怒髪天、柳家睦とラットボーンズとの“WBC”ファイナル　信念を持った2組による最高のエンタメショー

　怒髪天と柳家睦とラットボーンズの2マンツアー『怒髪天 presents 2023 WORLD BAKA CLASSIC 決勝』ファイナルが、7月15日に新宿BLAZEで開催。歌舞町のど真ん中で笑いと涙溢れるエンターテインメントショーが繰り広げられた。

「俺らがこれまでやってきたこと、やり方というか、それを伝えたいっていうのがある」

　増子直純（Vo）は対談の時にそう語っていた。「本来は北海道出身の10代、20代の若いバンドに向けなければいけない気持ちなんだろうけど、50代の友達のバンドに対してそう思ってる」と。そこに若さも年齢も関係ないだろう。柳家睦はそれに対して「期待に応えたい」と語っていた（※1）。

　そんな熱き男たちが繰り広げる、熱くて暑苦しいほどの夜になった。

　定刻通りに音を鳴らすは先攻・柳家睦とラットボーンズ。小林旭「熱き心に」のカバーで華やかなステージがスタートする。

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。いいね、いい顔してるね。あと、あっちのほうに物販が……」

　せわしなくも巧みなトークで繋ぎながら「愛と復活の日々」へ。抑揚たっぷりに歌う柳家だが、真顔でキレッキレの動きを見せるダンサー、湯河原ホットブラザーズのズミととくの2人を両脇に従えてのステージ。アコーディオンの花京院亡真、フルートのキシコウジ、ピアノのPumpin' Piano MABO……と、大所帯バンドながら、踊り子・ぢゅんこPOODLEも登場し、早くも情報過多のステージは、もうどこを見ればいいのかわからないにぎやかし状態となった。

　「ひろし！　誰だそれ？　俺たちのひろしと言うたら、五木ひろしだろ！」と、「夜空」を妖しくムード歌謡な香りを漂わせるアレンジでカバー。ショージ ハリスンのリバーブ深めのギターが哀愁的に鳴り、フルートの音色がアーシーに響く。軽快なリズムを紡ぐ中世古大吾のドラムも、グルーヴィなベースを鳴らすダイナマイト後藤も堅実的なバンドアンサンブルの土台をしっかりと作っていく。この日の増子の言葉を借りれば「目からの情報に持っていかれがちだけど演奏バカウマいよね！」。そう、卓越した技術があるからこそどんな曲でもそつこなしてしまう、それがラットボーンズの恐ろしさ。スタジオミュージシャンならぬ、昭和バンドマン気質に慄く。

　昭和香る甘い青春ソング「パンチパーマとオートバイ」を晴れやかに響かせると、「4（公演）連続アウェイ感覚だよ！」と、怒髪天ファンをいじりながらの「バンド稼業テーマ」。ラットボーンズ流の普遍的な歌謡ナンバーでバンドの真骨頂を見せる。ラットボーンズを初めて観るであろう怒髪天ファンも巻き込む、誰もが心をくすぐられるようなな巧みなメロ使いは圧巻である。

　怒髪天とツアーを回ってきて知ったという“暗転”を挟み、「背骨の歪みは心の歪み、治してみせます“おしおきタイム”」。“トー横キッズの中でいちばんヨレヨレのおじさん”と、ボーイのまっちゃんが連れてきたのは、北海道から来たという亀甲縛りされた増子直純……に瓜二つのおじさん。「ラ・バンバ」の陽気なリズムに乗って、ラブホテル先生による愛の鞭。おかげで増子の、いや増子似のおじさんの曲がった背骨はビシっと真っ直ぐに。自由奔放なアトラクションタイムは止まることを知らず。ぢゅんこ、Odile、アヤ.マーメイド、セクシー踊り子さん勢揃いの“おひねりタイム”へ。やんややんやとがっぽり稼いでご満悦のラットボーンズ。

　ikeponの軽快なアコースティックギターのストロークで巻き起こる合唱。「今を生きる」で太い歌声を轟かせながら、〈僕らはみんな生きている〉とコールアンドレスポンスで会場をひとつに……かと思えば、ズミの“ケツ割り箸”による軽快な音が静寂の場内に響き渡り、笑い喝采で新宿BLAZEはひとつになった。

　「LOVE キメる 夏」では情熱的なジュリ扇が舞いに舞い、「ハレルヤ・マイウェイ」はホタテの水着がセクシーに舞い、優雅な夏を感じさせながらラストナンバーは「YOKOHAMAサタデーないと」。爽快なロケンロールで最後を飾り、エンドロール的な「終わりのテーマ」。「おめえら、タオル買ってけよ。Tシャツも買ってけよ。歯磨けよ！」とご満悦の柳家はラストスパートと言わんばかりにコールアンドレスポンスで大団円。最後は1人ステージに残ったikeponが「情熱のムツミ持っているぜ！」の音源ラストに入っているフレーズ〈いんだぜ〉を歌い出す。美しいメロディを美しい歌声で、しかし歌詞が……。ここではとても書けない“とんでもねえ歌詞（増子・談）”をオーディエンスの耳に最後に残して、ラットボーンズのステージは終わった。

　情報量の大渋滞、いや追突事故のようなラットボーンズのステージを受けて立つ怒髪天。前日には同会場で自身のツアー『more-AA-janaica TOUR ～もうええじゃないか、もう～』を大盛況に終わらせた彼ら。出囃子「男祭り」で気合十分、貫禄たっぷりに登場。

「よく来たぁ！」

　高らかないつもの挨拶で始まった「俺様バカ一代」。清水泰次（Ba）の吹く笛に合わせた手拍子に乗せて増子が野太く吠える。坂詰克彦（Dr）の軽快なビートと上原子友康（Gt）の小気味よいフレーズが踊る「ロクでナシ」へと続き、「一択逆転ホームラン」を豪快に放った。

「（ラットボーンズは）すごい情報量で、全然処理しきれないエンターテインメントなので、そこで勝負しても勝てないから直球勝負で」

　飾り気のない直球ストレートなバンドながらも、一人ひとりが卓越したテクニックとセンスを持ち合わせているのが怒髪天の魅力。どっしりと重心が低めながらもタイトな坂詰のビートも、ゴリっとした存在感でボトムを支える清水のグルーヴも、熟練味たっぷりのバンドサウンドを構築する。ロックンロールのリフから華麗なソロまで、次から次へと卓越したスキルを繰り出す上原子。「プレイヤーI」では鮮やかなシュレッドギターソロをキめ、「Go自愛」のトリッキーなパッセージで責め立てていく。そして、3人の重厚なサウンドと増子の感情むき出しの歌声が織りなす「ド真ん中節」を全身全霊に轟かせた。