉に変わったりもする。

 NHK Eテレの『天才てれびくん』のメインテーマソングとして作られた曲なので、普段のタイアップとは違う思い切った方向に、音楽性を振ることができたのかもしれない。というか、こういう機会なんだから、そうしたくなったのかもしれない。

 ただ、そんな、アルバムの中では飛び道具的なポジションの曲であるにもかかわらず、現在の自分たちが置かれている状況に対して思うこと、感じることを、歌詞のあちこちで吐露している、赤裸々かつシリアスな曲でもある。

 あと、曲の頭と最後に入っているクイーカの音は、ユニコーン『ケダモノの嵐』収録の「エレジー」のオマージュだと見た。

6.愛の波

マカロニえんぴつ「愛の波」MV

 テレビ朝日系金曜ナイトドラマ『波よ聞いてくれ』主題歌。そのドラマは、飲み屋で隣り合わせたおっさんに失恋したことを愚痴りまくったら、その音声を勝手にラジオで放送されてしまったことがきっかけで、ラジオのパーソナリティになる主人公の物語だった。つまり、「愛の波」の「波」は、ラジオの電波から来ている。

 イントロは「あ、あのバンド!」と特定できるくらいはっきりと、元ネタからの影響をモロに出すが、Aメロに入った途端に違う曲になる、オリジナルに化ける、という曲を、マカロニえんぴつは時々作る。で、信念を持って、それをやっているフシがある。

 自分たちが影響を受けた先達の存在を世に示したい。できればその音に触れてほしい。だからやる。でもパクリたいわけではないので、曲全体の聴き心地としては、まったく違うところに着地させる、という。

 この「愛の波」もそのパターンで、イントロは、力いっぱいユニコーンである。という曲の始まり方もインパクト抜群だが、歌詞がさらに秀逸。ラジオパーソナリティである主人公の心情を描く歌でもあるし、誰もが自分を重ねられるラブソングでもあるし、人に言葉を伝える、思いを伝えるという行為そのものについての歌にもなっている。

 曲後半の展開の多さ、アレンジのトゥーマッチさ、そのあとに訪れる静けさなども、マカロニえんぴつならでは。ライブの時、本編の最後のMCで、はっとりは「マカロニえんぴつというロックバンドでした」というふうに、「ロックバンド」という言葉を使って、自分たちを紹介することが多いが、こういうことをやるのがロックバンドなんだ、というこだわりが──この曲に限ったことではないが──感じられる。

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