マカロニえんぴつの次なる一手 ドラマ『波よ聞いてくれ』主題歌「愛の波」の唸るしかない完成度

マカロニえんぴつ「愛の波」の完成度

 いや、今じゃないでしょ、この曲を出すのは。まだ早いでしょ。人気急上昇のまっただなかなんだから、このままの勢いで行けるところまで行って、ここまで来れたけどこれ以上進むには新しい何かが必要、ってなった時に、ダメ押しの起爆剤として、世に放つレベルのやつでしょ。メジャー1stアルバムのリード曲じゃないでしょ、そのアルバムの成功はもう見えてるんだから。それより後でしょ、出す順としては。

 以上、マカロニえんぴつが「なんでもないよ、」をリリースした時(なので2021年11月)に、僕が思ったことである。いや、思っただけじゃない。どこかのレビューで書いた記憶もある。が、そのあと早々に、前言撤回せざるを得なくなったのだった。

 「星が泳ぐ」「たましいの居場所」「リンジュー・ラヴ」「PRAY.」と、その後も次々と出る出る、新しい名曲が。一度も「ああ、うん、こんな感じよね」とは思わせない。「うわ、こうきたか」とか「だあ、次はこうか」と、いちいち驚かせる。しかも、でかいタイアップが付きながら、つまり曲や歌詞をしっかりその世界とリンクさせて書きながら、毎回毎回この精度、というのは、相当なもんだと思う。はっとりという男も、マカロニえんぴつというバンドも。

 という中で、4月21日に「ドラマの第1回放送で解禁」という形で世に出た、マカロニえんぴつの次の一手は、「愛の波」。漫画『無限の住人』で知られる沙村広明による原作、小芝風花が主演、バカリズムとの数々の仕事で知られる住田崇らの演出で「テレビ朝日系 金曜ナイトドラマ」枠でドラマ化した『波よ聞いてくれ』の主題歌である。

ドラマ『波よ聞いてくれ』主題歌特別PR映像(30秒ver) マカロニえんぴつ – 愛の波

 歌詞が主人公の鼓田ミナレ、そのものである。〈どれだけ暮らしが惨めだとしても(どれだけ祈りが不甲斐ないとしても)/せめて言葉と想いは使い果たしてゆくよ〉というラインが、すばらしい。「このドラマは人生讃歌である」という制作側の目標に見事にリンクしてくれた。等の賛辞を、小芝風花や住田崇、高崎壮太プロデューサーが公式コメントで寄せている(※1)。

 そのとおりだと思うし、異論はないが、それら以外の側面でも、「これぞマカロニえんぴつ」な、ポップで過剰な楽曲に、今回もなっている。

 たとえば、尊敬する先人からの影響を曲中でわかりやすく表すが、最終的な楽曲の仕上がりとしては、まったく違うところに着地する、という得意技。イントロが力いっぱいGRAPEVINEだが、Aメロに入った途端に別の曲になる「星が泳ぐ」などがその例だが、本作も、正しくそういうものになっている。

 特にこの曲は、ユニコーン成分が強いかもしれない。というか、いつもはっとりが口にするユニコーンからの影響は、方法論としての影響の方が主なので(と僕は解釈している)、ここまで具体的な音楽性として色濃く反映させた曲は、実はめずらしいかもしれない。

 1曲の中に3曲分くらい詰め込まれていてコロコロ変わる、先が読めない曲展開。1コーラス、2コーラス、と、歌の同じバースにさしかかるたびに、フレーズやコードやリズムが変わる演奏。曲を前に進めるためには必ずしも必要のない、曲のそこかしこに大量にちりばめられた、ギターやシンセやドラムのフィルやその他さまざまな音などの、置かれ方、鳴り方、存在のしかた。というふうに混沌と突き進みながら、唐突に歌とピアノとアコースティックギターだけになる、終わり方。もうひとつ言うと、そんなふうに過剰な情報量が詰め込まれていながら「一部分だけ取り出して聴くとめちゃくちゃキャッチー」になるように作られてもいる。ここ、最初は「サビだけ取り出して聴くと」と書いたのだが、曲を頭から聴き直して「いや、サビだけじゃない」と気がついたのだった。

 という、今の音楽シーンで成功するマニュアルにまったく則らない音楽の作り方をしながら、今の音楽シーンにおける成功の道のどまんなかを突き進んでいる、マカロニえんぴつの真骨頂のような曲である。いつもそうか。でも、その、「いつもそう」という事実自体、ちょっと恐るべきことだと思う。

 それから。「ひょんなことからラジオ番組の人気パーソナリティーになってしまう女性の物語」という、このドラマの軸へのアプローチのしかたもいい。特に、ラジオのことを〈覚醒の仕草で拡声の気疲れにも慣れ/誰もが一つの波の音に委ねた〉と表したライン、見事だと思う。ひとりのラジオ好き(なんです、私)として聴いても、唸るしかなかった。

※1:https://realsound.jp/2023/04/post-1296502.html

「愛の波」Official Audio

■リリース情報
マカロニえんぴつ「愛の波」配信サイト
https://tf.lnk.to/ainonami

■番組概要
金曜ナイトドラマ『波よ聞いてくれ』
2023年4月21日(金)スタート
毎週金曜23時15分〜0時15分放送
テレビ朝日系24局ネット(※一部地域で放送時間が異なります)
番組公式アカウント
ホームページ:https://www.tv-asahi.co.jp/namiyo/
Twitter:@namiyo_tvasahi  https://twitter.com/namiyo_tvasahi
Instagram:@namiyo_tvasahi  https://www.instagram.com/namiyo_tvasahi/
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