怒髪天 増子直純が考える、ロックバンドとしての命題 過去作再録&セルフカバーの意義

怒髪天 増子直純、ロックバンドとしての命題

 怒髪天が、現在廃盤となり入手困難になっているインディーズ時代のアルバム2枚を、レアな楽曲とともに2021年Ver.として再録(『リズム & ビートニク’21 & ヤングデイズソング』、『痛快!ビッグハート維新’21』)。さらには錚々たるアーティストに楽曲提供してきた中から、選りすぐりの6曲をセルフカバー(『ジャカジャーン!ブンブン!ドンドコ!イェー!』)。3タイトル全30曲を12月8日にリリースする。

 なぜいま、再録&セルフカバーなのか。いつも時流の中でさまざまな問いかけと気づきを与えてくれた怒髪天が、コロナ禍の制限された活動で導き出したものはなんだったのか。この時世だからこそ考えるロックバンドとしての命題とは? この1年を振り返るとともに、増子直純(Vo)にとことん話を聞いた。(冬将軍)

周りと意見が合わないことに対して、遠慮する必要はない

——コロナ禍の制限ある中で、ライブも制作周りも試行錯誤しながらの1年だったと思いますが、いかがでしたか?

増子直純(以下、増子):みんな過剰に自粛しがちだよね。まあ、俺もこう見えて石橋を叩いて渡るタイプだから、そういう気持ちもわかるけど。ただ、その基準も明確ではないからな。科学的にちゃんと立証されてるわけでもないしさ。そんな中でやっていかなければならない。それはエンタメ業界に限らずだけども、難しいよね。そことの折り合いというか、さまざまなことを考えていく1年だったね。まずメンバー、スタッフがどう考えているのか。その話し合いから始まって。震災のときもそうだったんだけど、そんな機会が一生のうちにまた来るとは思わなかったから。

——コールアンドレスポンスができないライブには慣れました?

増子:慣れたというか、しょうがないと思ってる。でも俺らよりも来てくれるお客さんのほうが声を出せないストレスがあると思う。俺のせいではないとはいえ、観てるほうが100%楽しめる状況ではないということに対して、「申し訳ない」という気持ちがいちばん強い。

——ここ1年、いろんなアーティストのライブを観たり、話を聞いたりして、歓声といったお客さんからのパワーに頼れないぶん、演者としてのライブパフォーマンス自体の完成度を上げていくアーティストが強いなとも感じたんです。

増子:そうだね。ステージ上で完結することがすごく大事で。いわゆるテレビで見ている感覚と同じというか、そこでショーとして完結できるかというところが問われると思う。ただ、それをできることが正解だとも思わないけどね。コールアンドレスポンスありきでやってきたバンドにとって、そこを訂正していくことが正しい進め方だとは思えないから。やむを得ず、だよね。だから、そういうバンドはそこを突き詰めていく必要もないと思うし、前向きに捉える必要はないと思う。イヤなものはイヤだもん。変にわかったつもりになってる人も多いからさ。往生際が悪くていいと思うんだよ。今、このご時世にあった形というのは本当にやむを得ずだと思うから。お客さんとの関係でいうと、遠距離恋愛に入った期間だよね。お互いの気持ちは変わらなくとも、直接触れ合えない。かといって、遠距離恋愛に慣れましたというのも寂しい話じゃない。そこは足掻いていきたいと思うよね。

——それは先日、ライブのMCでも言っていましたね。「イヤならイヤと言っていい」って。

増子:そう、たとえ100人のうち1人だけイヤでも言うべきだと思う。それは権力とかじゃなくて、精神衛生上の問題だからね。周りと意見が合わないことに対して、遠慮する必要はない。それが正義か悪であるかは、時代性によって、まるっきり価値観も変わるわけだから。コロナ禍で陰謀論だの、反ワクチンだのって、それはあっていいと思う。人に押し付けなれば、そいつの意見だし。でも、同調圧力みたいなものをこんなに感じたことはなかったよね。「ライブハウスは悪だ」なんて言われた時期もあったじゃない。いろんなことが勉強になったよね。そんな中で俺たちはライブやったり、新曲作ったりしてきたわけでしょ。「エンターテインメントは心の癒しになる、社会貢献なんだ」という人もいるけど、俺は自分がやってることはそう思わないんだよね。そんな高尚なものでもないから。ただのわがままというか、自分の思っていることを言い散らかしているだけ。でもやっぱりみんな理由を欲しがるんだよ。今は特にそう。自分の行動を正当化したがるというか。しなくていいのにね。それがやりたいことなら、邪道でも間違っていてもいいじゃない、と思うんだけどね。俺は今までもそう思いながら活動してきたし、こういう状況になって、さらにそう思う。

——そこは昔からの怒髪天のアイデンティでもありますよね。言いたいことを言って、自己主張や社会風刺をしても、それを他者に強要をすることはしない。

増子:ロックのできること、素晴らしさと大したことのなさを同時に表すという(笑)。所詮ロックだしな。でも、たかがロックではあるかもしれないけど、それだけで済まない部分もある。俺はやっぱりロックに生きてる人間だから、その力を信じたい。

——聴く人へ気づきを促す、問いかけていく。

増子:哲学とまではいかないけど、見る角度、物ごとの多面性を意識して捉えることの大事さ。それで救われることもあれば、攻めどころがわかったり、避けどころがわかったりする。何でも真正面から向かえばいいというわけじゃないから。そういうものを面白おかしく伝えるというか、やっぱりユーモアが大事だよね。ただ、今まで通りに戻るのもいつになるかわからないし、自分たちができる形を提示しながら、満足度が上がるものをお客さんと一緒に模索していかないといけない。その作業は厄介で面倒臭いものではあるけど、楽しみでもあるんだよね。

——今回、『リズム&ビートニク』(2004年リリース)と『痛快!ビッグハート維新’95』(1995年リリース)を再録してリリースしたわけですが、この2枚は廃盤となったままで、再発されていないアルバムなんですよね。

増子:そう、権利を持っている人が亡くなっちゃったりして、出せないんだよね。でもセットリストにたまに入る曲だから、音源で聴けないというのは、お客さんにとっても俺らにとってもメリットがない。そこは聴けるようにしたいなというのと、やっぱり曲がかわいそうだから。今年は昨年からの流れで、ライブがそんなにできないのかなと思ったし、「レコーディングを多めにして、1年を充実させよう」なんて言ってたんだけど。結局、新春とそのあとが延期になったくらいで、春先くらいから結構ライブができたんだよね。延期になった分が秋にくっついてきて、結局今まででいちばん忙しくなっちゃったな。アルバム3枚分レコーディングして、ツアーも本数が減っているとはいえ、ちょいちょいやってたから、なかなかに活動したね。

——昔の曲をあらためてレコーディングしてみてどうでしたか?

増子:面白かったね。できてないところをあやふやなままにレコーディングしていた部分を再確認して、録り直す。きちんとした形にしていくというのは。いろんな気づきもあったし。そもそも、昔はできてないことがわかっていなかった(笑)。

——再録にあたって、心掛けたことはあります?

増子:自分の好きなバンドが再録したものって、良かった試しがほぼない(笑)。変にアレンジしちゃったりさ。気持ちはわかるんだけどね。でも我々は原曲に近いアレンジでなるべくいじらないようにして。いい音ではあるけど、当時っぽい音で、変にゴージャスになりすぎない。昔の曲をきちんとやっている、というくらいにとどめてはいる。「なんでここ、こんなことしてしまったんだろう」というところが何箇所もあったからね。そこを見つめ直す。歌なんて、テンションだけで録ってるから(笑)。新曲をレコーディングするときは曲を作る(上原子)友康が仮歌を歌っていて、それを俺が聴いて覚えるから正しいメロディが頭に入ってるんだよ。今回はそれがなくて、昔の音源があるから大丈夫だろうと思っていたら、そのメロディが正解じゃないという(笑)。ノリで歌ってる音源しかない。そこから正解を探していかなければならない状況。ただ、あまりピッチを気にして当てにいくと雰囲気が出ないんだよね。だから、そこをある程度にしておくというのは難しかった。きっちりやりたくなるけど、ゆるいところも残しておく。大変だったけど面白かったね。

——自分たちの楽曲を振り返ってみて、発見したことは多かったですか?

増子:若い頃は舐められたくない、若く見られたくない気持ちがあったから、曲がシブいんだよ。今出す曲は、いろんな要素を取り入れながらも、ちゃんと咀嚼して自分たちの形にしてから出すけど、当時はまだそこまでできてないから、何を食ったか原型がわかるうちに出している。ルーツミュージックとか、ブルースだったり、レゲエだったり、ソウルだったり、元の音楽に近いものだから、ちゃんと演奏スキルがないと、グルーヴも出ないんだよ。それをよくわからない状態でやってたんだよね。そこが今この歳になってできるようになったかな。だから、楽曲が浮かばれたじゃないけど、やっとちゃんとした形になったなと。すごくいいものができたよ。

——そこは他のメンバーも同様に感じていた部分ですか?

増子:楽器隊は特にそうだったと思うよ。よく言ってたもんな、「ここ音違うよね?」「違うねえ」って(笑)。わかんなかったんだよ、当時は。舐められたくないから、アレンジも凝りに凝ってるしね。ホント、やらんでいいこといっぱいやってるんだよ、覚えづらいっつーの! やりながら昔の自分たちに言いたいことが山ほどあったよ(笑)。

——歌詞はどうでした?

増子:若いよね。直したいところも山ほどあるけど、さすがに修正できないよ。それは新しくできた友達やら恋人やらに昔の写真を見せるのと同じで、「あのときはこうだった」ってさ、恥ずかしさ込みで。写真と一緒で、いろんなことを思い出すよね。ただ思ったのは、望郷の念が強いな。帰りたかったわけじゃないけど、歌のモチーフとして、心に落ちている影のような部分が自分の故郷を離れたということなんだろうなと知れたね。

——歌に関してもノリだけではなく、メロディへの解釈や表現力だったり、できることが増えたわけですね。

増子:普通は昔の楽曲を録り直すとキーを下げる場合が多いけど、俺はキーを上げてるからね。当時は低かったんだよ。キーなんて考えず、楽曲の雰囲気のコード感を第一に作ってたんだと思うな。今考えるとすごいけどね。ボーカルが歌いやすいことは考えたほうがいいよ(笑)。そこに誰も気づいてなかったという。そりゃなかなか上手く歌えなかったはずだよ。キーが合ってないんだもん(笑)!

——そもそも増子さんのキーは高いですよね。一聴してそう聴こえないけど、実はものすごく高い。

増子:二井原(実/LOUDNESS)さんと同じだからね。声質で高く聴こえないんだけど、カラオケで歌うとわかるよ。ただ、楽器隊には無理させた部分もあるよね。キーを上げたから、押さえづらいコードに行っちゃったりするし。そこをどうするか。その問題も自分たちで解消できるようになったから、頼もしいね。でもそういうことは意図的に学習したものじゃなくて、自然と身についていったものだと思う。自分が好きで興味あってやってきたことだから、多少の苦労があっても勉強だとは思わないしね。

——経験から技術と知識がおのずと身についたわけですね。ちなみに増子さん、喉のケアってどうされてます?

増子:昔はわりと耳鼻科に行ったり、ケアを考えたりもしたけど、今はライブ前に酒を飲まないとか、早く寝るとか、それくらいのことしかしてないね。それでもつぶれないし、調子悪くもならなくなったな。歌い方なんだろうけど、わかってきたんだと思う。「そんな歌い方してると喉潰すよ」って、昔はよく言われたもんな。

——特徴的なボーカルスタイルは意識して作ったものではなく、歌い続けて自然とできあがったものであると。

増子:声にオリジナリティがあるというのは、ボーカリストとして最大の強みだからね。何を歌っても俺の歌になる。声にしてもインパクトはすごく大事だと思ってるから。だけど、そのアクはだんだん強くなってるかもね。気をつけなきゃいけない部分でもあるかな(笑)。

——ボーカルのみならず、他のメンバーも個性の強い“怒髪天の音”がありますよね。

増子:そうそう、俺の声に合わせてるわけじゃないからね。わりとかっちり作ってるところに俺の声が乗っかって、それを壊すというか。過去の曲をやってみて、やっぱりみんな上手くなったんだなぁって、褒めたんだけど……俺のことは褒めないんだよ(笑)。新譜のときは「歌いいね」「よかったよ」なんて言ってくれるんだけど。今回、いくら俺が褒めても誰も褒めてくれやしない。昔より絶対良くなってるわけじゃない? それが当たり前だと思ってるのかな。やっぱりキャッチボールでしょ。返ってくるかと思ったら全然返ってきやしない。俺だけ褒めっぱなしだよ(笑)。

——長年やってきても、褒め合うことは大事だと。

増子:大事ですよ! 長年連れ添った夫婦でも褒め合うことが大事。それをヤツらには教えたいね(笑)。

——本作は古くからのファンには懐かしくもあり、最近ファンになった人にとっては新譜感覚で聴けますね。

増子:そうだと思う。ただ、若い頃に作ったものだから、楽曲自体が至らないところもございますが……。だけど、今と同じ線上にあるものというのは感じ取ってもらえるんじゃないかな。今やらないような楽曲もあるから面白いはずだよ。

——「ソウル東京」とかすごい曲ですよね。昔からこんなことをやっていたんだと。

増子:シブいよね、すっごく難しい曲だから、昔は全然できてなかったもん。歌謡要素が強い曲って、本当にきっちり演奏して、きっちり歌わないと成立しないからね。当時は両方できない状況でやってた(笑)。いいわけないのに、それでいいんだと思ってたから。

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